第7話 騎士って、あの王様とか守る?

「性格か……今の状況を理解する前にその明るさだと、多少伝えにくい」

「コイツについてか」

 ガントレットと化した左腕を叩くと、重々しい低音が跳ね返ってきた。

「何処から説明したものか――まず僕達の素性から話そう。僕達は騎士という存在だ」

「……騎士って、あの王様とか守る?」

 騎士というのは中世ヨーロッパに階級として存在し、王や城を守護する存在だったのは誰もが知る有名な話だ。

「僕達の場合はもっと大規模で、厳密にいえば守護するのは人類全てが対象だ。僕達騎士は特殊な存在でね。全世界に十二名存在し、総称を騎士団ナイツオブアウェイクという。《騎士紋章》が呼び出す《騎士鎧》の能力を使用し、人類の脅威または脅威に変化する可能性を秘密裏に処理してきた。そして騎士が死んだら騎士紋章は次の者に受け継がれ……今は僕達が騎士紋章金剛と《紅玉》を保有している」

「随分壮大な話だ……信じていない訳ではないけど、実感し難いな」

 率直な感想を述べると共に、思った事も続けて伝える。

「そういや世界に十二名しかいないのに、そのうちの二人が何故もうここに揃ってるんだ?」

 世界は広い、脅威の度に十二人の騎士が飛び回っていたのでは、間に合うものも間に合わないのではないだろうか。

「実は騎士の活動は三百年前にほぼ終了した。現代の騎士達は家紋のように騎士紋章を受け継ぎ、一般人と同じように生活している。だから元々付き合いのあった騎士は近くの地域に屋敷を築いた」

「仲が良いから、近くに住むって話か」

「君の言葉は乱暴だがまとめるとそういう事だ。実際、浅蔵家とナイトレイ家は昔から交友関係にある」

 こくこくと隣で凛那が頷いた。

 二人からは気品というか――昂我的に言えば、お金持ちの坊ちゃんと箱入りすぎる娘さんのオーラを感じる。庶民の身としては眩しすぎて、話をするのも烏滸がましい気持ちである。

「それじゃ、浅蔵――さんと、ナイトレイ――さんが昨日戦っていたという事は、」

「浅蔵でいい。似たような歳だ」

「わ、私も凛那で大丈夫です」

 との二人の台詞に言葉を改め、話を続ける。

「浅蔵と凛那が対峙していた相手――あの黒いのは人類の脅威なのか?」

「そのはず……だが」

 浅蔵の言葉は歯切れが悪い。

「僕達は騎士紋章を受け継いで日が浅い。しかも僕達が生きている間に事件が起きるとは思っていなかった。なんせもう活動はないといわれて受け継がれてきたものだ。だから経験ではなく憶測でしか話せないのを許して欲しい」

 構わないとの意味を込めて、昂我は右手を軽く上げた。

「便宜上あの男を黒騎士と呼称する。まず彼が何者かだ。三百年ぶりの脅威であることは騎士紋章が反応しているから間違いないだろう。しかしそれ以上の情報はない」

 だが、と浅蔵は話を続ける。

「確実なのはあの男が騎士に恨みを強く抱いているという事だろう。理由は分からないが過去騎士に何かされたか一族か――または見た目は人間だが人ならざる存在だったか」

 黒騎士の言動や相対していた時の表情を思い出したのか、浅蔵が僅かばかり身震いした気がした。浅蔵は思案しながら顎に手を当て、ふむと口ごもる。

「人が変化した化物や、人に化ける化物は神話や伝承にも存在するが……ダイヤモンド・サーチャーの《全知の視界》をキャンセルするほどの生物がいるだろうか」

 昂我のレプリカと化した左腕を見て、浅蔵は思考を巡らせるが明確な答えを出せないようだ。

「君が寝ている間に短時間だけ家の書庫で調べてきたんだが、まだ全て調べきれていなくてね。結局黒騎士の正体は掴めないままだ」

 それと、と浅蔵は口を開く。

「君の腕もダイヤモンド・サーチャーで確認したが、やはり結界のようなもので《全知の視界》でステータスが確認できない。これは見た感じの予想だが君はこれからレプリカに蝕まれていき、最後は黒騎士の仲間として心を失い、人類の脅威となる……といったところか」

 蝕む。今はまだ肘までだが、徐々に上に登ってきている雰囲気を感じる。

「ダイヤモンド・サーチャーは黒騎士の能力を把握できなかったが取り巻く状況は見通せる。周囲の因果律を読み解くと、今の黒騎士の状態は孵化したばかりの雛に過ぎない。己の肉体と他者を鎧に変化させる術式を使用したから、それ相応の疲労があるのは当然。だが消耗状態から回復すれば黒騎士は再び活動し、被害は増すだろう。そうすればこの四桜市を始めとし、人類に多大な被害が出るのは明白だ」

「明白か……けど、いくら相手が強くても現代兵器で倒せる可能性もあるだろ? 派手にやれば自衛隊や警察も出るだろ? 流石に戦車や戦闘機には勝てないんじゃね?」

「殆どの人外の者は現代兵器が効かないのは昔からのお約束さ。理屈としてはそこに存在しているが本体が存在している次元が違う。狙った次元に干渉できるのは騎士鎧だけだ」

「じゃ、じゃあ浅蔵と凛那、二人の騎士が倒すしか打つ手はないって事か?」

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