3-8

 死ぬまでの一週間という期間、何をして過ごそうかと計画を立てていた。



 まず、白谷さんと一緒にあの池に行ってみたい。今年初めて彼女と会ったあの池だ。昼間にあの場所を訪れたことがなかったから一度くらい見ておきたかった。

 次に、とてもくだらないかもしれないけど、電車の線路の上を歩いてみたい。普段は電車に乗っていたからそこから見える景色をゆっくり眺めることが出来なかった。今なら電車は走っていないし、線路の上を歩いたところでそれを咎める人もいないだろう。どうせならこれまで絶対に出来なかったようなことを一回くらいはしてみたかった。



 それと、高校の屋上で夜空を眺めたい。これまでは人工の光の所為で本来の夜空を眺めることが出来なかったけれど、今なら見ることが出来るだろう。なんせ光を灯す電気がそもそも止まっているのだから。



 あとは、綾さんとの約束を守るためにあの町へ行くこと。



 浮かび上がったのはせいぜいその程度でわざわざノートに書き出すまでもなかった。そもそも僕にしてみれば白谷さんと一緒に居られるだけで十分で、もしも彼女がこれらのことはしたくないと言ったのならおそらく僕はやらないだろう。

 ただ、綾さんにだけは会いに行かなければならない。綾さんがまだあの町にいるのか定かでは無いけれど約束は約束だ。それに、改めて綾さんには感謝の言葉を伝えたい。こればかりは白谷さんが嫌だと言ってもどうにか説得しなければならない。

 逆に白谷さんは何かやりたいことがあるのだろうか。出来る事なら彼女が願うことを出来る限り叶えたいと思う。

彼女の「生きていて欲しい」という願いを僕は叶えることが出来なかったから、せめてそれ以外の願いは出来る限り叶えてあげたい。



 幸福の中で幸福を実感することは難しいと彼女は言っていた。願わくは彼女に幸福であることを実感してほしい。

 僕は幸福だろう。きっと幸せ者だろう。もう死んでしまうことが決定づけられているけれど、これまでの人生でそれほど多くの喜ばしいことがあった訳ではないけれど、それでも彼女と会うことが出来た。

 白谷源一の話を通し、僕はどれほど彼女に思われていたのか知った。純粋に嬉しかった。誰かに思われることが、嬉しかった。



「…………」



 ノートを閉じる。

 もうじき、宇宙船が宇宙へと旅立つ時間だ。僕はそれを見届け、今日彼女を迎えに行く。

――あなたは、こんな世の中で生きていく意味があると思う?

二年前の彼女の問いかけに、僕はようやく答えることが出来そうだ。

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