第5話 ベアトリーチェの屋敷

 傭兵の宿は、所属するクラン、もしくは、ギルドが手配する。

 そして、とても質素な部屋が与えられる。

 ベットしかない、寝泊りする為だけの部屋だ。


 しかし、エルフのベアトリーチェは、クラン【深淵】から好待遇を受けている。

 人に協力するエルフは貴重な上、【氷の魔女】と呼ばれる程の実力者だからだ。

 彼女は、住居区に大きな屋敷を与えられている。


 歓迎会の後、ベアトリーチェ邸で一夜を明かした。

 まぁ、もともと、俺とルッツ以外は一緒に住んでいたそうだ。


 そして、今、俺は、一階の居間で一人ソファーに座り、皆が起きるのを待っている。


 窓の外には、庭の緑が広がっている。

 小鳥のさえずりが聞こえ、朝の柔らかい陽の光が心地良い。





 肩を揺すられ、目を覚ます。

 どうやら、いつの間にか寝てしまったようだ。


「おはよう、ソロ君」

「あっ、おはようございます」

 肩を揺すったのは、エルフのベアトリーチェだ。彼女の心地良い香りが鼻の中に広がる。とても幸せな気分だ。


 あいさつを交わし、辺りの様子をうかがう。


「皆んな、揃ってるわよ、こちらへどうぞ。」

 ベアトリーチェに案内され、席に座る。


「あまり寝れ無かったか?」

 ギルが、話し掛けてくる。


「おはようございます」

 挨拶で返事をし、皆の顔を見る。


 席順は、昨晩の歓迎会の時と同じだった。

 隣のドワーフは、顔が青く静かだ。

 アニーは、朝が弱いらしく、顔はだらし無い。

 おさげのない栗毛の髪はボサボサだ。


「爺さん、大丈夫か?」

 テーブルの中央に置かれたパンを取りながらいう。


「フン、あれぐらいの酒、へいき……ウプッ、へいきじゃ……」

 話す度に、酒の匂いがツンとくる。

 爺さんは、完全にグロッキーだ。

 俺は、ドワーフは酒が強い訳じゃ無い、酒が好きなだけだと確信した。


「おい、爺さん、今日の訓練どうすんだよ。」

「くんれん……へいきじゃ……ウプッ」

 話すと辛いらしい、より一層、青くなって、ウプッウプッしている。


 絶対ダメじゃねぇか、俺は、ギルを見た。

 ギルは呑気に紅茶を飲んでいる。


「まぁ、ジム爺なら大丈夫だろう。ところで、宿舎の具合はどうだ?」

「宿舎? まぁ、快適ですよ」

「そうか、なら面倒かもしれないが、こっちに越して来い」

「ここに?」

「ああ、そうだ、あとソロが来たら全員揃う」

「分かった」

 特に断る理由が無いので承諾した。


「手続はこっちでしよう。荷物はあるか?」

「荷物は、背負い袋が一つ、部屋に置いたままだ」

「なら、問題無い」

 ギルは、嬉しそうに告げた。


 エルフのベアトリーチェは、アニーの髪を楽しそうに手ぐしを入れている。

 寝癖の付いた、髪は、手ぐしを入れる度に、ビヨーンビヨーンと跳ねる。

 跳ねる髪を、エルフは面白がって、髪をいじるのをやめない。


「朝のお茶が終わったら、ジム爺とソロは訓練に行って来い」

「えっ?! 大丈夫なのかよ。」

「ジム爺は、体を動かせば、大丈夫さ。」

「ウプッ……」

 最後に返事したのは、酒好きなドワーフだ。

 不安しかない。

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