第24話 『セフィラ』の事情

 王様は最初に妙に尊大な言い方をしただけで、それからは侍従長とか言うオジサンの説明会がになった。無駄に長かった上にこっちも尊大な態度だったから、要約して箇条書きにしよう。王様の言い分はこんな感じだ。


・この世界、『セフィラ』は三千年前に現れた邪神の驚異に曝されている

・邪神は邪禍じゃかというモンスターを産み出して人々を襲わせている

・現時点で最も力を溜め込んでいるのは【闇翼の邪神】ファリル

・【闇翼の邪神】に従うのは神を裏切った天使の末裔、堕天使フォールン

堕天使フォールン族を束ねるのは魔王


 ちなみに、『セフィラ』っていうのは世界を意味する単語で、それがそのまま聞こえてるっぽい。ここまでが世界全体の情勢だね。次は私達についてだ。


・ここは『セフィラ』の神聖セフィルティア王国

・私達は『セフィラ』の【善なる神】ゼアクトがもたらした秘術によって転移した勇者

・服は世界を渡る際に破れてしまったらしいので、同性の侍従が服を着せた

・私達は勇者として邪禍じゃか堕天使フォールン族、さらに邪神を討伐して欲しい

・誰か一人でも依頼を果たせば、全員に十分な報酬を払うと共に元の世界に帰す


 いや、無理でしょ?私は道場の娘だ。一般人よりも強い自信も自負もある。けど、だからって邪神を倒してと言われてハイ解りましたって行くほど能天気じゃない。

 それに報酬だって本当に払ってもらえるかどうかも分からない。もっと言うと、私達と何の関係もないこの国に、私達が命を懸けるだけの価値はないのだ。


「む、無茶苦茶だ!」


 男子生徒の一人が大声を上げる。そりゃあそうだろう。彼の一言が、この場の大多数の意見を代弁している。むしろ「異世界転移キタ━(゚∀゚)━!」とか言ってる連中の気が知れないよ、うん。


「僕たちに戦う力なんて無い!早く元の場所に帰してくれ!」


 彼の叫びに同調するように、名も知らぬクラスメイト達は口々に糾弾しはじめた。私も同じ気持ちだけど、言った所で帰してくれないんじゃない?だって同意も何も無く強引に呼ぶ位だし。何か偉そうだし。きっと自分の非を絶対に認めないタイプだよ。そんな人に何を言ったところで…


「静まれ!王の御前なるぞ!」


 …ほらね、怒った。侍従長の声は妙に甲高いのでとてもうるさい。けど、声を上げていた同級生は黙ったようだ。謁見の間を静寂が支配する。


「侍従長、そう声を荒げるでない。」


 そんなピリピリした空気を破ったのは、最初にいたフードを被ったお爺さんだ。お爺さんが前に出た瞬間、侍従長はたじろいでいる。あの人、結構偉い人なんだろうか?


「け、賢者様…。」

「若き勇者よ、ここからは儂が代わろう。」


 賢者。あのお爺さんの肩書きかな?そう聞くと重鎮っぽく見える…かも?


「まず最初の質問、戦う力がないじゃったか?それは違う。『ステータス』と念じてみよ。」


 …は?


「「「おおおおお!スゲー!」」」


 …は?


「よしよし、ちゃんと見えておるようじゃな。それはゼアクト神が邪禍じゃかと戦う力として我々に与え給うた戦闘能力一覧表ステータスじゃ。」


 ええと、お爺さんは満足げなんだけど。そんなゲームじゃあるまいし、ステータスって…



戦闘能力一覧表ステータス

名前ネーム:アカネ・ヨイグチ

職業クラス:剣豪(0/200)

称号タイトル:剣の天才

技能スキル:剣術Lv7

   槍術Lv3

   格闘術Lv2

   白魔法Lv1

勇者技能ブレイバースキル:異世界言語自動翻訳

     戦乙女の祝福



 えぇ?ホントに出ちゃったよ…?









 賢者のお爺さん、長いから賢爺でいいや。その賢爺は懇切丁寧に説明してくれました。ええ、とても詳しく。眠くなるくらいでしたよ。なので簡潔に纏めるよ、うん。


戦闘能力一覧表ステータスはゼアクト神が自分の戦闘能力を正しく把握出来るようにしたもの

・あくまでも邪禍じゃかや邪神の眷属と戦うためのものなので、生産系の能力はほぼ無い

職業クラスとは生まれ持った戦闘に関する適正

職業クラスはそれに見あった技能スキルの成長に補正を与える

職業クラス熟練度レベルを最大値にすると上位職業ハイクラスになる

職業クラス上位職業ハイクラス毎に熟練度レベルの最大値は異なり、最大値が高いほど強力な職業クラスと言える

称号タイトルとはその人の本質を表すもの

・成長を促したり、特殊な職業クラス技能スキルを得る条件となる

技能スキルとは戦闘に関する能力のこと

・こちらも熟練度レベルを上げることで上位技能ハイスキルとなる

技能スキルには武術系と魔法系がある

・武術系は後天的なもので、努力すれば職業クラスに向かないものも取得可能

・武術系の上位技能ハイスキルは個人差が激しく、名前が大きく異なる場合が多い

・魔法系は先天的なもので、新たな適正を努力で得る事は出来ない

・魔法系の上位技能ハイスキルは各属性毎に固定

勇者技能ブレイバースキルとは勇者にだけ与えられた強力な技能スキル

・異世界言語自動翻訳は勇者技能ブレイバースキルを持つ者全員に与えられる

・勇者毎に違う効果で、上位技能ハイスキルにはならないが、既存の技能スキルでは再現不可能な力ばかりである


 ざっと纏めるとこんなところだね。ややこしいような単純なような。っていうかお爺さんもオジサンも日本語話してる訳じゃなかったんだね。勇者技能ブレイバースキルの異世界言語自動翻訳が働いてくれてるっぽい。コスプレとか言っちゃってごめんなさい!

 それよりも、最初に盛り上がっていた男子が体力やら筋力やらが無いとか、生産チートがどうのとか文句を言ってる。バカじゃないの?


「これで戦えることは解ったじゃろう。そしてもうひとつの問い帰還に関してじゃが、これは難しい。」

「な、何故です?」

「まず、神は召喚と帰還の術式を両方与えて下さった。しかし、邪神共は強かじゃ。新たな勇者を召喚されぬよう、召喚術を狂わせる結界を世界に張り巡らしたのじゃよ。その結果、召喚術と帰還術は使えるものの、正しく作用せんようになってしもうた。」

「それはどういう…?」

「つまり帰るためには邪神を、それも複数いる全てを倒す必要があるという事ですね?」


 質問していた男子を遮って前に出たのは、背の高いイケメンだった。それを見た由紀子は「ゲェッ」と乙女が出してはならない声を上げる。そこで察した。アレが件の腐れ縁君なのだ、と。


「然り。理解が早いの。」

「そう言うことでしたら、は喜んで邪神討伐のために戦いましょう!」


 は?


「皆、聞いてくれ!元の世界に帰りたい、って思いは皆一緒だと思う。けどその為には戦わなきゃいけない!それに、戦うことは『セフィラ』の苦しむ人々の為にもなる!だったら勇者として特別な力を持った僕たちが、一致団結して世界一つを救おうじゃないか!そう、物語の英雄のように!」

「そう、だよな?」

「うん、そうよ。帰るためには戦わなきゃ…。」

「英雄になれる…かも?」


 いやいやいやいや、何を言ってんの!?そして何で流されてんの!?周囲は一人、また一人と腐れ縁君に賛同していってるけど、正気かよ!


「その意気やよし!」


 それまで何も言わなかった王様が、拍手をしながら立ち上がる。今更何のつもりよ?


「お主、名は何と言う?」

ケイシ・セキグチ関口啓志と申します、国王陛下。」

「良かろう、気に入った!では勇者ケイシよ、お主は勇者の長に任命する!」

「有り難き幸せ。微力を尽くしましょう!」


 は?はああああああああああああ!?










 関口の茶番劇が終わった後、私達はそれぞれ個室が与えられる事になった。服も手術衣のような簡素なものではなく、この世界の高級品が支給されている。まあ、それでも肌触りが良いとは言えないのだが。

 明日からは本格的な訓練が始まるということで、英気を養うと同時に勇者の到来を歓迎する席が設けられた。きっと国内の重鎮への顔見せとを兼ねているのよね。

 そんな政治的なことは考えないようにしよう。うん。今は夕食だ。宴席はビュッフェ形式で、色んな料理がテーブルの上に所狭しと並んでいる。私はそれらを少しずつ二つの皿に盛り付けていた。


「ああ言う奴なのよ、関口は。生まれながらの煽動者って奴?口だけは達者、っていうか口から産まれたような男なのよ。」

「なるほどね。由紀子が毛嫌いする理由が解った気がするわ。」


 言いながら私は横目で関口を見る。奴は貴族のご令嬢や奥様方相手に談笑していた。女の子達が奴を見る目は恋する乙女のもの、なんだろうなぁ。世界や文化が違っても、美的感覚って一緒なのかしら?


「見た目は良いし、スポーツ万能。しかも成績も優秀。けどイジメやら何やらを誘導して悦に入る屑。それが本性よ。」

「まあ、ちょっと距離を取りたくなるわよね。普通は。」


 王様と関口のやり取りを思い出すと頭痛がしてくる。あの場で奴は勇者のリーダーという立場を確立してしまった。由紀子から聞いている限り、決して良い方向に行くとは思えない。ため息が出てくるのもしょうがないよね?


「で、朱音さん?どうして同じものを二つの皿に盛ってるのかにゃ?」

「え?ああ、片方はタケの分よ。あいつ、こういう場は苦手だから。きっと壁のシミになって、料理を取りに来ないと思って。」

「はぁ、いいわねぇ。あんた達は。」

「?」


 由紀子はなんとも言えない表情で此方を見てくる。一体何よ?


「取ったんなら行ってあげなさいよ。篠崎君、お腹空かせてるんでしょ?」

「あ、うん。直ぐに戻るから!」










 私は料理を盛り付けたお皿を持ってタケを探す。あののんびり屋め、私がいないと死んでしまうんじゃないだろうか?


「見つけ…え?」


 会場の壁沿いを歩いていると、タケの姿を発見。早歩きで近付いたところ、何と言うことでしょう。あの根暗に話し掛ける女性がいるではないか!それも途轍もない美人だ!信じられない!


「あら?貴女は…ああ、世井口朱音さんね?」

「あ、ええ。そうですけど、貴女は?」


 その美人さんは私の反応を見てクスクスと笑う。それだけでも絵になるだろうね、うん。悔しくなんかないぞ!


「あら、失礼したわね。私は有栖川ありすがわ京香きょうか。同級生よ。」

「えぇっ!?」


 同級生だと!?こんなエロい美人が!?十五才とか、嘘でしょ!?私がスタイルで勝ってるのは身長だけじゃないか(血涙)!


「ふふっ。私はお邪魔みたいね。、また明日ね?」


 有栖川さんは魅惑的なウインクを飛ばすと、さっさとホールから出ていった。それよりも気になる事がある。だと?

 何となく、気に入らない。何があったのか問い詰めねばなるまい!そう、姉貴分として!


「タ…ケ……?」

「…。」


 強い口調で根掘り葉掘り聞き出してやる、と思っていたけど、様子がおかしい。タケが、怒ってる?いや、警戒してる?タケの視線の先には、有栖川さんが出ていった扉がある。何か気に障る事があったのだろうか?


「どうしたの?」

「…。」

「何もないって事は無いでしょ?」

「…。」

「言いたくないって?あっそ。それより、はい。晩御飯。しっかり食べるのよ?」

「…。」

「美味しいって?そりゃようござんしたね。じゃあ、私も食べますか。いっただっきま~す!」


 食べ物を見せてようやく、タケはいつも通りになってくれたようだ。けど、有栖川さんと何があったのかは教えてくれない。全く、お姉ちゃんに隠し事をするなんて。まあ、秘密の一つや二つ、あってもおかしくないか。聞きたいのは山々だけど、我慢しよう。うん。今は料理を楽しむのだ!


「あの二人、何で会話が成り立つんだろ?」


 由紀子が何か言ってたみたいだけど、よく聞こえなかった。










 翌朝、私達はお城の裏手にある近衛騎士団の訓練場にいた。今日から本格的な訓練が始まるのだ。同級生のほとんどはそわそわしてる。期待半分、不安半分ってところかな?


「よくぞ集まって下さった、勇者様方!」


 私達の前に出てきたのは、昨日のオジサン騎士だった。相変わらず声が大きい。


「申し遅れたが、私はジュドー・フォン・ガドラムという!神聖セフィーロ王国の近衛騎士団長という立場を拝命しております!そして、今日から皆様の教官役の長でもあります!何でも相談して下され!」


 うわ、騎士団長!しかも近衛って言ったら王様の親衛隊って感じでしょ?大物だ。


「では、最初に皆様のお名前と職業クラス技能スキルをお教え願いたい!その後、各々に合う武具を選んでいただく!それが終わり次第、訓練に入ります!」


 騎士団長が言い終わったタイミングで、若い騎士達が数人此方に来る。説明が終わるのを見計らってたんでしょうね。騎士団長と似た鎧を着てるから、彼らも近衛騎士なのかな?あ、昨日のイケメン騎士もいる。


「「「おおお!」」」


 周囲を観察していると、訓練場の一角でどよめきが起こってる。一体何なの?


「『聖剣使い』とは!流石はセキグチ殿!」


 ああ、由紀子の腐れ縁君か。『聖剣使い』が職業クラスだったのかな?確かにいかにも勇者って感じの職業クラスだね。騎士達はあからさまに尊敬の眼差しになってるし。…男子の数人が悔しそうな顔をしてるのが見てられないよ。


「あの、勇者様?よろしいでしょうか?」

「え、ああ!ごめんなさい!」


 騒ぎを眺めるのに夢中で、私の番が回ってきたのに気付かなかった!反射的に頭を下げて詫びる。


「いえ、お気になさらず。頭をお上げ下さい。では、お教え願えますか?」

「はい。えっと、私は世井ぐ…って逆か。アカネ・ヨイグチです。職業クラスは『剣豪』。技能スキルは剣術Lv7、槍術Lv3、格闘術Lv2、白魔法Lv1で勇者技能ブレイバースキルが『戦乙女の祝福』ってなってます。」

「Lv7…!?それは凄い!」


 私、凄いのか。まあ、普通よりは強いって確信してるけども。イケメン騎士は私の言った事を羊皮紙にメモってる。皆の分もこうやって記録してるんだろうね。


「有り難う御座いました。では、お隣の方もお教え願えますか?」

「…。」

「あっちゃぁ…。」


 私の隣、つまり今聞かれてるのはタケだ。奴は案の定、黙っている。はぁ、私の出番だよね?


「こら、タケ!言わなきゃわかんないでしょ!」


 流石の私も、タケがどんな職業クラス技能スキルを持ってるか何て言ってくれないと分かる訳がない。私はエスパーじゃないんだから。私に叱られて、タケはようやく口を開いた。


「…い。」

「もっとハッキリ!」

「『呪武具使い』。」

「じゅ、『呪武具使い』!?それって明らかに危なそうじゃない!」


 私は思わず大きな声を出してしまった。これでタケが『呪武具使い』なのは皆に広まっっちゃった。けど、仕方ないよね?。弟分が文字だけでヤバいと分かる職業クラスだったら、誰でも似たような反応になるでしょ?

 あ、イケメン騎士は真っ青になってる。クラスメイトも怯えてるっぽい。やっぱり『呪い』ってだけで恐いのは異世界でも一緒何だなぁ。


「ほほう、『呪武具使い』とな?面白き勇者がおったものよ。」


 私が現実逃避していると、タケに近付いてくる人がいた。どんな物好きか…って、賢爺じゃん。


「付いてくるがいい。お主の相棒を見繕うとしよう。」

「…。」


 それだけ言うと、賢爺は背を向けてさっさと歩き出してしまった。タケは少し考えた後、賢爺の後を追う。


「ちょ、ちょっと!私も行くわよ!」

「え!?朱音!?」


 何故だろう?タケが歩き出した瞬間、何か嫌な予感がした。ここで見送るだけじゃ、取り返しのつかないことになる気がしたのだ。

 私は直感に従ってタケと一緒に賢爺さんに付いていく。この選択そのものに後悔は無いけど、きっと後で由紀子にからかわれるんだろうなぁ。そう思いながら私達は訓練場を後にした。

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