第4話 ガチャひいてみる


 UR武将ぱねぇぇぇぇ!

 武力と運以外は表示が真っ赤だ。真っ赤っか。


 諸葛亮なんて軍師だよ軍師。

 なのに武力65前後て、そこそこ戦えるんじゃね?

 手にふさふさと気持ちよさそうな羽扇をもってるだけなのに、俺よか強いとか。

 序盤に配下にできたら超楽じゃん。

 欲しい。マジで欲しい。


 SSRの関羽さんもスゲーわ。バランスいいし、何でも卒なくやってくれる。

 SRの張飛くんは使いどころが限られるけど、戦闘だけならピカイチだ。



 孔明先生、欲しいぜと俺が熱い視線を送っていると。

 3人の蜀の武将たちはお互いに目配せをして、うなずき合い、孔明先生、関羽さん、張飛くんの順に、声高らかに叫びだした。


「漢室再興さいこう!」

「漢室再興さいこう!」

「漢室最高サイコー!ひゃっふぅ!」


 張飛くん、「ひゃっふぅ」ってなんやねん。「ひゃっふぅ」て。

 と俺が心の中で突っ込みを入れていると、三人は光に包まれて消えていった。



「いま見てもらった3人が、上位ランクの眷属アルね」

 眷属のランクは、URを最上位にして、SSR,SR,R,S,A,B,C,D,Eの十段階あるのだそうだ。

 出現率はランクが1つ下がる毎に2倍。つまり通常のガチャでURを引く確率は1/1023。およそ千回に一回の確率となる。



 今から俺は眷属ガチャを回し最初の臣下を貰う。

 そして彼女の眷属を束ね国を繁栄させていく。

 国民が増えれば、彼女の力の源である信仰が集まる。

 今では力を失い、大きめの虫くらいでしかないサーニアだが、本来の力を取り戻していけば、さらなる祝福ガチャを俺たちに与えてくれる。

 さらに、眷属を失い自我を失って地を瘴気で呪っている「まつろわぬ神」たちを封神し、いずれは人々が失った大地を開放してくれるというのだ。

 俺たちも他の国々を吸収し、その国々の神々を「まつろわぬ神」にすることなく封神し、ヴァルハラへと送る。

 戦乱によって呪われた大地を開放し、本来の姿を取り戻すことが俺に与えられた使命だ。



「さっきの孔明先生とか、マジ欲しいんだけど」

「はわわさんアルか?」

「そそ、そのはわわさん」

「それは無理アルね。さっきの三人はもうすでに他の神の眷属が引き当てて臣下にしてるアル」

な・ん・だ・と!


「能力だけは同じアルが、今は名前も姿も違ってるアル。だから名前は伏せたアル。2人は巨乳の美人さんだし、1人は「はわわ、はわわ」言ってる小娘アルね」

し・か・も・女体化だと!

けしからん!


 俺だって張飛を女体化して、「張飛・禁則事項」くらいの名前つけて、

「普通の武将には興味ないわ。宇宙とか、未来とか、異世界の呂布、居たら一騎打ちしなさい」

 とか言わせてみたかったぜ。



 

 それから俺は、サンプルにEランクまでの武将をサーニアに見せてもらった。

 中には気になる武将なんかもいて、どんな運用をするかを考えるのは楽しめた。だが、ランクが下がるにつれ物足りなさを感じるのは仕方のないことだった。

 やはり孔明先生のインパクトが強烈すぎたのだ。

 

 URか……千分の一とか……まず無理だわ。


「じゃじゃ~ん。ではそろそろ眷属ガチャいくアルよ~」

 

 孔明とか関羽とか引いたヤツ、神がかった引きだよな。


「ここで重要なお知らせがあるアルよ。な、な、な、なんと今回のガチャは、初心者応援キャンペーンガチャ、SR以上確定アル~ひゅ~どん、どん、ぱふぅ、ぱふぅ」

 な・ん・だ・と!


 1たす2たす4は7だから……

 URが1/7で、SSRが2/7、SRが4/7 

 孔明級、関羽級、なくもない!



「しかも!初回に限り臣下は絶対に裏切らないアル。タナカさんがどんなにダメダメな君主でも、絶対に見捨てないアル」


 ヤバイ、ここで呂布なんて引こうものなら……

『寝首をかかない呂布』だぜ……

養子にしてはいけない人ランキングぶっちぎり1位の呂布を……

養子にできてしまうじゃないか。

 胸熱だ!



「これを用意するのに5センチも背が縮んだアルよ。では、いくアルよ。宝玉に手をかざして~」

 俺はサーニアの指示に従って、目の前に現れた宝玉に手をかざした。

「一緒に唱えるアルよ~」

 そして詠唱をはじめた。



【ヴァルハラに集いしエインヘリアルよ。我が王国にとこしえの栄光を与えよ】


 虹色こい、虹色こい。



 目の前に大きな黒いもやもやが現れ、さらに大きく広がっていく。


 ――あの黒いもやもやが集まって光だすんだな。

 黒いもやもやは、もやもやとしながら広がっていく。


 ――そろそろ集まり出すんって、なんか大きすぎないか?10Mはあるんだが。

 さらにもやもやは大きく広がり、中にはぬめぬめ黒光りする何かが


 ――変なウネウネが見えたんですけど、今!

 山のように広がったもやもやの中から、ぬるぬる、ぬめぬめとした触手が、


 ――ちょっ、おまっ!

 触手が脈打ってから、俺に向かってすごい勢いで伸びてくる。


「ああああぁぁぁ、だめアル~。出しちゃダメな方のエインヘリアルだったアル」

サーニアが叫ぶと、俺の目の前まで迫っていた触手はその山のような本体ごと、きれいさっぱり消えていった。


「な、な、な、なんじゃありゃ」


「タナカさんがここに来る前に、ガチャに入れていいエインヘリアルと駄目なエインヘリアルを分けてたアルよ。作業がやっと終わったと気を抜いちゃったアルね。出しちゃダメな方に繋がったままだったアル」

 気を抜くなよそこ、死ぬかと思ったわ!


「さっきの子もね、とってもいい子アルよ。ただちょっと思い込みが激しいというか、忠誠心が愛情にかわっちゃうタイプね。初回のガチャにはむいてないアル。タナカさんが他の部下を誉めたら、嫉妬で殺しにいっちゃうかもアル」

 細川忠興か!


「だから、さっきの子は2回目以降にまわすつもりだったアル」


 何かしれっと不穏なことを言わなかったか?



「もしもしサーニアさん」

「はいはい何アルか」

「眷属ガチャの臣下って三国志の武将のような人間だけですよね」

「もちろん違うアル。ヴァルハラに集うエインヘリアルたちは、あらゆる世界、あらゆる時代の戦士たちの魂アルから、人間のほうが少ないアル」

 

 いや、いや、いや、いや。無理ですから、あんな化け物、無理ですから。


「あんな化け物と一緒に暮らすとか絶対ムリ」

「そのために女体化とかあるアルよ。大丈夫、けっこう可愛くなるアルよ」

「可愛くなっても無理。中身があんなだと知っていたら、それだけでSAN値がガリガリ削られるわ!」

「タナカさんは変なとここだわるアルな。わかったアル。エインヘリアルが人間と大きくかけ離れてたら、最初から可愛い女の子で出てくるように設定するアル。やれやれ手がかかるアルね」



 ちょっとマテ。それってガチャで可愛い女の子が出てきたら、中身はオゾマしい何かってことじゃないのか?

「もう一度やり直すアル。また背が縮んだアルよ」

 そういったサーニアの身長は10センチくらいになっていた。



【ヴァルハラに集いしエインヘリアルよ。我が王国にとこしえの栄光を与えよ】


 

 けれど人というのは可笑しなもので、すったもんだがあった後でも、ガチャが始まるとまたワクワクしてくるのだった。

 

 虹に光れ、虹に光れ!



 そしてさっきよりかなり小さい光が、つうか、小さすぎないかって思えるほど小さな光が人型になって、虹色に輝き始めたとき、俺の心臓は飛び出すくらいドキドキしていた。

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