ロマンシング・ラ・イチ・ツーの2

うみ

第1話 まさかの続編

 とある塔に一組の兄弟が幸せに暮らしていた。

 塔の一室――バラをモチーフにした薄紫と黒の装飾品が満載……一言でぶっちゃけたらアナスイみたいな雰囲気の部屋にある天蓋付のベッドに少女が一人。

 少女は幼さの残る小悪魔的な顔にウェーブのかかった銀色に近い金髪で、前髪を蝶をイメージした紫色の髪留めで留めていた。

 

「ああ、兄さま、兄さま」


 少女は枕を抱きかかえ、クンカクンカ匂いを嗅ぎながら艶のある声で呟く。


「兄さまの匂いだあ、兄さま、兄さま、大好き! ハアハア」


 幼さの残る美しい顔を真っ赤に染めて、枕をギュッと抱きしめる少女……

 

――見なかったことにしよう。


 少女を呼びに来た兄であるライチは静かに扉を閉めると、どうしようかなと考えた。

 テレースは最近足で踏んでくれないし、うーん。

 

 そうだ! ライチはポンと手を叩き、自室へ戻る。

 

 よおし、俺のことを誰も知らないところへ行こう。そして新たなレッグウェアの主を探すのだ。寒くなって来たし黒タイツがいいな。

 ライチはそう思い、次元の扉をくぐることにした。

 


◇◇◇◇◇



「私が村長です」


 村の中央にででーんと立つ男は、覆面姿の男へそう告げる。

 覆面の男は黒のビキニパンツ一丁にくるぶしソックス、黒の手袋、手斧と、即座に逮捕されそうな恰好をしていたが、誰も彼に突っ込む者はいなかった。

 

「酒場は何処か分かるか?」


 覆面の問いに、村長と名乗った男は自信満々な顔で応じる。

 

「私が村長です」

「……」


 ダメだこら、全くどいつもこいつも使えねえ。覆面は心の中で毒を吐き、周囲を見渡すとすぐに酒場は見つかった。

 

「マスター、ここいらで黒タイツを見なかったか?」

「黒タイツか……うーん、海の底にいるとかなんとか」

「海の底だと!」


 覆面と酒場のマスターの会話に酔っ払いが割り込んでくる。

 

「あんた、まさか怪傑ロッピンか?」

「いや、俺はライ……いや、カンダ……いや、パリィドだ」

「そうか、残念だ。あんたがロッピンなら海の底へ行ってもらおうと思ったんだが……」

「海の底だとおお! 黒タイツがそこにいるのか?」

「ああ、そうだが、猛者しかお呼びじゃねえんだよ」

「それなら任せろ!」


 パリィドは立ち上がり、自信満々に手斧を投げ捨てた。

 

「武器を捨ててどうするんだ?」


 酔っ払いは困惑したようにパリィドへ問いかけるが、彼は自信満々の態度を崩さない。

 

「なあに、俺は斧を使う事ができない。それだけさ」


 キラーンと歯を輝かせるが……その時、後ろから若い女の子の声がした。

 

「ちょっと、いきなり投げるなんて危ないじゃない!」

「ん?」


 後ろに立っていたのは茶髪のポニーテールに勝気な顔、黒のズボンにブーツを履いた女の子だった。

 

「チェンジである」


 ライチじゃない、パリィドがゴミを見るような目で呟く。

 

「何よ! それどういう意味よお。私はイメクラの従業員じゃないのよ」

「そんなもん知らん。ズボンを履いた姿で俺に話しかけるな」

「ビキニパンツ一丁の変態の癖に……なんなのよ一体。あなた、斧を使うんでしょ? 私も斧を使うのよ」

「斧はいらん。素手か大剣を俺は使う」

「ええ……じゃあなんで斧……」

「それは、この恰好だと斧を持つって決まっているからだ!」

「……」


 もうなんだかめんどくさくなってきたライチじゃない、パリィドは宿屋で寝ることにした。

 

 寝てたら半魚人が襲って来たけど、さすがにノエルじゃないライチの敵ではなくパンチ一発で仕留めるとなにやら「バンガード始動」とかいう声が響いて、海の中。

 これはラッキーだ。黒タイツに会えるではないか。とパリィドじゃないライチは黒のブーメランパンツ一丁のまま海底洞窟へ侵入した。

 

 一番奥まで行くと、くだんの黒タイツがいた。

 

 ナマズのような顔にイルカの尻尾、魚のような体から見事な二本の脚が生えている。脚には待望の黒タイツを履いているではないか。

 

「ついに見つけた……黒タイツ」

「アビスの力を知れ!」


 何かえらそうなことを言っているが、お忍びで黒タイツを探しに来ているとはいえ、彼とて七英雄の一人。こんなナマズに遅れをとることは……

 

「踏んでくれ、その黒タイツで俺をおおお」


 もうダメな感じになっていた。

 

 そこへ、昨日会ったポニテの少女と緑髪の少年が到着する。

 

「あ、あなた、昨日の……失礼な変態! よくここまで一人で来たわね」

「はやく、はやく、踏んでくれ!」


 エレヌじゃないポニテの少女の呼びかけにもパリィドのようなライチは全く聞いていなかった。

 

「タイダルウェイブ!」


 ナマズがなにやらかっこいいスキルを使うが、パリィドは「これじゃねえ」とカウンターで跳ね返してしまう。

 さすがカウンター一本でいろいろな者を絶望へ落とした男である。

 

「テンプテーション」


 そこへ、最初にハアハアしていた小悪魔少女が突如現れる。彼女のスキルで緑髪の少年とナマズが魅了されてしまった。

 小悪魔少女のテンプテーションは兄以外の男を確実に魅了するという恐ろしいスキル……つまり、ナマズはオスだったのだー。

 

 小悪魔少女はビキニパンツ一丁のパリィドへ後ろから抱きつくと、クンカクンカする。

 

「この匂いは兄さま、兄さまあ。ハアハア」

「お、俺は兄さまではない、パリィドだ」


 動揺しながらもナマズの黒タイツから目を離さないパリィドぽいライチ。

 

「ちょっと! 百合アンが!」

「百合アッーン!」


 緑髪の少年……たぶん名前は百合アンって奴が何だけ変な叫び声をあげている。

 

「兄さま、あんな美しくないナマズに……あのナマズ、兄さまに何かしたに違いないわ!」

「何もしてないぞ。ロックブーツ」


 つい、小悪魔少女に突っ込んでしまったパリィド。

 しかし、パリィドなようなライチなようなカンダタなような覆面がつい突っ込みをいれてしまったことで、自分のことがライチだとバレたと思って動揺している間に、ナマズは小悪魔少女――ロックブーツの髪から出た触手に突き刺され――

 

「アッー!」


 と昇天した。

 ついでに何故か百合アンも「アッー!」していた。

 

 黒タイツが消滅してしまったことで落ち込むライチを引きずってロックブーツはお家に帰って行く。

 

 お、おちてねえ!

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