聴覚過敏の弊害

 とある日曜日の午後三時。街中の喫茶店は満席状態。二人組の客が最も多く、どのテーブル席からも楽しそうな話し声が聞こえる。渚も、そんなお客の一人。今日は仲のいい友人と喫茶店にやってきた。

「さっき見てきた映画、よかったね」

「今日までが長かった」

「試験終わるまでは行けないもんね」

 渚と友人は映画を観てから喫茶店にやってきた。高校生の二人は試験が終わった翌日の今日、ずっと観たかった映画を鑑賞したのである。喫茶店は、その余韻を楽しむためにやってきた。




「それにしても、恋愛ものじゃなくてアクションものを観たいなんて珍しい。いつもは恋愛映画が観たいって譲らないのに」

「恋愛ものは、しばらくいいわ。現実はあんなに上手くいかないし」

「彼氏と何かあったのか?」

 映画館では四つほどの映画が上映されていた。その中でも渚の目を引いたのはアクション映画。スタントマン無しのアクションシーンが見どころの、今話題の映画である。


「ねぇ、聞いてよ。あいつ、浮気してたんだよ!」

「浮気?」

「そう、浮気。私が全然ヤらせないから、浮気したんですって。体目的とか最低でしょ」

 現実の恋愛は流行りの映画ほど上手くはいかない。現実には映画に出てくるような美形は少ないし、人間関係はかなりドロドロしている。渚はそんなドロドロした人間関係と映画の差異を知るのが嫌で、恋愛ものの映画を苦手としている。


「最低って言えば、昨日のテスト、解けた?」

「解けるわけないじゃん。赤点回避が精一杯だろ、あれ」

「計算終わらないもんね。成績調整されるかな?」

「さぁな。推薦に影響しなきゃいいけど」

 昨日の試験は国語と化学だった。内容はどうであれ、おそらく平均点くらいは取れているだろう。平均点が低くなるのを考慮すれば、悪い成績にはならないはずだ。


「そんなことより夏休み、どこ行く?」

「唐突だな。海とかどうだ?」

「いいけど、海で浮気しないでよ」

「信用ないなぁ。するわけないだろ?」

 渚には彼氏も彼女もいない。恋人と海に行く。そんな夏の一大イベントは、渚にとって手の届かない存在である。




「――さ、渚!」

 渚は友人の呼び掛けで我に返った。耳を塞いで友人の顔を見る。

「話、聞いてる?」

「海の話、だっけ?」

「違うよ。さっき観たホラー映画の話でしょ?」

 渚が聞いていたのは他の客の話。渚は耳が良い。そのせいで、他の客の会話まで拾ってしまうのだ。

「耳が良すぎるのもダメだね」

 友人が寂しそうに呟いた声は、渚の耳には届かない。

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