第25話 呪武具選び
私達は賢爺と一緒に王城の外れにある宮廷魔法師達の工房に向かってる。どうやらそこでは魔法と錬金術の研究だけじゃなくて、聖剣の製造もやってるんだとか。
そうだよ。聖剣って魔法師が作った魔法を宿す武器って意味なんだって。神様が造ったものなんかじゃないよ。同じように魔法を付与された槍は聖槍、鎧は聖鎧って言うみたい。纏めて聖武具って呼ぶんだけど、腐れ縁君はそれらの性能を限界以上に引き出せるらしい。
国のお抱え技術者しか造り方を知らないらしいから、聖剣とか聖槍は最新鋭で特注の武器って認識だ。それを効率的に使えるのが、『聖剣使い』が羨望の的になる理由だね。それこそ「僕が一番◯ンダムを上手く扱えるんだ!」って胸を張って言える訳だし。まぁ、だからって技量が上がる訳じゃないみたいだけど。
じゃあ呪武具って何?って事になるけど、こっちは文字通り呪われた武器だって。殺された人とか使ってた人の怨念が宿ってて、その怨念が様々な効果を武器に与えてる。
で、聖武具と呪武具のどっちが強いのか、気になるよね?それが、ぶっちゃけ呪武具の方が強いみたい。そもそも、聖武具ってのが呪武具を人造しようとした結果、生まれた武器だ。コピーはオリジナルに勝てないって奴かな?それでも弱い呪武具よりは聖武具の方が強いみたいだけど。
でも、呪武具には大きな問題がある。使おうとすると、武具に宿った怨念が身体を乗っ取ろうとするのだ。それも強い呪武具であればあるほど怨念が強くて、乗っ取られやすいんだとか。乗っ取られたら最後、狂ったように暴れだして、取り押さえて呪武具を取り上げても廃人になっちゃうらしい。
まとめると、
・聖武具は人造で呪武具は自然発生
・聖武具は呪武具より弱いけど、強力な呪武具には副作用で廃人になるかも
って感じかな。うん。タケには弱い武具を使わせよう。危ないし!
でも、私的にはそれ以上の問題が現在進行形で起きていた。
「なるほど。参考になりましたわ、賢者様。」
「ほっほ。ならばよかった、若き大魔導師よ。」
「って、何で有栖川さんがここに?」
そう。昨日のパーティーでタケに話し掛けていた有栖川京香さんがいるんだ。しかもタケを挟んだ向こう側にいるのだけど、何故かタケと腕を組んでいる。いや、正確に言えばタケの腕にしがみついている。それが何となく気に食わない!モヤモヤする!
「あら、世井口さん。私がここに居てはダメかしら?」
「ダメじゃないけど…ちょっとくっつき過ぎよ!それに、二人はほとんど初対面でしょ?馴れ馴れしくない?」
そう言う私に対して、有栖川さんは妖艶に笑う。うう、何て色っぽい笑い方をするんだ!本当に同級生か!?
「初対面じゃないわ。まあ、私が一方的に知っているだけなのだけれど。」
「…タケ、本当なの?」
「…。」
私は半眼でタケを睨む。奴はいつも通り無言だけど、雰囲気で分かる。有栖川さんの言ってる事は真実のようだ。けど、気になる事がある。タケは彼女に密着されているけど、それで照れている訳じゃなくて何故か警戒しているのだ。警戒してるのに腕を振りほどこうとはしない。何でだろう?
「ほっほ。両手に花とは羨ましいのぅ。それは兎も角、ここじゃ。」
タケと有栖川さんの関係について謎が深まったところで、私達は目的地に到着した。目の前にはやたらと重厚な扉がある。ここは魔法師の工房の地下。扉の向こうは王国が回収した呪武具が封印されてる部屋なんだって。
タケはここから武器や防具を選ばなきゃいけない。何故かって?そりゃあ『呪武具使い』って
「解錠。」
賢爺が呪文を唱えると、重厚な扉は自動ドアのように開いた。こういう所はやっぱり魔法なんだなぁ。
「入る前に言っておく事がある。気を強く持つことじゃ。さもなくば、呪いに魅入られる事になるぞよ。」
不吉な事を言わないで欲しい。私はホラーとか苦手じゃないけど、漠然と不安になるではないか!他の二人も…って大丈夫みたいね。タケはワクワクしてるし、有栖川さんも同じだ。
「では、入るとするかの。」
「…うわぁ。」
地下室ははっきり言ってかなり不気味だった。一目で呪武具だと分かるどこか禍々しい武器やら防具やらが所狭しと並んでいるからだ。ん?どうして呪武具だと分かったかって?見た目もそうだけど、どれもこれもカタカタ動いてるからだよ!
呪武具は例外なく封印用の鎖でガチガチに縛られていて、中でも強力な物は床に封印用の魔法陣が描かれてる。どいつもこいつも封印から抜け出そうと動くものだから、カタカタガチガチって音が休みなくするわけよ。頭がおかしくなりそう。
「ふふっ。面白いですね。」
「貴女、本気?」
「ええ、勿論。」
有栖川さんは蠢く呪武具たちを、まるでウインドウショッピングを楽しむかのように眺めている。凄い度胸だ。心臓が毛で出来てるんじゃないの?
「ここに納められておるのは、どれも聖武具では超えられぬ性能を有する呪武具ばかり。危険じゃから、手頃な物を…」
賢爺が有り難い説明を始めたかと思えば、当のタケは早足で部屋の奥に行っちゃった。妙に浮かれてたけど、どうしたんだろ?
「タケ、それが気に入ったの?」
「…。」
気に入ったみたいだ。それは穴だらけになった一両の鎧だった。刃零れの目立つ槍を抱えた状態で鎖に縛られている。これも当然のように動いてるよ。うん、完全にホラーだこれ!
タケは全く動じずに鎧に左手を触れる。それを見た賢爺は目を剥いて叫んだ。
「い、いかん!」
触れた瞬間、タケの手に黒い痣のようなものが浮かび出す。それは左手から浸食するように手首や二の腕にも痣が出来ていく。えぇ!?これ、アカンやつや!
私は当然、タケを鎧から引き剥がそうとする。けど、タケの手は鎧に吸い付いたみたいでびくともしなかった。
「このままでは飲み込まれる!腕を切断せねば!」
そんな!?そんなのダメだ!
「『風の
私の声にならない叫びが上がる前に、賢爺は魔法を放つ。真空の刃がタケの肩口から下を斬り裂くかと思われた。
「タ…え?」
結果として、タケが魔法を食らうことは無かった。何故なら、護った者がいたからだ。
「鎧が…?」
タケが触れていた鎧。それが拘束していた鎖を引き千切ると、タケを庇って魔法に身を晒したのだ。鎧が普通に動いたのも不気味だけど、賢爺の魔法で傷一つついていない事の方が驚きだ。これ、凄い鎧なんじゃないの?
鎧はガシャガシャと音を立てながらタケに向き直ると、膝を折って跪く。さらに持っていた槍を恭しく捧げたではないか。もしかして、従えちゃった?
「…。」
タケは槍を右手で受けとると、左手を鎧に向ける。すると、鎧がバラバラになって宙に浮かんだ。今度は何だ?って思ってたら、鎧のパーツは高速でタケに近付くと、タケに装備されていた。まさか昔のロボットアニメみたく、呼んだら自分から装着されに来る鎧が異世界にあるとは思わんかったよ。
「…数百年前に家族を殺された怒りで狂うた騎士の鎧、通称『赫怒の鎧』を従えるとはのぅ。流石は異界の勇者よ。」
「流石ね、武貞くん。」
呆然としている賢爺と、瞳を潤んだ瞳でタケを見つめる有栖川さん。色々とツッコミを入れたい所だけど、取り敢えず安心した私はその場に座り込んでしまった。
「…?」
そんな私の気持ち何て考えもしないタケは、鎧の後ろの壁をペタペタと触ってる。何か気になる事でもあるのだろうか。隠し扉がある、とか?まさかね。
ガコン!
あれ、何の音?と思ったら、本当に隠し扉があるじゃないか!その奥には地下に続く階段がある。おい、賢爺!あれは何よ!?
「し、知らぬ!儂もこのような場所があるなど初耳じゃ!」
「きっと、皆が近付くのも躊躇うくらいに危険な鎧を門番代わりにして入り口を塞いでたんでしょうね。下手な隠蔽工作よりも余程効果的だわ。」
睨む私に狼狽する賢爺と、興味深そうに階段に近付く有栖川さん。本当に怖いもの知らずだな!
「…。」
「ちょ!タケ!?」
私達の掛け合いなど聞こえていないかのように、タケは階段を降りていってしまった。あのバカ!こっちも怖いもの知らずじゃないか!
「面白そうね。私は付いていくけれど…賢者様と世井口さんはどうします?」
「ああ、もう!行くわよ、行けばいいんでしょ!?」
私は半ば自棄になってタケの後を追う。有栖川さんはそんな私を見てクスクスとお上品に笑いながら、後ろから付いてきてる。顔色の悪いままの賢爺も結局来るようだ。何だ、やっぱり好奇心に勝てないのか。
階段を下った先には、最初に潜った扉を同じ位に重厚な扉があった。ただ、扉の表面にはびっしりとお札的なものが張ってある。あからさまに怪しい上に、信心深くない私でも気味が悪くなってくる。
どう考えてもこの奥はヤバイ。それは誰にでもわかるはず。わかるはずなんだ!なのに目の前の弟分は何をしているんだろう。私の眼に狂いが無ければ、槍を構えているみたいなんだが?
「…!」
「おいいいい!?」
タケは構えた槍を扉に突き込んだ。目で追えないくらいに鋭い突きは、金属の扉を貫通するどころか、刺さった部分とその周囲を消し飛ばしてポッカリと穴を開けた。なんじゃそりゃ!?
私は顎が外れているのではないかと疑う程に口をあんぐりと開いていた。賢爺も概ね同じ反応だ。タケの扉を壊す何ていう信じられない行為もそうだけど、まず金属の扉を槍の一突きで壊せること事態が有り得ない。しかも最後の周囲が消し飛んだのに至っては完全に理解不能だ。きっと着ている鎧か槍の能力なんだろう。トップクラスの呪武具がこれほどとは思わなかったよ!
「流石…はあぁ…。」
有栖川さんだけは恍惚とした表情でタケの後ろ姿に熱視線を送ってる。頬を上気させた彼女はとてつもなくエロい。…この人、もしかして変態か?
「…。」
有栖川さんに対して若干心の距離を置こうと私が決意している間に、タケは壊した扉の奥にさっさと入っていた。私は慌てて後を追う。
扉の奥は、何の装飾もされていない殺風景な部屋だった。多分だけど、地面を掘って作った空間の壁と床を漆喰で塗り固めただけなんじゃないの?
そんな殺風景な部屋だけど、中央の床に一本の直剣が突き刺さってる。タケの槍と一緒で刃零れだらけの刀身には幾筋も亀裂まで走り、
けど、実物を前にしたらその異様さが良く分かる。目の前にあるだけで、足が竦むような威圧感があるのだ。この感覚を私は覚えてる。小さい頃、車に引かれそうになった時の恐怖と絶望だ。明確な『死』の気配だ!
「た、タケ…ひ、引き返そう?」
私は自分の声が震えるのを抑えられない。それだけ怖いんだよ!すぐ側にタケがいなかったら、即座に背を向けて猛ダッシュしてた自信がある!
「…。」
けど、タケは退かない。いつになく真剣な雰囲気を漂わせながらも何時も通りの歩調で不気味な剣に近寄ると、全く躊躇うことなく床から引っこ抜いた!
私は思わず身構える。映画や小説のお約束のように、化け物の封印が解けたりとか何かが爆発したりとかすると思ったからだ。
「…。」
けど、私の予想は裏切られた。特に何も起こらなかったのだ。さっきまでの威圧感はキレイさっぱり無くなっている。こちらもタケが従えたんだろう。『呪武具使い』って
私の心配を他所に、タケは暢気に剣を振って調子を確かめている。まったく、此方の気も知らないで!あ、でもあんなボロっちい剣だと振り回すだけで壊れちゃうんじゃない?
「あの、タケ?そんな使い方して、大丈夫なの?」
「…。」
「大丈夫って、根拠は?」
「…。」
「
「…。」
「どんな
「…ふかい。」
「不快?」
「…『不壊』。壊れなく、なる。」
どうやら、触れている物が壊れなくなる
「タケ、まだ武器を見たい?」
「…。」
「そ。じゃあ上に戻りましょ。ガチャガチャって音を聞き続けるのも気が滅入るし。」
「…。」
こうしてタケは呪武具を手に入れた。
「ど、どうして会話が成り立っているのかしら?」
「…お主、驚くのはそこではないぞ?」
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