霊感少女と母親
泉ちゃんは物心がついた時から人と違うものが見えていた。それはこの世に存在しない幽霊。見えるだけじゃなく会話を通じて意思疎通することも出来た。何も無い空間に向かって楽しそうに笑う。その姿は傍から見るととても気味悪くて。それは泉ちゃんのお母さんも同じだった。
お母さんはどんなに気味悪く思っても我慢した。大切な娘だから受け入れようと試みた。でもダメだった。いつからか娘に対する感情は「不気味」から「恐怖」へと姿を変え始める。ついに耐えきれなくなったお母さんは、娘を夜の森の中に放置することを決めた。
とある夜。お母さんは泉ちゃんを車に乗せて、家から離れたところへと運転を始めた。距離の離れた森に置き去りにして、その存在を忘れようとしていた。
「ねぇママ。今日はどこに行くの?」
「行けばわかるわ」
「この先は行っちゃダメって、お爺さんが言ってるよ」
「そんな人いません」
「いるよ。私の隣に座ってるもん」
泉ちゃんの言葉にお母さんは慌ててバックミラーを見る。でも、泉ちゃんの隣には誰もいない。泉ちゃんが言ってるお爺さんはきっと、この世に存在しないモノ。そう感じたお母さんは背筋が冷たくなる。
車がとある山の頂上についた。一時停止させ、グズる泉ちゃんを無理やり下ろす。そして森の入口に泉ちゃんを連れていった。だがお母さんの泉ちゃんを見る目は冷徹だ。
「この森のどこかに、泉ちゃんの大切なクマちゃんが落ちてるの。探しましょう?」
「……うん、わかった」
クマちゃんはクマのぬいぐるみ。お母さんが事前に捨てた、泉ちゃんのお気に入りのぬいぐるみ。お母さんの言葉に泉ちゃんは自分から森の中に入っていく。やがてその姿が見えなくなるとお母さんは車に戻り、逃げるように家に帰っていった。
泉ちゃんを森に棄ててから一週間が経ったとある夜のこと。お母さんは家のインターホンを鳴らす音に気付いた。訪問者と思って応対をするが、その相手は――。
「ママ……ただ、いま」
「キャー!」
森に棄てたはずの泉ちゃんだった。遠くの森に棄てたのに、何故か家に帰ってきた。その恐怖にお母さんは悲鳴を上げる。
「みんなが、案内してくれたよ? 私を棄てるママなんて、いらない」
インターホンの音が止まない。玄関扉がガチャガチャと音を立てる。窓がガタガタと音を立てる。それが、お母さんの最後の記憶だった。
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