第7話 陽光

 ガハハハハハ!


「どうじゃ、小僧、思い知ったか!」

 アザだらけの、ドワーフが勝ち誇っている。

 大人気ない奴だ。


 激しい痛みに耐えきれず、俺は、大の字に倒れていた。

 敗北した悔しさが全身に広がり、興奮が冷めていく。

 一度、集中が途切れてしまうと、体が言うことをきかない。

 忘れていた痛みが全身を襲いだす。


 太陽の光は、容赦なく降り注ぎ、それが眩しくて、少し目を細めた。

 眼前には、雲ひとつない青い空が果てし無く広がっている。

 その深く澄んだ青空は、背中を地面から引き離し、底へ、底へと誘っていた。


 視界の隅に、スカートのヒラヒラが目に入る。


 動けない身体で反射的に、スカートを覗こうとした。

 時に、本能は限界を凌駕するのだ!!


 そんな事はなく、黒い瞳だけが動いた。

 ここで、言っておく、

 これは、刺激と反応であり、下心がある訳では無い。

 パンツ見えそうなんて思って無い。

 断じて無い!


 無いったら、無い!!


 スカートから、ドンとあしが伸びてくる。

 死人に鞭を打つ行為だ。

 ひどい、そして、痛い。

 スカートから鋭い視線を感じる。


「何処見てるのよっ!」

 太陽の光が遮られ、栗色のおさげが目の前に垂れてきた。


 眩しさから開放され、俺の表情は緩む。

 アニーのほんのりと赤い瞳と目が合う。


「ほら早く、ご飯食べに行くわよ」


 俺は、目が合った事が気恥ずかしくて、顔だけそらす。


「まだ、身体が動かねぇ……」

 痛みが邪魔をして、声が小さくなってしまう。



 膝を折り座る気配がする。

 揺れるおさげが顔に、ふわっと触れ、少しこそばい。


「へぇ、まだ、動けないんだぁ」


 アニーが座りながら、あちこち突つく。

 痛みに反応して、身体が震える。


 おさげの女の子は、ニヤニヤして楽しそうだ。

 動けない俺は、容赦なく、もてあそばれる。


 くっそー、動け、俺の身体!


 ジジィが与えたダメージが大きくて、願いは叶わなかった。


 治癒が思うように進まない。

 少し苛立ちを感じる。


 そもそも、俺の身体の回復スピードは異常だ。

 自分でも自覚している。

 普通、骨折なら一週間ほど掛かるが、俺なら、数分いや数秒で治る。

 理由は解らないが、大抵の怪我なら一瞬だ。

 しかし、痛みに意識がいくと、とたんに治療のスピードも極端に遅くなるようだ。

 更に酷くなると、痛みで動けなくなる。

 ん? 怪我してるから、動けないのは当たり前か…


 今回、ジジィから与えられた傷は、普通なら死ぬ程の大怪我だ。

 そもそも、生きてる事が不思議だ。


 俺はスゴイ。


 スゴイのは俺だ!!


 自分で自分を褒めてあげたい!


 それから、ジジィは必ずぶっ倒す。

 覚悟しておけ!


 でも、今は死ぬほどイタイ……

 もう、泣きたい……


 突つくのに飽きたアニーは、俺の頭に手を置いた。

 置かれた手は少しだけ、暖かく感じる。

 柔らい暖かさは全身に広がって痛みを軽くし、それに伴って回復スピードが上昇していくのを感じた。

 どうやら、回復の補助魔法を掛けてくれたらしい。

 これなら、あと少しで、動ける様になるだろう。


 あとパンツがあれば、すぐ動ける。


 そう、パンツだ。


 気持ちが高揚していく。


「ありがとう、パンツ!!」


 まずい、感動のあまり、心の叫びが外に出てしまった。


 鉄拳が飛んでくると思い身を固くする。


 すると意外な反応が返ってきた。


「な、なによっ、もう動けるの? 動けるのね」

「ああ、もう大丈夫だ。ありがとう」

 俺は、失態を隠すため、重ねて感謝を述べた。


 おさげは大層に慌てた様子で俺の頭から手を離す。

 慌てなくても良いのにと、少し残念に思ってしまう。


「早く食堂に行くわよっ」

 アニーは立ち上がり、膝丈のスカートを揺らしながら離れて行く。


 再び、照らされる陽の光を眩しく感じ、俺は、急いで後を追った。

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