第一話

 彼女との二度目の出会いは、風草原のフィールドだった。


 チュートリアルで飛ばされる町から、この国の首都までの途中のフィールドで、いわゆる初心者用のモンターがポップする場所だった。


 あの日から二週間たっているのに、彼女はニュービーのままピンクスライムを素手で殴っていた。


 このゲームではニュービーの期間は短くて、転職の課題アイテムあつめも、長くて数時間で集められて次の下級職になれるレベルだ。


「こんにちは」


 このときなんで声をかけたのかわからない、だけどチュートリアルの時と同じで、何をしたらいいのか分かっていないのだと思った。


「こんにちは」


 可愛いエモーションを出しながら返事をしてくれた、どうやらファンクションキーを使った機能は使えているみたいだ。


「まだ下級職に転職してなかったんだね」


「あ、チュートリアルの時の、あのときはありがとうございました」


 二週間前の事なのに、通りすがりの僕を憶えていてくれていた。


「いえあの、このゲームでチャットしたの、あなたしかいないので、それで憶えていました」


「そうなんだ、友達とかと一緒にじゃないんだ」


 ちょっと時間があいて。


「友達いないので、部活もしてないからヒマで時間つぶしに、広告が目に入って入ってみたんですけど、おもったより難しくて」


 長文を打ち込んでて時間がかかったみたいだ、MMOは確かに不慣れなのかも。


「よければ、転職の家に案内しましょうか?」


「え、いえ、場所は分かっているんですけど、その転職のための素材が集まらなくて」


「武器は拾いました?」


 この付近はニュービー用の武器や防具もドロップするはずだ。


「あ、はいカバン一杯にあるんですが、装備が、あの分からなくて」


「Eを押して装備画面をだしたら、カバンからダガーを装備にドラッグしてください」


 数秒後、彼女のキャラの手にダガーが装備された。


「同じように左手に盾、身体に布の服を」


「おお、すごい!」


 基本なんだけどな。


「そうだ、下級職は何にするか決めているんですか」


「はい、シスターをしようかと」


「なるほど、じゃあ今は十字架の素材集めですか?」


 シスターになるために必要な十字架の素材は薪だけだったとおもうけど。


「そうですね、薪がでなくて」


「草ウサギは狩ってますか?」


「ウサギってこの辺いるんですか?」


 質問で返された、というか攻略サイトも見ないのか、レベル上げなくてもすぐ隣のフィールドくらい行くだろう。


「ここはピンクスライムだけですから、となりのフィールドじゃないとウサギはでませんよ」


「隣のフィールドってあるんですかっ!」


 本当にMMORPGははじめてなんだろう、なんか昔の血というか世話焼きの血がうっかり騒ぐ。


「よければ、素材集め手伝わせてください」


「え、いえあの、なにか誤用の途中なんじゃないですか」


 焦って誤字になってる。そんなに驚くことかな。


「いえ、気ままにソロプレイをしているだけなので、今日もデイクエストも終わってますし、きっと薪だったら、二人で三分も要らないとおもいます」


「ありがとうございます」


 隣のフィールドにシームレスで移動すると、ウサギの大群が跳ね回っていた。

 さすがに古いサーバーだけあって、低レベルのフィールドにあまり人はいない。


「攻撃さえしなければ、草ウサギはノンアクティブだから」


「のんあくてぃぶですか」


「えっと、襲いかかってこないってことで、さらに奥にいるモンスターはアクティブで、こっちの姿をみたら襲いかかってくるのもいる」


「なるほど、勉強になります」


 なんか初々しい。


「攻略情報なんかも、サイトで調べると良いよ。古いゲームだから情報は充実しているし」


 数秒の間があって。


「そうですね、教えて貰ってばかりだから、自分でもなんとかしないといけませんよね」


 何というか、明るい子犬みたいだとおもったら、急に壁ができるみたいな、攻略情報を見ないとか何か縛りプレイでもしているのか。


「そうだ、フレンド登録いいかな。そうすれば僕がインしているときは、何でも聴いてくれればいいよ。とはいっても、僕もこのゲームははじめてなんだけど」


 フレンド登録は簡単で、相手にカーソルをあわせて右クリック、フレンド希望を送るだけ。


『フレンド依頼が完了しました、承認されるまでお待ちください』


 システムメッセージがでて、すぐに承認されるかとおもったら、いつまでも承認されない。チャットも帰ってこなくて、不安になったところ。


「あの、本当にいいんですか。私、あなたのその、よろしくお願いしても」


「大丈夫ですよ、僕もそんなにアクティブにいるわけではないので、逆に頼りたいときにいないかもしれないけど」


『フレンド登録が承認されました、これよりフレンドチャットが使用可能です』


「フレンド登録すると、どこにいてもフレンド会話でチャットができるから、なんでも聞いてよ」


「よろしくおbねがいします! よろしくおねがいしまう!」


 また誤字だ、本当にPCに触るのも慣れていないのかもな。


 数分後。


『スラッシュ!』


 僕の職業、ファイターの範囲系の固有技でウサギを倒したとき薪が出てきた。


「あの、とれません」


「あ、そうかパーティじゃないから、ドロップしたアイテムの取得権がないのか」


「え?」


「大丈夫ルート対策で、十秒間は倒した人が優先して回収できる時間が設定されているんだ、十秒たったら拾えると思うよ」


 そして彼女は無事に薪を拾うことができた。


「ありがとうございます、でもさっきの必殺技かっこいいですね」


「両手剣使ったファイターの技なんだ、じゃあこれで下級職に転職できるとおもうから、首都へいってらっしゃい」


「はい、あの」


 また沈黙、そしていままで白いフォントだったチャットが黄色くなった。


「アストリットです、今日はありがとうございました」


 フレンドチャットを早速使ってくれたらしい。


「オズマです、よろしく」


 その日は久しぶりに、夢を見ないくらいぐっすりと眠ることができた。

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