第45話 Endless Knight / Night
四章 【 Endless Knight / Night 】
空は曇天、時刻は深夜二十三時過ぎ。
数十年ぶりの大雪に見舞われ、世界は深い雪に覆われている。
交通網は麻痺し、電車も運休。市内に車は走っておらず、まるでゴーストタウンだ。付けた足跡も次々と舞い降りる粉雪にすぐに上書きされてしまう。
気温は零度前後。
零の何らかの能力により、甲冑としての見た目のみを消されていた《黄玉の欠片》が消滅し、地肌に寒さが突き刺さってくる。
昂我は浅蔵邸地下から脱出し、壬剣と別れた後、自宅に戻ろうとしたが自宅周辺にパトカーが数台と待っているのを見てすぐに引き返した。
何か悪い事をしたか? と疑問が過ったが、あれは多分逃げ出した昂我を捕まえるために剛堅が手配したものだろう。
浅蔵剛堅と直接の面識はないが、四桜市に住んでいれば誰もが知っている人間だ。病院を経営していると同時に四桜市の政治や裏の世界にも顔が利いていると噂が絶えない。ならば一般市民の家にパトカーを手配することくらい簡単だろう。しかもこちらはただの学生だ。何か言われたところで簡単にもみ消せるはずだ。
これでは両親に迷惑がかかるかな、と一瞬考えたが、師匠から俺を引き受けた身、あの家族もタフはタフなのだ。警察も無茶なことはしないだろうし大丈夫だろう。
問題はどうやって凛那を探すかだ。
ナイトレイ家にも足を運んだが、夕陽も凛那もいなかった。入り口のドアの隙間からはみ出ていたメモ紙を見ると、『警察署に行ってきます』と書かれていた。
走り書きだったことを考えると、ナイトレイ家にも警察が来ていたのだろう。
全くと言っていいほど、凛那に繋がる手がかりが無い。
(こんな真夜中に出歩くか? それとももう剛堅に捕まっているのか? いや、捕まっているはずはない。捕まっていれば夕陽さんを事情聴取に連れていく必要はないからな)
つまり凛那はまだ何処かにいる。
しかもこの街にはまだ正体不明の黒騎士ファントムが存在している。凛那とファントムが出会うのも避けなければいけない。
「うーむ……」
雪降る中、住宅地の路地で行く当てもなく考え込む。
(手がかり、ねえ……)
静かな雪降る真夜中、パトカーの音が数台通り過ぎる。
かなりの数を動かしているのか、それともこの大雪だから見回りを強化しているのか。
「とりあえず、闇雲に探すしか当てがないってのは、相変わらず悲しいぜ」
毎回当てがないな……と思いつつ、パトカーが過ぎ去った大通りにでる。
アーケード街の中を歩いて行けば雪もないので歩きやすいだろうが、あそこは大雪で帰れない人間たちがまだ残っている。そこまで徹底しているか分からないが、もし指名手配されていて姿が目撃されてしまえば面倒である。
だから仕方なく雪の中を歩くしかない。
スニーカーは既にびしょ濡れでザクザク音を鳴らしながら、黒のパーカーという捕まったままの薄着で歩く。師匠と雪山にこもってた経験が生きたのか、寒いが左程辛くはない。
大通りは見通しが良く、遠くの四桜山も見える。四桜山の上には四桜城跡地があり、戦時中に焼け落ちた城が残っていれば、雪景色に似合う城が見れただろう。
「ん――?」
(今、一瞬、蒼い光が点滅したような?)
四桜場跡地は四桜市を見渡せる山の上にある。この道路を歩いて行けば辿り着けるような場所だが――また蒼い光が明滅する。
(なんだ?)
気が付いた時にはもう遅かった。
隣のビルの窓が全て砕け散り、雨のように降り注ぐ。背中では爆発音が響き、バス停が宙に吹き飛ばされているところだった。
「う、嘘だろ……嘘だろお!」
振り返ることもせず、昂我は直ぐに建物の影に身を潜める。
ちらりと見えた蒼い光はファントムがまとっていた蒼炎だ。そして建物を完膚なきまでに破壊する力は奴の投擲に違いない。
路地から顔を出すと前髪先端を巻き込んで、また何かが通り過ぎた。
(出たら死ぬ――!)
騒ぎを聞きつけたのかサイレンを鳴らしながら徐々にパトカーが昂我の隠れている方向に集まってくるのが感じられた。
(隠れていると建物は壊されるし、警察まで巻き込んでしまう。まずはファントムを黙らせなければ、凛那すら探せない!)
悠長にしている場合ではない。昂我は四桜山方面に向けて裏路地を走り出した。
黄玉の欠片が無くなったおかげで身体が羽のように軽く感じる。全力で力をこめれば世界記録も追い抜ける。学校では絶対に出さない力だ。
四桜山まで十キロはあるだろう。
疾駆しながら建物の隙間から四桜山を確認するが、見るたびに蒼い光が点滅し、関係のない建物が後ろで爆発する。
(何故そこまでして俺を狙う!)
爆発が迫るのでそれに合わせるように、次々とパトカーも昂我を目指して集合してくる。
(裏路地を走っている方が危険か――だがしかし!)
大通りに出ればパトカーにすぐ見つかってしまう。
もっと早く、もっと早く、もっと早く駆け抜けなければ――。
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