えすぷれっそ部!

村乃

はじまり

少し重たい木のドアを開けると、鈴がチリンチリン、と鳴る。店の中に入るとコーヒーの香りがして、コーヒーの。コーヒーにも色々な種類があるんだろうけど、私はいつもカフェラテを頼む。猫舌だからいつも「ぬるめで」

 濃厚な味のエスプレッソに、甘いミルクがカップいっぱいに注がれていく。するとカップの表面には、ハート型のラテアートのできあがり。飲むのがもったいない。なんてうっとりした後、カップを手にとり、熱くないか確認しながら一口飲む。口に入れた瞬間にふわっと蕩けて消えるミルクの甘い風味が、口の中で全体に広がっていく。そしてエスプレッソのほんのりと苦味が後からやってきて、コーヒーの味を感じる。ほろ苦い大人のスイーツを楽しんでいる気がして、にこやかな顔をしらない間にとっちゃう。

 私は初めて飲んだ時から虜になってしまい、それ以来、何度も通っている。店の中はとても落ち着いた雰囲気で、居心地が良くて好きだ。柱や外壁はコンクリートに囲まれ、床は焦げ茶の上品な色をした木板が張巡り、アクセントで観葉植物がところどころに置かれている。天井は高く屋根まで吹き抜けていて、高いところにある窓から日差しが入ってくる。たまに窓が開いているのだけれど、外の香りが風と一緒に入ってきて、外にいるかのような気持ちにしてくれる。ちょっとした大人の隠れ家のような感じがして、私はこの空間が大好きだった。

 周りは二十代くらいの方から年配の方まで、一人で来ていたり、二人で来ていたり。女子高生の私は、多分最年少なんだろうな、と思いながら、一人で通っていた。いつの日か、店長の石井さんと仲良くなった。ここのカフェラテが好きなんです! と告白したら、石井さんが、

「アルバイトを探しているんだけど、どうかな」

 と勧誘された。それがきっかけで、私はこうしてカフェでバイトをし、コーヒーという飲み物に嵌っていくのだった。

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