第18話 確実な言葉を頼むよ

「まずは他の騎士たちの情報を調べた。僕は騎士団長の騎士紋章を持つ《金剛》、凛那君は《紅玉》、残りは《柘榴》、《紫水晶》、《藍玉》、《翡翠》、《月石》、《橄欖》、《青玉》、《紅水晶》、《黄玉》、《瑠璃》の全十二席」

 その文字の並びに昂我はピンと来るものがあった。

「誕生石なのか、騎士は」

 よく知ってたな、と驚いた顔で浅蔵はこちらを見る。

「騎士鎧の武装には紋章と同じ原石が使用されている。凛那君のルビー・エスクワイアの《月をも貫く槍》の先端部分の刃は巨大なルビーの原石だ。僕のダイヤモンド・サーチャーは光り輝いていてよく見えないが、刀身はダイヤモンドだと思う」

 それで、と浅蔵は続ける。

「現在の騎士紋章の持ち主の名前までは書かれていなかった。それは多分、戦いで命を落とせばすぐ次の者に騎士紋章が移動するからだろう。だから戦いの多い時代、所有者を書いても埒があかなかったのだろう。また鎧の能力も記載がなかった。それに関しては敵対組織が見た場合の事を考えてだろう。さて、本題だが……この中には『零』と呼ばれるモノが無かった」

「そりゃ無い事もあるんじゃないか? 騎士の本名かもしれないだろ?」

「勿論その可能性もある。だがあの黒騎士は僕と凛那君の事を『金剛』と『紅玉』と呼んでいた。本名を呼ぶ可能性は低い気がする、呼ぶなら騎士紋章名だ。それに黒騎士は鎧に変化する前、僕達に必死に倒す方法を伝えていた」

 倒す方法、それは《月をも貫く槍》を持つルビー・エスクワイアの一撃だろう。

「――零がいない今、黒騎士を倒せるのは紅玉騎士の槍しかない。この言葉、《月をも貫く槍》と同等の威力を持つ《零》というシステムか、倒せるに値する《零》という人物だと僕は思う。凛那君が黒騎士を倒すのが確実な方法かもしれない。だが零という他の方法も調べておけばより確実だろう。例え失われたモノだとしても、そこから黒騎士討伐に関するヒントを得られるかもしれない」

 より確実な方法を見つけて被害を少なくして黒騎士を討伐する。不確定なものを消し、確実な成功を手にするために行動する。いかにも浅蔵らしい完璧主義な行動だと昂我は思った。

「さすが騎士団長だ、引き続き頑張り給え」

「何故上から目線なんだ、赤槻昂我」

「俺はすぐ行動してしまうから、その慎重な手探り作業を学びたいって思っただけさ」

「確かにお前は苦手そうだな、慎重な行動ってところがな」

 昂我の左腕を見て浅蔵は苦笑する。それはそうだ。考える間もなく凛那の目の前に出て身代わりになってしまったのだから、思慮深いはずはない。

「そうだろ、そうだろ!」

 そんな中、浅蔵の肩をバシバシ叩いて笑っている昂我を、静かに見ていた凛那が申し訳なさそうに申し出た。

「に、兄さん、私も何かお手伝いできることがあれば言ってくださいね。いつもまかせっきりですから」

「凛那君はその男の見張りをしっかり頼むよ。僕は戦いではあまり活躍できないが、こういった場面は分析型の見せ場だからね。それに新しい知識を得るのは嫌いじゃない」

「ああ、浅蔵ならきっとできる。俺はそう信じてるぜ……!」

「僕は不確定要素が含まれている、励ましは嫌いだな。確実な言葉を頼むよ、赤槻昂我君」

 冗談めかしに浅蔵は言い、改めてダイヤモンド・サーチャーを展開し、周囲を見回す。

 時刻はそろそろ十時頃だろう。

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