第11話 自分の『意志』で動けたことが

浅蔵は何事もなかったように再びお茶を飲み、

「さて、僕はそろそろ失礼するよ。僕たちはまだ敵も知らなければ、自分たちの事も知らない。僕は騎士についてよく調べよう。騎士鎧の扱い方さえ知れば、勝機が増えるかもしれない」

 凛那は「玄関までお送りします」と立ちあがるが浅蔵はそれを制し、純白のコートを羽織る。

「凛那君はこいつの看病で寝てないだろう? 昨日の初戦闘もあって疲れているはずだ。今日はゆっくり体を休めてほしい。黒騎士探しは今晩は無しだ」

 そう言い残して浅蔵は部屋を出た。浅蔵の代りに廊下の外気が部屋に入り込む。

 夕陽は浅蔵を追って出ていってしまった。

 断られた主人の代わりに見送りに向かったのだろう。さすがよくできたお手伝いさんである。

 室内は昂我と凛那だけになってしまった。

 凛那は何かを言いたげだったが結局口を開かず、クッキーに手を伸ばす。

 カリッと砕かれた小気味よい音が響いた。

「……寝ずに看病してくれたんだ、ありがとな」

 浅蔵の言葉を思い返し、昂我は俯いている凛那に声をかける。

「い、いえ、私の責任なので――私が、巻き込んでしまったので」

 続く言葉は震える声に混ざり、音にならなかったが、口元が動いたのは見えた。

 本当にごめんなさい、と。

 四人で談笑していた時のような明るさはなく、凛那は失意の念に囚われている。

「凛那が責任を感じることじゃない。俺は本当に体が自然に動いたんだよ、珍しくね」

「でも……」

 彼女が少し顔をあげ反論するが、昂我は話を続ける。

「普段は怖いお兄さんとか、お化け屋敷を怖がる俺がだよ? 女の子を守れたなんて凄い成長さ。こう見えてもビックリするほど小心者なんだぜ。だからこれでいいと思ってるんだ。自分の『意志』で動けたことが」

 そう、自分の意志で自然と動けたことが。それは本当に自分にとって凄い事なんだ。

 考えていてもそれを行動に移す事はとても力がいる事なのだ。

 だが凛那は何も言わず、再び俯いてしまう。

 明るくするために冗談を含めていったのが逆に失敗しただろうか。テンションが空回りしてしまった昂我は、「という感じでございまして……」と情けなく意気消沈した。

 外の雪は降り続いており、夕陽もまだ戻らない。

 この静寂はもう少し続きそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る