第43話2.求める人に
嘘だと言ってほしかった。
多分彼女はそう願っていたに違いないだろう。でもその言葉は僕の口からは出る事は無かった。
僕の本当の気持ち……、それは。
今ここで僕が彼女の事を撰べば僕は後悔することになるんだろうか? それとも新しい想いを二人で円満に進む事が出来るようになれるんだろうか。
だが、その答えはもうすでに僕の中では決まっていた。
そうだ、僕は醜い人間だ。彼女をもてあそんだと言われても仕方がない。本当の僕の想いは、僕の妖精にあるのだから……。
戸鞠は泣き崩れ、何度も僕を叩いた。
「本当に恵美さんの事があなたは好きだったの? 私とは何だったの? 今までずっと私を騙していた。笹崎君を私に無理やり向けさせようとしたのは事実、だって好きなんだもん。好きで好きでたまらなかった。だから私はあなたを振り回した。そしてあなたはそれを拒まなかった。だから、私はあなたの事が……笹崎君も私の気持ちに気付いてくれたんだと思っていた。私に合わせてくれたの? ただ私だけがあなたを縛り付けていたの? 嫌だったら、何で行ってくれなかったの。私が傷つくから。お願い本当の気持ち、今の笹崎君の本当の気持ちを私に教えて……」
「戸鞠、ごめん……孝義が言っている事は全て本当だ。だけど、都合がいいと思われても仕方がないけど、僕は戸鞠の事も好きになっていたんだ。これだけは信じてほしい。僕は三浦恵美の事を愛している。でも彼女からは僕の事をどう思っているかは分からない。たとえ同じ家に住んでいても僕らは何一つお互いを重ね合わせる事は今までなかった。ただ僕が、僕だけが恵美の事を想い、そしてこの心を動かしていたにすぎない。気持ちの、本当の気持ちは多分恵美に僕はあるんだと思う。でもその気持ち、想いは恵美に届ける事はまだできないんだ。どんなに思っていても今は彼女をそっと見つめる事しか今は出来ないんだ」
「なにそれ……、笹崎君はただ恵美さんを思っているだけだったて言うの? だから何も悪くないって言うの。恵美さんに何があるの? そんなに想いがあるのなら同じ家に一緒に住んでいるのなら、どうして言えないの? 私に応えた様にどうして恵美さんにその想いを表す事をしないの。そうしていたら私はこんな想いをしなくも済んだのに」
言えない。恵美の中に今あるその大きな悲しみを僕は戸鞠にも、孝義にも言う事は出来ない。口を閉ざす僕に戸鞠は一言言った。
「さようなら」……と。
彼女のその一言が僕の胸を締め上げる。
悲しみと言うものではなく、まして苦しみと言うものでもない。ただ、何かが今僕の中で崩れていく。ボロボロと崩れていく。その想いを感じる事しか出来なかった。
「結城お前は、こんなにも戸鞠の事を傷つけた。俺はどんな事をしても戸鞠を守る。もうお前とも終わりだ」
孝義の言葉。戸鞠の言葉。僕はその二人の言葉を訊くことしかできない。
孝義は戸鞠のあとを追う様に僕の前からその姿を消した。
まだ孝義の拳が入った頬が痛む。それ以上に僕の心は痛かった。
この公園は僕と孝義が本当に幼い頃から一緒に遊んでいた公園だった。その公園で僕は別れを告げられる。
またこの町で、僕は別れを告げられた。
全てが、僕の周りから、全ての人が僕から離れていく。
恵美のあの言葉が頭の中をかすめる
「寂しくない?」
その言葉が今の僕を包み込んだ。「寂しい」僕は本当は寂しかった。この半年もの間、寂しさと僕は戦っていた。
その寂しさの隙間が僕を戸鞠に導いたのかもしれない。だとしたら、それは僕の責任でもあるだろう。僕は罪を作ってしまった。その罪をどう償うか、その方法さえ今はわからない。ただ一人残されたこの公園で僕は泣いた。泣くことしか出来ない。今の僕には……。
戸鞠は純粋に僕と付き合う事が願いであり、そして生きがいであったのかもしれない。三日後、僕の携帯に担任の北城先生から連絡が入った。
戸鞠が入院したと……。
その時は詳しい事は言わなかったが、僕が学校に呼び出され戸鞠が自殺未遂をしたと先生から言われた時、目の前が真っ暗になった。
「こんな事本当は言ってはいけない事なんだが、お前と戸鞠仲が良かったから何か事情を知っているのかと思ってな」
ガタガタと体が震えだした。
「済みません。原因は僕です。僕が戸鞠を傷つけたから、だから戸鞠は、僕がいけないんです」
先生はそんな僕を見てゆっくりと話しかけた。
「なぁ結城、まずは落ち着け。自殺未遂と言ってもほんの少し手首に傷がついたくらいだそうだ。ただ精神的に不安定だから少しの間入院して落ち着かせようと言う事らしい。これからはお前の担任としてではなく
僕は少しづつ話し始めた。戸鞠との関係、そして恵美への想い、その想いを僕は同時に……二股をかけていた事を。
頼斗さんは僕の話を訊いて一言「そうか」と言った。そして。
「結城、もしお前に恵美の事を諦めろと俺から言ったら、お前は諦められるのか? 今はもう戸鞠とは元に戻る事は出来ないかもしれないこの状況で、お前は恵美を諦める事が出来るのか」
その問いに僕は即答は出来なかった。それでも恵美を諦めるという言葉には反応した。今、恵美をも失ったら僕は何を支えに生きて行けばいいんだろう。
この時ようやく気付いた。恵美を支えようと想う気持ちは、実は恵美から支えられていたんだと言う事を。
「実はな、恵美も知っていたんだお前と戸鞠が付き合っている事は。彼奴こう言っていたよ。結城が好きな人がいるのは少し寂しいけど、一番寂しい想いをしているのは多分結城だと思うから良かった。て、な。まぁ、お前にはなにも言っていないと思うけどな」
そんな恵美が戸鞠と付き合っていた事を知っていたなんて……。
だから、だから恵美はあの時僕を河川敷に誘ったのか? 僕が熱を出した時恵美はずっと僕の傍にいてくれた。僕が戸鞠と付き合っている事を知りながら、どうしてなんだ。
「結城、恵美はな、少しづつ響音から離れようとしているんだ。恵美自身が言っていた。もう響音はいないんだってことを自分に言い聞かせているんだよ。そして響音が出来なかった夢を今自分が成し遂げる事が、今一番の自分の響音に対する想いだと言っていた。そして結城、お前にいろんなことで助けられている事を俺に話してくれた。俺も律子と結婚をする。だからと言う訳ではないかもしれないが、恵美も何かを感じたんたんだろう。お前のその苦しみは分かる。でもな、恵美もちゃんと前に向いて歩んでいるんだ。今回の事でお前が立ち止まったら、恵美はどんな思いをするのか分かるか? 俺は恵美を諦められるかと訊いたが諦めろとは言っていない。そして前にも言ったはずだ、必ず恵美を好きにならる必要はないと。お前はその言葉通りに、お前の素直な気持ちで戸鞠と付き合ったんじゃないのか? 自分をそんなに責めるな。今はお互い辛いだろう、でもな、いつかまた戸鞠と笑顔で話せる時が来ると俺は信じている。お前がこれからどう生きるか、そして自分の想いを貫くことが今必要な事じゃないのか。恵美に対しても、そして戸鞠に対しても」
今は何も言えない……。ただ頼斗さんから言われた言葉で僕は救われたような気がした。みんな僕から離れていってしまう様な感じがしていた。でもそれは自分の勝手な想いに過ぎなかったんだと言う事を今教えられたような気がした。
いつでも僕の周りには暖かく僕を見守って支えてくれている人達が、たくさんいる事に改めて気付かさせてくれた。
「頼斗さん、僕、ちゃんと戸鞠と向き合います。そして恵美ともちゃんと逃げずに向き合います。多分もう戸鞠とはもとには戻る事は無いかもしれない。でも、僕の本当の気持ちをはっきりと、戸鞠には伝えておきたい」
「うん、それがいいだろう。後な、戸鞠自身の希望で転校を願い出て来た。多分戸鞠も辛いんだろう。今はそっとしておいてあげるのが一番かもしれない。お前のその気持ちを素直に戸鞠に伝えた時、彼女がどう思うかは分からない。でも今のままで別れるのはあまりにも残酷すぎるものじゃないのかと俺も思う。とにかくもう少ししてからだ。戸鞠も、そしてお前自身も落ち着いてから、その気持ちを伝えてやってくれ」
「……はい。そうします」
「後そうだ、幸子さんがお前に物凄く逢いたがっていたぞ。どうだ、気分転換になるかどうかは分からないが一度俺の実家に行ってやってはくれないか。この前律子と行った時、お前の事物凄く心配していたからな。俺の親孝行の片棒を継がせて済まないが頼む結城」
「幸子さんがですか? 僕にそんなに……」
「ああ、そうだ、幸子さんだけじゃないぞ親父もお前がいつ来るんだとうるさかったぞ」
「そんな……」
「嘘じゃないって、明日にでも行って見ろ。行き方くらいは俺がいなくても分かるだろ。何なら駅に迎えに行かせるよに連絡しておくから、行ってこい。もう一つのお前に家に。帰って来い」
嬉しかった、みんなが僕をを支えようとしてくれている事に。
自然と涙が溢れて来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます