第9話 街に行く前に



 8日目 13:30 通常ダンジョン4F


 

 「枯れた…………」

 ダンジョンに通い始めてちょうど1週間目の事だった。

 ダンジョンのモンスターがリポップしなくなったのだ。



 俺たちは初日の1Fのスライム狩を早々に終え、2Fの森林地帯、マッドウルフやキラーラビットなんぞも肉ならいっぱいあると先を急いだ。


 3Fの洞窟ゴブリン地帯も、ゴブリンなんて魔石しかとるとこねぇしと素通りだ。

 つうか、3Fのゴブリンなんてサービスか何か知らんけど鑑定すると『チョコレート味』だったんだ。しかも『超臭い』と但し書き。『超臭いチョコレート』って何なんだと突っ込みしか出んかったわ。

 


 そして俺たちは荒野のオーク地帯に籠ったのだった。


 一匹目のオークを倒すときだけはドキドキした。

 アンダくんの弓が通用しなかったら即退却と、4Fの入口付近で身を潜め、はぐれのオークが現れるのをジッとまった。


 2.5mを越える巨体、丸々と太った豚鬼オークが、棍棒を持って歩いて来る。

 デカい、デブい、怖い。

 けど、後続は居ないようだ。

 よし、いこう。

 俺が手で合図を出すと、アンダくんが矢を放つ。

 オークの眉間に小さな穴が開き、

 矢と血飛沫が後頭部から素早く抜けていく。

 貫通した。

 オークは自分が死んだことにも気づかない。

 ただ暫らく虚ろに佇んでから、魂が抜けたように崩れ落ちる。

 派手さも何もない、静かな嘘のような戦闘。

 けれど、これならここでもやっていけると

 俺は胸をなでおろしたのだ。



 5Fにすすむ?

 いや、いや。アンダくんは猟人であって冒険者じゃないんだよ。



 これ以上のモンスターと戦って、もし弓の一射で倒れなかったら、俺たちは全滅だ。リスクを冒す必要はない。

 豚肉オークで充分じゃないか。鑑定すると肉質も『ブランド豚級』と出ている。数こなしたらいい稼ぎになるさ。



 4Fに籠ることをつげると、アンダくんは荒野を大胆に闊歩しはじめた。ここは森ではない。森の動物たちは逃げるけれど、モンスターたちは襲い掛かってくる。俺たちに気付いたオークたちがあっちから近づいてくる。アンダくんは歩を止めず、なるだけ回収が楽になるような位置に来たものからヘッドショットを決めていった。俺はアンダくんについて歩きながら、倒れたオークを回収していった。


 何匹倒した?


 いや、もう数えるのがめんどくさくなって、ただ狩続けたよ。

 RPGの高速レベリングみたく、ただただ狩りまくった。日に100や200じゃきかない。ただ荒野を歩き回って、一周してきたころには次がリポップしていたさ。そしてまた周回する。



 そうしたら7日目にリポップがなくなった。

 浮島にストックしてある瘴気が尽きたのだ。

 こりゃ街にオークを売りに行く前に、一度外に出なくちゃだな。



 光の世界に接続して、魔素と瘴気を補充するのが先になる。




  8日目 14:30 本拠地

 


 枯れた通常ダンジョンから本拠地に戻ってきた。

 

 いま本拠地には1部屋しかないので、その中に全ての機能が詰め込まれている。

 俺たちが守り抜くべき浮島の心臓、サーニアの眠る宝玉とその台座。

 生産ダンジョン、通常ダンジョンへの転移陣。

 人事、内政、転移網作成などを行う執務機能。

 浮島の操舵機能。

 これらはいずれそれぞれ専用の部屋を用意しなければならない。

 


 俺とアンダくんは中央のテーブルの席についた。

 現在の浮島の状況や魔素残量などをサブウィンドウに表示させ確認する。


 人口 3  

 


 これは浮島に来た時も疑問に感じたのだが、もしかしたらサーニア自身も頭数に入っているのかも知れない。本人が眠りに入っているので確認がとれない。利用できる転移陣や施設など使用権限を与える人事のウィンドウを開いても、俺とアンダくんは表示されるが、あとはUNKNOWNと出てくる。


 魔素残量  約880K  瘴気蓄積量 0



 現在、日に15K平均で魔素を消費している。最初に1M魔素の蓄えがあったので残りが、約880K魔素。魔素の使用内訳は、表層の結界維持や温度管理、本拠地のシステム維持に約10K、森林エリアの維持に約5Kといったところ。これから開放する施設が増えていけば1日の消費量も増えていくという寸法だ。夜の世界でじっとしていても魔素は消費する。



 瘴気のほうは最初に500Kの蓄えというか、負債?それが0になった状態。

 こちらは本来溜まりすぎるとダンジョンからスタンピードが起こるというような厄介な代物なのだが、モンスターの乱獲によって補充が必要になるという皮肉な結果になった。



「アイ ハブ コントロール」

操舵機能をアクティヴェイト。

目の前に操縦桿と右腕の下にスロットルが現れる。



光の世界はPK狩場のようなものだ。

自分たちだけなら魔素を補充し、資源を探索し放題なのだが、他国と遭遇すると戦闘が始まる。



俺は緊張を解きほぐすため大きく息を吸い、そして吐いた。

アンダくんは目の前に現れた球状のレーダーに意識を向けた。



「ログイン」

接続を開始し、夜の世界から光の世界へと移動する。

部屋全体に浮島の周囲、氷雪の大地ニブルヘイムが映し出された。



分厚い雲から横殴りに雪が吹き荒れる。周囲は峻険な氷の山々が切り立ち、その谷間に浮島は姿を現した。薄暗い。ここはニブルヘイムの最奥、生物の生存限界ぎりぎりの場所。死の大地ヘルヘイム手前の極寒の地。



レーダーに敵影は映っていないようだ。

俺はひとまず安堵の溜息を漏らす。



スクリーンに映しだされる雪と氷の世界。

本拠地から飛び出して、大自然のパノラマを直接目にしたいという衝動を必死に押さえた。

今は二人しかいないのだ。風景なんてそのうち飽きるほど目にすることになるさ。



 魔素と瘴気の補充をはじめよう。

 そして一応、採取ポイントの探索だ。



 採取ポイントの探索に入った。

 まずは農地の適性は……半径3㎞には……ランク0ばっかか、まあ当然だな。

 森林も……ランク0ばっか。

 地下資源は……ランク1~3。ランク3は既にあるので、

 探索は地下資源に固定してランク4以上に反応するようにセットしておくことにする。



 さて、高度を下げて瘴気の中に身をひそませようか。

 魔素は高度を上げれば上げるほど効率よく集まる。厚い雲を突き抜ければ格段に違いが出てくる。だが今はまだ自殺行為だ。見晴らしのいい場所に躍り出る戦力はない。

 一方大地に近づけば近づくほど魔素は薄く瘴気は濃い。本来は忌むべき瘴気だが、今は稼ぎの算段が通常ダンジョンの乱獲にしかないのだから仕方がない。

 俺は地の底を目指してスロットルを前に押し込み、前進を始めた。

 操縦桿を前に押し込み、高度を下げる。



 うはっ、なんか面白いぞ。

 大きな浮遊体が自分の操作で動くのは、なんか楽しい。

 いつだったか、駅員に変装し電車を運転した奴のニュースを見て、いい大人が何やってんだと思ったことがあったが、いまならアイツの気持ちが分かる。巨大なものを自分で操縦するのは楽しい。

 俺は谷底に向かい、氷の山肌に沿って浮島を操縦した。子供のように夢中になった。



 そうだ、アンダくんにも操縦を練習させなきゃ。

 俺がそう思ったのがたっぷり一時間は操縦に熱中してからの事である。

 スロットルは3段階目まで上げて、速度も出ていた。


「ユー ハブ コントロール」

 俺が操縦権限を送ると、

「アイ ハブ コントロール」

 アンダくんが応えた。

 ま、操縦を楽しんでくれたまえ。

 アンダくんが単語以上の言葉を喋るとなんだか嬉しくなる俺だった。



 一時間当たりの魔素採取量 約250K

        瘴気蓄積量 約220K



 操縦を交代しながら保存食を齧り、20時をまわったころだった。

 探索用のレーダーが点滅した。

 な・ん・だ・と!

 俺たちは温泉を発見した。



 温泉ランク8   肩こり腰痛リウマチに効果大

          美肌効果大

 


 まじ嬉しい、超うれしい。

 採取用の転移魔方陣を打ち込んだら即アクティヴェイトだ。

 維持コストとかどうだっていい。最優先事項だ。

 


 早よ行け、やれ行けとアンダくんをせかした。

 そしてくの字くの字に谷間を抜けて、真正面に目的の氷山が見えた。



 中央の台地に温泉がある。

 ズームだズーム。

 サブウィンドウを開いて、温泉を拡大表示していく。


 人影?…………女?…………ロリ…………巨乳だと!



 乳白色の湯に浸かる栗色の髪の幼い美少女。しかし、濁った湯の中に消えていく谷間のラインは、彼女がただ者ではないことを物語っている。聖なる頂は湯の中に消えて見えない。


 八合目まで登ったとしても山を極めたことにはならんですたい。


 見えそで……見えない……このじれったさ。


 あ、録画するの忘れた。

 やばい、やばい。録画ポチッ。

 

 俺は知っているんだ。全部見えたからって、ふ~ん、そんなもんだよね。と変に醒めちゃうことを。しかし、見たい。それでも見たい。……いまチラリとしたのは影なのか、聖なる頂を支える輪っかの端なのか…………うむ、後でコマ送りで精査だな。決定的瞬間は永久保存だ。

 


 うん?美少女の隣に尻だと!


 誰の尻だ?…………ぐはっ男か!


 ガバリと白い湯が撥ね、潜って遊んでいたであろう金髪の美丈夫が姿を現した。

 モザイク処理だモザイク。

 立ち上がった股間のパオ~ンは後で要モザイク処理だ。


 少女がこちらを指さし口をパクパクさせる。

 ヤベッ見つかった。


 男がまっぱで大きく手を広げ、おーいおーいとリアクションする。

 少女が虚空になにやら流れるように文字を書き右手を上げる。


 え、みえた?……乳白色の湯から上半身を出したが左手でがっちりその頂を守っている。


 8合目までしか……登れないのか……俺は……涙の向こうに左手に守られた、たわわな果実がゆれる。……だが……下乳は……目に焼き付けた……心に刻んだ!



 少女の右手の指先から風が起こり、温泉の湯けむりを巻き上げ、空に文字が浮かび上がる。



 SOS



 はっぁ?SOS?しかもローマ字…………転生者か…………

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