第19話 無口でダンディーなハードボイルドだって言ってんだろ
太陽光が住宅地に降り注ぐ。冬にしては今日は暖かい。
眩しい光に目を細めると折れた標識の先端が、キラキラと光を反射する。
(――反射?)
反射にしては光が随分と乱反射し、周囲に薄っすらと虹が出ている。
「浅蔵、あの切断面に何かある。ダイヤモンド・サーチャーで確認できるか?」
「なんだと?」
浅蔵は昂我が見ていた方角を見るが、なかなか見えないのかその場まで歩きだした。二十メートルほど離れているので、本来なら見えにくいのも仕方がない。
浅蔵は標識のポールの前で、フッと小さく息を吐く。
目の高さより少し上くらいにあるポールの切り口が僅かばかり鋭利な刃物で切られ、空中に飛び、浅蔵は片手でそれをキャッチする。
左手の甲はすぐさま光に包まれる。
「……微粒だがこれは何かを削った粉……か? 少なくとも標識の素材ではない。自宅で見比べてみよう。ここでは見ただけじゃ分らない」
いつも持っているのかコートから密封パックを取り出し、斬ったばかりのポールを入れた。
「僕はこれを持ち帰って調べよう。凛那君は彼の見張りを続けてくれ。闇雲に探し回っても黒騎士は見つからないからね。単独行動はしないように」
しかし、と浅蔵は昂我の肩を叩く。
「その長い前髪でよく見つけたな、視力が何処かの民族以上だ」
左目にかかる前髪を見て、よくやったと浅蔵が肩を叩く。
「丁度陽の光が当たったからな。偶然さ。あとそれ、褒め言葉にしちゃ、あんま嬉しくないぜ。なんにせよ俺の腕もここまで来てるから、急いでもらえると助かるわ」
左腕のレプリカは肘から二の腕の中間あたりまで浸食が進んできている。今日の夜には左腕は覆われるだろう。
これがこれ以上進んだらどうなるのか恐怖はまだないが、死と直面した時、自分でも理性を保てるのか、昂我はよく分からなかった。
「任せておけ、口煩いのを斬ったら、化けて出られても煩そうだからな。そうならないためにもこの件は早めに終わらせてみよう」
浅蔵はそう言って歩き出す。
「誰が口煩いんだよ、無口でダンディーなハードボイルドだって言ってんだろ?」
その言葉に浅蔵は返答せず、背中を向けたまま片手を上げる程度だった。代わりに聞こえた声は、
「確かに兄さんの言う通りです」
凛那の一人納得した言葉だった。
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