NNTR(ニーナランド・ネットワーク・レンジャーズ)

関怜

1.ログイン

 MMORPGにハマっていた。

 日本一のアクティブ数を誇り、二十以上のサーバーが同時稼働。人気ファンタジーゲームの初のオンライン版としてアカウントの登録数は二百五十万人を超えた。

 僕はそのゲームの中の一つのサーバーで遊んでいていた。

 高校一年生のとき、入学祝いでパソコンを買って貰い、早速そのゲームを始めた。スペック不足に悩みながらも、少しずつパーツを組み替えながら三年間遊んだ時、僕はベテランになって、昨年先輩から受け継いだギルドはこのサーバーの中でも、結構有名なガチギルドになっていた。

 ガチギルドっていうのは、本気で戦闘効率をもとめ、本気でレアアイテムを探し、一週間に一度ポップするHレアモンスターを狩るのに、長時間の張り込みも辞さないギルドの事で、実際僕は学校以外の時間は、ほぼゲーム画面の前にいた。

 それでも楽しい時期はあったのだ。

 中毒期だ。

 思えば、その時間が僕は他の人と比べて長続きしただけなんだとおもう。

 ふとまわりを見たら、高校三年生になり、みんな就職や進学をしていた。

 慌てて何とか大学には滑り込んだけど、ふと現実を突きつけられたとき、このゲーム以外、自分に何があるのか本気で考えたのだ。

 そして全部が嫌になった。

 大きな人の集合は、それこそ色々な考え方を持った人間が集まる。

 ギルドには風土がある、ギルドルールもあるけど、それは最低限で、比較的縛りのゆるかった僕のギルドには、いつも新参と古参の争いが耐えなかった。ある時は半分のプレイヤーが脱退したこともある。でもそれを認めて受け入れ、なぜか度量を評価されてしまい、ギルドの加入申請は常に満杯だった。

 事務手続き、他ギルドとの折衝、ギルドハウスの管理、相談。

 楽しいはずのゲームが、ストレスの塊になったとき、ゲームの中の僕は人望も、お金も、頼れる仲間にも恵まれていたのに、現実の僕は実際には何も手に入れていない事に気づいたのだ。

 心が折れる音がした。

 大学生一年生の時、ギルドマスターの座はサブマスターだったヤツに譲り、僕はゲームから引退を宣言する。古くからいた仲間がささやかながら引退式をしてくれて、そいつらと最後の狩りをしていたら、いきなり転移魔法でパーティー会場に飛ばされギルドメンバー全員が、抜けたヤツまで引退を惜しんでくれた。

 ゲームをしない日々は、一週間は快適だった。

 追われる事の無い生活の、ストレスからの開放を僕は満喫した。

 でも、大学に友達がいないことに気づくのにも、それほど時間を必要としなかった。高校でも部活もしてないし、友達はいなかった。

 バイトでもするかと思いたち、履歴書の特技欄に、ギルド運営とか書くとか言うジョークが昔あったけど、そこは当たり障りのない事を書いて、僕はコンビニエンスでバイトをはじめたのだ。

 授業とバイトと家で寝るの繰り返し。

 ゲームは後腐れも無いように、アカウントもデーターもすべて削除していた。

 今日は火曜日だから、木工ギルドの納入日だとか、布団の中でいつも寝ていなかった時間に、布団に入り眠れずに過ごすことも多くなる。

 ゲームをしていたときはストレスだったのに、それが無くなったことが逆にストレスになっていた。ふとあのゲームのまとめサイトに飛ぶと、僕のギルドが解散したらしい事が書いてあった。そのあと、ブラウザーゲームに手をだしたけど、ただスタミナが切れるまで、同じ所を回るだけで、すぐに嫌になって、パソコンはまとめサイトを回るだけの機械になっていた。

 大学二年生になったある日、まとめサイトを回ったときに画面の横に出ていた広告が目に入る。

『ニーナランド・ネットワーク・レンジャーズ新規サーバー増設記念! ソロプレイでも充実のMMORPG』

 聞いたことはある、僕のやっていたMMORPGよりも開始は古い。まだ稼働してたんだ。基本プレイは無料、だけど昔と違って一部のアイテムに課金要素がある今時のゲームになっていた。

 僕は運営サイトのIDを登録して、ゲームをインストールしていた。

 大丈夫、MMORPGだといってもギルドなんか作らなければ良い、加入するとしても、まったり系とかライト勢のギルドにはいればいい。

 ログイン。

 二年ぶりのオンラインゲームにドキドキする。

 四頭身のキャラクターに、2D画面のクォータービュー、見下ろし型のゲーム。

 最初は旅立ちの館で、初心者装備を貰いながらチュートリアルをこなしていく。キャラクターは最初『初心者』というクラスで、ある程度のレベルになると転職が可能になり、上級職になるほど強いスキルが使えるというものだった。

 前にやってたのは、レベルキャップ制だったっけ。

 インターフェイス自体はそれほど難しいものじゃない、左上に小MAP、アイテムはファンクションキーと連動、移動はマウス、攻撃は攻撃態勢と取った後に、クリックでできると。チャットは全体とギルドと個人とオフィシャルの四つ。

 世界観は良くある剣と魔法とファンタジー、敵キャラはコミカルになっている。

「あのー」

 チュートリアル中、外に出るための通路に立ち止まっているキャラがいた。

「ここからどうすればいいんでしょう」

 全体チャットで話してる女キャラは、名前が表示されるから間違いない。僕は割と古めのサーバーを選んだ、広告に出ている新規サーバーは他のサーバーからの移動者で、低レベルの狩り場が荒らされる。経験者なら立ち回りも分かるだろうけど、まったくの初心者が行っても獲物がとられて、結局効率が悪い。だからこのサーバーのチュートリアルの小さな町では、あまり人がいなかった。それでも数人はいたけど、みんなチャットを無視して先に進んでいた。

「右上のマップで赤い点で表示されている所にいくと良いみたいです」

「ありがとうございます、こっちですね」

「あの、逆です」

「え?」

「良ければ、僕と一緒にいきませんか」

「すみません、わたし方向音痴で!」

 金髪のロングヘアに碧眼。

 これが僕と、将来結婚する彼女との出会いだった。

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