第8話 一週間か

 浅蔵は昂我の問いに無言で頷く。

「となると俺のリミットはどの程度なんだ。いつ全身浸食されちまう? 自慢じゃないが俺は人一倍死にたくないんだ。いつまでも楽に楽しく生きていきたい派なんだよ」

 努めて明るくいったが浅蔵の表情は硬い。

「ダイヤモンド・サーチャーで見れない以上正確なリミットは分からない。もしかしたら君の気持ち次第かもしれないし、そうじゃないかもしれない。だが、一晩で左腕とみると――一週間程度か」

「一週間か……」

 なんと心もとない日数なのだろう。

 甲冑へと変化した左腕を握り締めるが、未だに死に直面している実感が薄い。

「今後は君――赤槻昂我が力尽きる前に――僕と凛那君で黒騎士を見つけ、倒すしかない」

「それが勝利への道筋ってやつか、分かりやすくて何とかなりそうじゃん。こっちは化物の天敵のナイツオブアウェイクの騎士が二人、浅蔵と凛那の鎧の力で、ババって倒してしまえばいんだろう?」

 再度出明るく二人に言ってみたが、やはり騎士二人はどうにも浮かない顔だ。

「な、なにか、問題があるのか?」

 浅蔵は何とも言い難そうに一度考える素振りをし、答えを返した。

「問題は黒騎士の硬度だ。凛那君の騎士鎧ルビー・エスクワイアは戦闘型で《月をも貫く槍》を持っている。しかし黒騎士化を貫けなかった。それ故、僕たちは黒騎士に致命傷を与える術がない。また僕の騎士鎧ダイヤモンド・サーチャーは状況把握型でね。その個体の状況や戦況把握には特化しているが、戦闘となると有効打があるのを確認した事がない。つまり今の僕達に討つ手はない」

 打つ手はない。

 浅蔵に誰も言葉を返す事ができなかった。

「……他に仲間はいないのか?」

「僕も考えたが連絡先が掴めない。情けない話だが三百年の月日は今の僕たちに大きな影響を与えてくれたよ。なんせ脅威が無くなれば自ずと音信不通になる。その結果、他の騎士との関わり合いが皆無なんだ。それに元騎士である僕の父親は騎紋章金剛を僕に受け渡したから戦う術がない。《紅玉》の保有者だった凛那君のお父様はつい先日亡くなられたばかりだ」

 三百年の時はあまりにも長く、騎士団はほぼ崩壊しているようなものなのだろう。それでは増援を期待するほうが無理な話だ。

 浅蔵との会話の間、ずっと申し訳なさそうにしていた凛那が、か細い声をあげた。

「わ、私はあの時、感覚的に槍を投げてしまいました。もしかしたら、もしかしたらですけど、もっと私の迷いが無ければ――黒騎士を――なんとか、できた、そう思うんです」

「正直なところ打開策はそれしかないと僕は思っていたよ」

 浅蔵は優しい声で凛那に微笑み返す。

 この二人の雰囲気は、なんというか兄妹のようだ。

 優しい雰囲気の兄と弱々しい妹。お互いが新米騎士ということもあり、精神的にも助かっている部分がお互いあるのだろう。

「黒騎士を倒す方法は一つ。それは黒騎士自身も言っていた事だ。『紅玉騎士の槍で貫け』と。僕達は正直、まだ自分達の騎士鎧の性能を出しきれていないし、把握しきれてもいない。まだそこに可能性はある」

 確かに最強の槍を鍛えあげるしか今のところ方法はないだろう。昂我も自分の腕が侵食されているのだから、自分の事は自分で解決したいのだが、いかんせん今の昂我では戦闘の壁程度にしかならない。

 方針が決まったところで浅蔵と凛那はお互いに思う所があるのか、そのまま黙ってしまった。

 昂我も気軽に「方針も決まったし、これで倒せるんじゃん!」とは言えない雰囲気だったので、なんとなく窓の外に目を向ける。

 数分の静寂の中、コンコンとドアを叩く音が聞こえた。

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