モモと約束

 神奈の家には大切な猫がいる。名前はモモ、祖母から引き取った白猫だ。祖母のことを抜きにしても、神奈はモモが大好きだった。祖母の家に行けば一緒に遊んで寝て、ずっと神奈のそばにいる。そんな愛らしい猫だったから。


 初めて会った時から、モモは神奈にお腹を見せていた。ずっと付きまとって離れなくて。神奈が帰れば、その姿を探して鳴きながら家をウロウロしていたのだと、祖母が言っていた。モモは引き取られる前からずっと、神奈の心の支えだった。


 モモは神奈の家に来ると少し変わった。以前より人に、特に神奈に甘えるようになった。神奈が家にいる時はそのほとんどの時間を共に過ごす。出かける時は拗ねて隠れたり怒ったり。その全てが可愛くて、愛おしくて。でも神奈には不安があった。


「モモ。お前は今、幸せかい?」


 心配しているのはモモの気持ち。もしかしたら幸せじゃないかもしれない。その不安が拭えない。だから、ついつい膝の上でお腹を見せて寝ているモモに話しかけてしまう。


 たくさんの「大好き」も「愛してる」も「ありがとう」も言葉だけじゃ足りなくて。どんなにモモに擦り寄られても頭突きされても、懐かれてる自信がなくて。声が通じないから不安になる。


 神奈はモモの全てが好きだった。噛みつかれても引っ掻かれても甘えられても。どんなモモも大好きで。モモのためなら睡眠時間すら犠牲に出来る。モモも、神奈が嬉しい時悲しい時、一番にそばに来て話を聞いてくれる。涙を止めてくれるのも笑わせてくれるのもモモだ。


「モモ、今日も可愛いね」

「昨日も今日も明日も、ずーっとお前を愛してる」

「今日も生きててくれてありがとう。そばにいてくれてありがとう」


 神奈は今日もモモに声をかける。人の言葉がわからないはずのモモは、その言葉に応じるかのように神奈を舐めてくれる。モモの温もりだけが、神奈の心を埋めてくれる。


 毎朝起きるとお腹を見せてくる。膝に乗って甘えてくる。帰れば玄関まで出迎えてくれるし、寝る時も互いに寄り添って寝る。それは季節や気温に関係なくずっと同じ。一緒の布団に入って互いの温もりを感じることもあった。


「モモ。お前が死ぬまで、私はそばにいる。約束だよ」


 モモが懐いてるか自信はない。そんな神奈がモモに出来るのは、死ぬまで面倒を見ると約束することだけ。今日もモモは、そんな神奈に擦り寄っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る