―指令:部活を設立されたし―
ついに高校生!
不安半分ウキウキ気分半分!
どんな友達ができるかな、何の部活入ろうかな!きゃーっ楽しみっ。と思いながら挑んだ入学式……はもう一ヶ月も前の行事。桜も散ってしまったというのに私は何の部活にも入らず、小学中学、そして高校のクラスまで一緒のひまわりと毎日、変哲もなく時だけ経過する日を過ごしていた。
このままじゃ青春なんて起こらない! 中学生のときにテレビで見た夏の甲子園みたいにもっとこう、泣いたり笑ったり、喜んだりガッツポーズしたりするのが高校生だと思ってたのに!
「ねぇーひまわりぃ」
「ひまわりってばぁ」
「ひぃぃまぁぁぁわぁ」
「あーもう、うるさい」
ひまわりこと、伴向日葵はいつも本を読んでいるんだけど、可哀想なことに私にいつも邪魔される。背は小さいくせに、顔を上げず、本を読む角度から目線だけスッと上に向ける。この時の彼女の顔を初めて見た人は、睨まれてたって思うかもしれない。けど大丈夫。慣れると上目遣いでむしろ可愛いので!
「もう五月も半ばだよー。入る部活決めたー?」
「私ぶかつ入らないから」
「えっ…」
ぽかーん、て顔をして向日葵のことを見る。すると彼女の目が本から外れて私の方に向けられる。が、三秒で逸らされる。いやもう向日葵の意思は何度も聞いて知ってるんだけど、私はどうしても彼女と一緒の部活に入りたいの!
ということで、本を読んでいる向日葵の身体を揺すったり突っついたりしながらぶかつーぶかつーって呟いてると、本を閉じ、少しキツイ上目使いで一言。
「バカ、いい加減にしないとおこるよ」
「ちょっ! まってまって。もうちょっと私を見て! ほらっ私の瞳を見てっ」
あーうるさい、なによ何かあるわけ、と言いながら、ようやく重い頭を首を動かして上げて、私の方に顔を向けた。
チャーンス!
ガシィッ!と両手で肩を掴み、数センチまで顔を近づけた。そして力一杯に目を見開き、キラキラさせて、言った。
「ひまわり、ぶかつ、入ろ☆」
(あつくるしい…)
あぁ、今完全に心の声が聞こえた。やっぱり長年友人やってると一心同体。考えてる事も手に取るようにわかるっ…!
亜美の目を見ていた向日葵は、目を横に逸らして言った。
「入りたいぶかつ、無いからいい」
「えー、やだやだ!ひまわりと部活やりたいー、やりたいやりたい! 手芸部でもいいからやりたい! ねぇやろーよー」
一心同体、なんでもわかる。
手芸部も興味が無いってことが!
というよりもう完全に無視し、首を下げて、さっき閉じた本を開いて読み始めちゃった。
こりゃだめだ。他の方法を考えなくては……。
五月も終わり六月になっても私は諦めず、ひまわりの説得に精を出していた。いつもならば何度も言えば最終的には彼女が折れて、私の暑苦しさが勝ることが多かった。けれど、本当に入る気のない人に興味を持ってもらう事が難しく、更に言えば、私自身、入りたい部活があるわけではなく、ひまわりと何か楽しいことをしたいというだけだった。それだけの理由では説得できる材料として乏しく、六月もいつの間にか終わっていた。
七月に入ると、部活の事よりどこかに遊びに行く方向に向いていた。
部活に入っていない人は十六時頃に下校する。日はまだ暮れない。
「ひまわり、あそこのドーナッツ屋寄ってかない?」
「あー、そういや今日は新作の発売日だっけ。よし、いってやろう」
お店には二人で行って、好きな物を食べたり飲んだりする。席に座り、泥だんごをピカピカにする方法とか女子高生のトークとは程遠い会話をして帰る。それもなんか青春の一ページのような気がして楽しかった。もう、部活は入らなくてもいいかな。そう思っていた。
「そうと決まれば善は急べ焼き!売り切れる前にレッツゴー!」
「あっ、ちょっと、早い」
ドーナッツ屋に着いた私達は残念な気持ちになった。シャッターが閉まり、張り紙には臨時休業致しますの文字。既にドーナッツの口に成っている。この遣る瀬無い気持ち、この際ドーナッツでなくてもいい。別の物でもいいから晴らしたい。
「あ、私ちょっと気になってるお店あるんだよねー」
「どこ?」
「まあ、着いてからのお楽しみってことでぇ」
「まあいいけど」
「じゃ、こっちこっち」
「だから早いってばっ」
到着するとそこには一見、古めかしい老店舗。どんな感じかと窓から覗くと、中は大人びた感じ。あと色々なコーヒーの器具が置かれていて、店員はおじさんと若い女の子が働いていた。
チリンチリン。
「ささっ、どうぞどうぞ」
ひまわりを中に誘導し、自分も中に入る。
『いらっしゃいませ。ご注文はカウンターでお願いします』
と看板が置かれている。カウンターでは髪の長いサラサラヘアーの若い女の子が立っていた。あれ、よく見るとうちの高校の緑色カーディガンきてるじゃん。
「あ、ひまちゃん。いらっしゃい」
「やあ、かおるん、来たよー」
「えっ? なになにひまわり来たことあったの? ていうか二人とも知り合い?」
「休みの日に何回かここでね」
「初めまして。三石薫といいます。一年D組です。よろしくね」
「私はひまわりと同じB組の永高亜美。こちらこそよろしくー」
「私はドリップコーヒー。バカは何にするか決めた?」
「えっ? あーじゃあ、カフェラテにしようかな」
「はい、三百五十円ずつです。じゃ、ちょっと待ってて」
ドリップコーヒーはおじさんが入れて、カフェラテは彼女が淹れるんだ。あれ、ひまわりがおじさんと何か楽しそうに話してる。男の人と話してるの見るの、初めて見たかも。
あの人、いったい何奴っ!
「永高さんはこの店は初めてなの?」
「そうだよ。亜美でいいよー。えと、かおるんはいつから働いてるの」
「初めて二ヶ月くらいかなぁ」
ほう、話ながらもエスプレッソを抽出する動作をやめない。かっこいいな。
「すっかりカフェ店員って感じだねー。かっこいい!」
「えへへ、そんなことないよ」
そして照れてるお顔は可愛いじゃねぇか。
「ところで、あそこのおじさんは一体何奴だい?」
「え、あー、石井さん? 石井さんはここの店長だよ」
「あ、そうなの。ひまわりと気さくに話すなんてなかなかの強者ですなあ」
「私がバイトし始めたときにはもう石井さんと話してたし、前から来てたんじゃないかな」
「えっ、そんな前から?」
「たぶん」
「ふぅん」
私にはナイショでこんなところに来てたなんてっ!
「はい、カフェラテお待たせしました」
「あ、ありがとー」
「ひまわりー、先座ってるよ?」
「あいよ」
すぐ近くの空いてる席に座った。綺麗だし落ち着く雰囲気のお店だなあ。なんて思いながら見渡していると、表彰状やトロフィーが飾ってあるのを発見した。なになに、『第一回全国高校バリスタチャンピオン大会優勝 石井』だって? そんなに凄い人なんだ。
全国大会に出場できるのは都道府県毎に勝ち残った人のみ。高校カフェ部なら誰もが目指す頂点。それが全国高校バリスタチャンピオン大会。去年の第三十二回の試合をNHKの番組で見たけれど、団体でコーヒーを入れて団体で勝利をつかむ。制限時間の中で、ルールがあり、それに従いコーヒーを作る。それを審査員が判定し、最後に勝者が決定される。ただコーヒーを作るだけじゃない。味はもちろんのこと、コーヒーを説明するプレゼン力。コーヒーについてはよくわかんないけど、見てるだけでどれも美味しそうだった。けれど大会ってことは、やっぱバトルでしょ?ガチンコバトル。夏の甲子園ほどじゃないけど、何だが楽しそう……。
ピーン。
私の中で豆電球が光った。
ひまわりはコーヒーが好き。
コーヒーは大会がある。
入りたい部活がないなら作ればいい。
目の前にカフェラテを入れられる同学年の子がいる。
ひまわり、私がいる。
三人。部活設立はたしか四人だったからあと一人。
これってひょっとしたら、いけるんじゃない?
ピピピピピーン。
「これだーっ!」
店にいる人たちが皆、私の方をみて驚いていたが、ただ一人、ジト目で睨んだ後にため息をついていたのを私は見逃さなかった。
☆
次の日から私は部活設立のために動いた。元からある部活なら今までのようにひまわりを誘ってもよかったんだけど、流石に最初から準備するとなると、迷惑かけられない。まず顧問は……いいや、暇そうな大和先生で。
大和先生は美術の先生で、見た目は四十くらいだけど、本当は三十歳。今期から来た新人の若い先生。コーヒー好きでしょ?飲みたいよね!じゃあお願い!って相談するとあっさりOKしてくれた。正式に部活に認められたら小さな空き教室を貸してくれるとこまで取り持ってくれた。さすが先生!
さて次は、
「ねぇねぇかおるん、エスプレッソ部作るんだけど、かおるんは入ってもらうとして他に誰か入りそうな人いない?」
「えっ? あみちゃん。エスプレッソ部って何?」
「私がつくるの。部活」
「ほんとに?」
「ほんと。というか今設立を目指して動いてる最中なの!」
満面の笑みをかおるんに向ける。
「ちょっと楽しそう…」
「でしょでしょ! もうね顧問も大和せんせに決まったし、部室も空き教室確保してもらってます。あとはメンバーと、書面で届出を出して、面接をするだけ」
「そうなんだ。メンバーはあと何人入れればいいの?」
「ひまわりは絶対入ってもらうから、最低でもあと一人!」
「私はもう入る前提なんだね」
「あっ、ごめん。もうメンバーに入れちゃったんだけど…」
「いいよ。私も入る」
「ぃやったああぁぁっ!」
私は薫の両手を掴んでブンブンと振り回した。
「あみちゃん、静かにっ、みんなこっちみてる……」
「これであと一人だよ!やばい、現実味帯びてきたぁー」
「えと、一つ質問したいんだけど」
「えっ?なになに? どんどんきいてきいて」
「エスプレッソ部って、何するの?」
「えっ、あー、えーと、そりゃあやっぱエスプレッソ入れたり? するのかな。あと大会でる!!」
「おそるおそる聞くけど、機材はあるの?」
「えっ? キザイ?」
「エスプレッソを入れる機械とか…」
「あっ!キカイ! 機械かぁ。……いくらくらいするのかな」
「えっと、私の店はたしか八十万くらいっていってたような…」
「ムリじゃん」
教室から急にひまわりが出てきた。
「無理じゃない!」
「あ、ひまちゃん。おはよぉ」
「バカの声がするなーって思ったからきてみたけど、やっぱり」
「無理じゃないもん!」
「そんなお金ないじゃん」
「諦めたらそこで夢終了だもん」
「いやそうだけど、バカの無謀な夢にかおるん巻き混んだらダメじゃん。かおるんは忙しいんだよ」
「ひまちゃん、私はだいじょ」
「ひまわり、もし私が部活作ったら入ってくれる?」
「え?」
「ちゃんと機材とか用意して、コーヒー入れられるようになったら入ってくれる?」
「もしほんとにできるなら、入ってもいい」
「よっっっしゃきたぁ! これであと一人っ!」
「ちょっ、バカ! 私の話聞いてた?」
聞いてた聞いてた。けど、それよりも一番大きい確約を手に入れた私にはもう怖いものはエスプレッソの機材ぐらいなもんだった。
その日の放課後、私は向日葵に
「ちょっと今日は両親の都合で先帰る」
と嘘をついて、先に帰る振りをした。そしていずれはエスプレッソ部の部室となるであろう空き教室に薫を呼び出した。
ガラッ
「あ、かおるんようこそ! ささっどうぞこちらにおすわり下さい」
「えっ、あ、はい!」
教室の真ん中にちょこんと置かれた机と椅子。そしてその前にはホワイトボードがドーンっと置かれ、まさにマンツーマンの講習をするかのような体制となった。そしてホワイトボードには予め書いておいた
『第ぜろ回!エスプレッソ部 会議!』
と、
『キザイ調達!』
『ナカマ募集!』
『エスプレッソ部』
の文字。
「ゴホン。えーそれでは、第ぜろ回!エスプレッソ部の会議を始めたいと思いますはい、拍手!」
パンパンパンパン。半ば強引に薫の拍手をもらったが、それでも二人だ。虚しい。
「あ、ちゃんと議題があるんだ」
「そう! もうそろそろ夏休みになっちゃうし、問題点とかも含めて今日中にまとめたいなって思って」
「わー」
薫が今更大きな拍手をしはじめた。反応は少し間抜けだけど、どうやらエスプレッソ部の結成に本当にやる気出してくれてる。私、ちょっと嬉しいぞ。
「で、議題は全部で三つあって、一つ目は…」
「あ、あみちゃん。ちょっとまって」
「ん? どしたの。おトイレ?」
「ううん。実はこの議題の中で解決しそうな要素を持ち込んだの」
「えっ! まさか…」
「そうなの」
「八十万の機材買ってくれるの?」
「あーうん、ごめん。それじゃないよ」
「あれ、違ったか」
「じゃあちょっと呼んでくるね」
そういうと薫は一度教室から出て、何やら教室の前で誰かと話している。
「あみちゃん、いい?」
「いいよー」
「はい、入って」
そういうと、誰かがドアから顔をヒョコッとだし、喋った。
「あ、どうも」
髪型はショートでボーイッシュ。目がぱっちりしてる。
その子は歩いて教室の中に入った。背は少し低いけど、向日葵よりも少し背が高いか。
っということは……。
「あっ!もしかしてエスプレッソ部に入ってくれる人!?」
「うん! 私の幼馴染のこまちゃん」
「なんとまあっ、さささっ、どうぞどうぞこちらにお座り下さい」
さっきまでは薫用だった席を差し出した。その子はどうも、と一言言って席に座った。座る姿勢は背筋が伸びていて、凛々しい。ちょっと美青年じゃないの。女の子だけど。その子は座ったまま手を急に挙げて、自己紹介をした。
延絵小町(のべこまち)一年D組。
「こまちゃんはジャグリング部もやってるから兼任になるけどいいかな」
「いーに決まってるよ! こまちちゃんもコーヒー好きなの?」
「うーん、まあまあ。どっちかっていうと紅茶派だけどね」
「あー紅茶もいいね! 放課後にティータイムかぁ。それもいいねっ!」
「けいおんっ!」
急に小町が叫ぶもんだから、私と薫はきょとん、としてしまった。
「あー、気にしないで。それで、エスプレッソ部って何する部活なの?」
「あ、うんうん。それをこの場で話したいと思ってたんだ。私の思想を簡単に話すけど、その後にみんなの意見ももらいたいの。いーい?」
「うん」「はーい」
「よし。じゃあ改めてましてー、早速会議を始めたいと思います!」
「わー」
パチパチパチ。
と、こんな感じで四人目も集まった。この日は機材について、エスプレッソ部の活動内容について話し合った。機材については、必要な小物については薫が準備できるらしい。コーヒー豆を挽くためのものはなんとアルバイト先から予備用を借りられるらしく、それをお借りすることにした。食器類は小町が用意することになった。私は何を用意するかというと、全く解決策が見つからないエスプレッソマシンをどうにかすることになってしまった。
続いてエスプレッソ部について。正式な部活として設立させるためには、まず届出を生徒会に提出する必要がある。そのあと生徒会による面接にて納得させ、最後に校長先生の承諾が得られれば正式な部活となる。向日葵と一緒に部活がやりたい。だけでは勿論、通らない。皆で力を合わせて内容を作り込んだ。そうして出来上がったのが、
部活名称:エスプレッソ部
部員:永高亜美、伴向日葵、三石薫、延絵小町
顧問:丸山大和 先生
【主な活動内容】
コーヒーを淹れる事。
コーヒーについての知識、経験を得る事。
【目標】
コーヒーの全国大会に出場すること。また、文化祭や商店街のお祭りなどでコーヒーを紹介するコーナーを開き、コーヒーの魅力について皆に知ってもらう事。
目指せ!全国大会優勝!
「よっし、できたっ」
「優勝って、やりすぎなんじゃ…」
「だいじょぶだいじょぶ。大会はよくわかんないけど、とりあえず今は意気込みだけは伝わるようにこれでいくから!」
「おー、あみすけカッコイイ〜」
「でしょ? よし、これで生徒会に提出してくるね。じゃあ今日の会議はこんな感じでおしまーい。解散っ!」
「お疲れさまでしたっ」
「お疲れさまー」
「あ、次会う時はエスプレッソ部として集合するからね。そこんとこよろしく!」
「ふふっ、面接、しっかりがんばってね。部長さんっ」
「あと、あみすけ、エスプレッソマシンもねぇ」
「あっ、お、おう!なんとかがんばる! じゃ、寄るとこあるから先帰るね」
私はエスプレッソマシンについては全く確証のない返事とガッツポーズを二人にしてから、生徒会室に移動し、届出を提出した。面接は次週の月曜日の放課後、生徒会室にて行われた。その時されて一番困った質問は、
「全国大会って具体的にどのような大会ですか」
だった。去年初めてテレビで見たぐらいで、細かな内容までは知らない。だけど面接のせいでエスプレッソ部ができないなんて嫌だっ!
「コーヒーの味、見た目。またコーヒーについてプレゼンを行い、審査員によって評価される方式で勝敗を決める大会です。来年で三十三回目を迎え、コーヒーに携わる高校生にとっての甲子園。インターハイです。私はその大会に出るのが夢です。そのためにはまず部活として設立しなければなりません。全国大会の前には地区大会で好成績を残す必要がありますが、あいにく私たちの地区はエスプレッソ部がある学校が三十六校と、とても多い地区です。勝ち上がるだには一日でも早く練習しなければなりません。そのような大きな大会なのです。出場は私の夢ですが、同時に他のメンバーも同じ意思を持っています。だから尚更設立しなければならないと思っています。どうか受理をお願いします!!」
かなり話を盛った。そしていかにこの部活動が本気か、熱く語ってしまった。ちょっとやり過ぎたかな…なんて思って後ろめたい気持ちが残った。が、数日後、顧問の大和先生から、
「あ、エスプレッソ部ね、おっけーだって。よかったね」
って言われた。私はその時本当に嬉しくて、ピョンっと飛び跳ねて「やったー!ありがとせんせっ!」と言ってギュッと先生を抱きしめてしまった。その日から私の好きな人は大和先生。みたいなデマが流れるようになった事を、その時の私は全然知らなかった。
話がズレだけれど、ほんっとに嬉しい! そうだ、向日葵に伝えなきゃ!……って思ったけどやめた!向日葵には最後に伝えよう。まずは薫と小町に伝えよう!廊下は走ってはいけないけれど、私は全速力で走った。廊下ですれ違う人がきゃっ、とか、アブナイっ、とか聞こえてきたけれど、謝りながらも全速力で駆け抜けた。
一年D組のドアをガラッと開けると、
「かおるん!こまちん!」
と大きな声で叫んだ。薫は友達と話をしていて、小町は一人でジャグリングの練習をしていたけれど、二人とも私の息の荒げようで察したのか、
「あみちゃん!もしかして……」
そう言われたので私は両手で頭の上に大きく丸を作った。
「やったね!これから頑張ろうねっ」
「あみすけおめでと!これからよろしく?」
そういって近くまで来てくれた。私は二人と両肩を寄せ合い、三人でハグをして喜んだ。多分、入学してから一番いい笑顔をしていたかもしれない。
「で、あみすけ」
「ん?」
「エスプレッソマシンわ?」
「あー、えへへ。まだー」
喜んだ矢先、現実を仲間から突きつけられた。やっぱり難問は最後まで残るものなんだよ。と思いながら、誰もがわかるように一気に意気消沈すると、タイミングよく授業開始前のチャイムがなった。
「次の授業が始まるよ。あみちゃん。大丈夫。なんとかなるよっ」
「かおるん…」
そう言ってくれるのは嬉しいんだけど……。
うわーん。不安だよう。
その日の帰宅途中。私は向日葵に部活が通ったことを知らせた。
「よかったじゃん。じゃ、私もがんばる」
「うん!作っちゃったからには頑張る!一緒にがんばろー!」
「あ、私、飲み専門だから」
「えっ」
「私、みんなが楽しく淹れてくれたコーヒーを美味しく飲むの、がんばるから」
「にゃーそゆことかっ!あっ、じゃ、私たちはひまわりが美味しいって言ってもらえるようにがんばればいいんだね!りょーかいっ」
「うむ、それがよろし」
「あ、明後日、エスプレッソ部の決起集会するから放課後部室に行くから覚えといてね」
「うんわかった」
「じゃ、私ちょっとこれから用事あるから先帰るね。ひまわりと同じ部活入る夢が叶ってよかったー。これからもよろしくっ!じゃね 」
「はいよ。またねー……あっ、私も少しコーヒー淹れてみたくなったら……」
「んっ? ひま、なんかいった?」
「ううん。何でもない」
続く!
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