第50話 今大事な事いったよな、俺
冬の夜はただ静かに広場を包む。
地面には激戦の後として、血に染まった雪がところどころ見受けられる。
「……終わったか」
昂我は棒立ちの浅蔵に近寄り、凛那を預ける。
「壬剣、親父さんを病院に運んでやってくれ。騎士だった時の記憶は全て自分で納得できるように再配置される。それで一からやり直すはずだ」
「僕は――何もできなかった」
無力感に苛まれる壬剣に、昂我はポンと肩を叩く。
「いや、そうでもないぜ。自分の甲、見てみろよ」
「え……?」
そこには白銀に輝く剣の騎士紋章が浮かび上がっている。
「金剛の騎士紋章は、あのとき完全に剛堅には移らなかった。だから騎士王は不完全なまま顕現したのさ。本物だったら零の俺でも無理だわ。剛堅の回帰命令を無視して、壬剣の中に僅かばかり残ったのは、壬剣の意志に金剛が共感したからだよ、きっと」
「金剛……」
壬剣は左手の甲を優しく包み、小さく息を吐いた。
「……力とは何なのだろうな、人を守る為に得た力なのに、結局は人間同士が争う」
「よくあるけど、結局はやっぱ使う人によるんじゃね? なんてな」
「そうだろうか。僕はどんな人間でも周囲を圧倒できる力が手に入ってしまったら、父さんのように溺れてしまう気がする。僕もいつか権力や力を手に入れたら、自分が変わってしまうのか、それが怖い」
「だからこそ、そうなる前に、注意してくれる奴がいるんだろ。友達とか親とかさ。良くないのは一人でいるってこと――とか? 今大事な事いったよな、俺」
うはははと零眼を宿し、人知を超えた力を持っても昂我の性格は変わらない。
壬剣は苦笑いしながら、自分が考えすぎていたのかと軽く頭を振った。
「そういえば、お前のその武術、いったい誰が教えたんだ? 人間業じゃないぞ」
「あー、これは武術ってよりは隠密に特化してる忍術らしいぜ、実際は」
「忍術……そうか、『父の騎士団長の命で動く』とは、まさに殿と忍者の主従関係じゃないか」
壬剣は一人で何かを納得し、うんうんと何度も頷く。
「師匠は人間が出来る事を超えた豪快な人だからな。零の里に一人でいた時に手を差し伸べてくれたんだよ、何故か」
「それが昔の育ての親ということか、名はなんというんだ?」
「名前? いっつも師匠って呼ばされてたからなあ。確か海とかなんとか、水族館みたいな感じで……ああ、そうだ」
ぽんと手を打って昂我は言った。
「本名か分からんが、マーリンだわ」
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