第10話 ついでにキンキンに冷えたコーラでも貰いたいもんだね

「見ての通り、夕陽さんはナイツオブアウェイクの関係者だ。今は殆ど残っていないが騎士には身の回りの世話をする従者守護者がいる。僕の家系にはもういないが、夕陽さんは紅玉を守るナイトレイ家に代々使える家系さ。だから話は聞かれても大丈夫。ありがたく、お茶を頂きながら黒騎士対策を進めよう」

 浅蔵の眼にはこれ以上話題を広げるなよ、貴様。と強い意志が感じられるので、昂我はやれやれとアイコンタクトを送り返した。

 この話題に対して凛那はどう思っているのだろうと彼女を窺うと、特に何も考えていないのか「ん?」と首をかしげる。

 そしてハッと思いついた顔をして、こう言った。

「彼女はとっても可愛らしい方で、兄さんにお似合なんですよ! もー、夕陽さんは毎回こうなんですよね。すぐ誰かと誰かをくっつけたがるんですから」

 困った顔をしながら結局話題を戻してしまい、浅蔵に咳払いされて、凛那は委縮する。

「さて、君が起きる前に凛那君と相談していたんだ。これからの君の処遇を」

「殺すとか言ってたやつか」

 リンゴのフレーバーティーを飲みながら驚きもせず答える。身体に紅茶が染み渡っていき、身体の芯から温まるのを感じた。

「……聞こえてたのか」

「まあな、でもこの通りだ。左手だけ変化しているが意識はしっかりしている」

 意志も蝕まれる可能性があるのかは分からないが、現状左手以外は健康そのものだ。

「そこでだ。君にはこの屋敷で、事が収まるまで暮らしてもらう」

「ふーん……って軟禁かよ!」

 手に持ったクッキーを危うく落としかける。

「君の身体は徐々にレプリカとして変化していく。その変化を家族や学校に見られたくないだろう。ましてやレプリカに覆われた時、そこが自宅や学校だったら全ての人に危害が及ぶ。その為の処置だ。ここには紅玉騎士の凛那君もいるし、適所だろう」

「妥当だとは分かっているんだが……学校や家にはどういうつもりだ?」

「病状ならいくらでも書いてやろう。勿論今回だけだが」

 浅蔵総合病院というバックボーンを持つ男が言う。

 この辺りは何も聞かなかったことにした方が賢明かもしれない。

 昂我は面倒な話題は広げない性格なのだ。

「俺は気にしないが凛那は良いのか? さすがに同年代の男子を家に置くのは、抵抗あるんじゃないか?」

 見た目や話し方通りに大人しい女の子だし、お嬢様学校の少女だ。男性への免疫もなさそうである。それを考慮するといかがなものか。

(――俺が事件を起こす考えはないが)

 さすがに異性が近くにいるのは不味い気がする。

「と、殿方と一緒に暮らすのは確かに初めてですが、家には夕陽さんがいらっしゃいますし、大体の事は問題ないと思います」

 凛那は頬を赤らめているが、その背中では満面の笑みを作っている夕陽がいる。数分一緒にいただけで分かるが、夕陽さんは間違いなくこの屋敷の凛那を守るお手伝いさんだろう。はたまた魔王城のドラゴンか。守護者の文字に間違いはないってことだ。

 間違いを起こしてしまえば、昂我は守護者に狩られる哀れな怪物になってしまう。

「こちらの部屋をご自由にお使いください。命の恩人を危険に晒せませんから」

「危険?」

「僕の家には軟禁できないって事さ」

「ますます分からん。人間を餌にでもする番犬でも飼ってるのか? それともなにか、カラクリ屋敷か何かか? 冗談きついぜ」

「厳しい騎士のお家柄でね。僕の父親は騎士紋章金剛の元所持者だといったろ? 元団長がこれから人類の脅威へと変化する、片腕をレプリカ化した人間を見たらどうするかな」

「た、助けるだろ。団長をしてきた人間だ。きっと優しさに満ち溢れ、俺のような哀れな人間を救ってくれる……と期待したい。ついでにキンキンに冷えたコーラでも貰いたいもんだね」

「その逆だ。コーラどころか空気すら口の中に入る事は二度とないだろう。貴様は《脅威》となる前に《抹消》される。小を殺して大を生かす性格なんだ」

 吐き捨てる様にいって浅蔵はカップケーキを頬張る。近くにいる夕陽に「美味しいですね」とにこやかに話しかけていた。

 どうやら父親の話題は許嫁の話題よりも、触れて欲しくないのだろう。

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