第三話

 数日後、ログインしたとき。


(あれ、スカイプにはログインしてないのに……)


 フレンドリストには首都にいることになっているけど、大まかにいる場所はわかるけど、ピンポイントにマップに表示されるわけじゃないし、首都はそれなりに広い。


 フレンドチャットで呼びかけてみようかと思ったときに、教会前で会うことができた。


「オズマさん!」


 アストリットさんが僕に気づいて近寄ってきた。


「ギルドには入っていないんじゃなかったっけ、フレンドさん?」


 その隣には盾騎士がいた。


「はい、フレンドのオズマさんです。こちらは最近狩りでご一緒するカシムさん」


「カシムだ、君の事は彼女から良く聞いてるよ、信頼できるフレンドだそうだね」


 知っている、ランキング上位でよく見る名前だ。

 このゲームは同じ名前は登録できない仕様だから間違いない。


「こんにちはオズマです、お名前は良くリーディングボードでお目に掛けますね、しかもワールド最強のギルドのマスター」


「有名人でよかったよ、自慢げに自分の紹介をするのは苦手なんだ」


「オズマさんも、とても上手いんですよ、私はドジばかりで」


「じゃあ、アストリットさん。先ほどの話、よろしくお願いしますよ」


「……考えておきます」


「いい返事お待ちしてます」


 そう言うとカシムは立ち去った。


「あ、スカイプまだ立ち上げてませんでしたね、いまつなげます」


「何か、邪魔しちゃったかな僕」


 スカイプでの第一声がそれだったせいで、アストリットさんはちょっと困ったようで。


「ギルドに入らないかと、私はその、あまり大勢の人がいるのは得意ではないので、何度かお断りしてたんですが」


「そうなんだ、だけどアストリットさん、このゲームをもっと楽しもうとおもったらギルドはいいよ、彼のギルドはギルド戦争も狩りもまんべんなくやってるみたいだし、このさき二人だけで冒険できる場所も限られてしまうし」


「オズマさんは、私と二人でいるのはつまらないですか」


 僕は何をしているんだ。


「オズマさん、あの、私が邪魔でしたら遠慮無くギルドに入って頂いてもかまいませんので、というか、私のせいでこのゲームをオズマさんが楽しんで無いのではないかと、いうのが、心配です」


 彼女の声が徐々にトーンダウンしていく。


「あのごめん、大人げなかったと」


「大人げない?」


「正直いいます、アストリットさんが他の男といたところみて、イラっとしました」


「……はあ」


 なんとも言えない返事をしてくれてはいるが、器の狭い人間とか思われただろうか。


「そんなわけないですよ! オズマさんがまさか、その……」


 気づいてくれたらしい。


「ゲームの中の話なんだから、当たり前なんだけど。考えてみたら、僕以外の人とパーティ組んだり、普通にやっていれば、男と話をするのだって、普通なんだけど」


「だ、大丈夫で(プツン)!」


 ヘッドフォン側の設定で、あまりの大きな声で音声カットされてしまった。


「すみません大きな声をだして、あの私、オズマさんの事が好きですからっ!」


 今度は僕が面食らう番だった。


「……あの、オズマさんご本人ではなくてですね、オズマさんのキャラの……」


 まあそうだよね。


「僕も、アストリットさんのきれいな金髪と、蒼い目が好きだよ」


 オズマになりきったつもりで、できるだけイケボをイメージして。


 なんだこれ、何やってるんだ俺、チャットでキャラになりきって、やばい顔が熱い。


「……今日の狩りはどこにいこうか」


 沈黙のまま数分、呼吸整えいつもの会話をはじめる。


「そうですね、レベル上げと素材あつめと良さそうなダンジョンがあるので、そこにいきましょう!」


 言うが早いか、アストリットさんがワープポータルを出現させた。


 この光壁を抜ければ、そのダンジョンの目の前という便利なポータルだ。


 この日の狩りはなんだか言葉少ないけれど、お互いにお互いがよく見ているというか、とにかく楽しかった。


 数日後。


「お邪魔するよ」


 僕の部屋に普段誰か来る事はまず無い、他人を家に上げるのが苦手だった。


 実家では兄貴と一緒の部屋で、兄貴が出て行って一人で部屋を使えるとおもったら、従兄弟が上京してきて兄貴の机からなにも使うことになり、結局自分のスペースがもらえなかった。


 家からギリギリ通えない大学を第一希望にした。


 アパートを借りて、はじめてできた自分のパーソナルスペースだった。


 自分以外だれもいないと言うのが、すごく静かなのを知ったのはこの部屋でだった。母親が専業主婦だったから、ほぼ家に居て何かしらの生活音が聞こえていた。


 洗濯から食事から、何から何まで一人でやるというのも初めての経験だったけど、半年もすれば嫌でも憶えられる。


 そんなようやく手に入れた空間をあまり人に入って欲しくないというのがあって、時々来るのは様子を見に来る五歳年上の兄貴くらいだった。


「なんだ、きれいだな」


「荷物がないだけだよ、兄貴はどう、学校の先生って」


「……まあ教師は難しいな、いろんな生徒がいていろんな可能性がある、それを伸ばしたいんだが、決められてやらなきゃいけない最低限はある、ま、時間はかかるがはじめて受け持つ生徒達だからな、頑張ってみるさ」


 兄弟だから当たり前だが、兄貴と顔はよく似ていると言われるが、僕よりも頭は良かったし運動神経も良かった、軽く暑苦しくって面倒見がいい、みんなに褒められるみんなから尊敬される兄貴は僕の自慢でもあった。いまは何か運動部の顧問もやってるとか言ってたな。


「で、頼みって何だよ」


「あー、お前パソコンに詳しいだろ」


 何でもできる兄貴ではあるが、パソコンとゲームだけは苦手だった。


「何だPCでも買うの? セッティングなら手伝えるけど」


「あ、いやそれは何とかできたんだが、オンラインゲームのインストールとかアカウントとかいうのが分からないんだ」


 といってカバンから出してきたのはノートPC。


「兄貴がゲーム、なんで?」


「ちょっとコミュニケーションの難しい生徒がいるんだが、趣味がオンラインゲームらしくってな。ゲームで共通点ができれば、会話もしやすくなるんじゃないかと」


 それで最新型のノートPCか、やると決めたら妥協のない兄貴らしい。


 その生徒のために、苦手な事をそれでもやろうとしている、なら弟として協力しないわけにはいかない。


「で、なんてオンラインゲームをやる?」


「ああこれなんだ」


 兄貴がプリントアウトしてきたそれは、ニーナランド・ネットワーク・レンジャーズの広告だった。

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