届かない願い 後編

第17話 Prologue プロローグ

opening オープニング


その墓石は何も語らない……。


薄暗くなった墓地には、僕と先生の二人きりしかいない。

でももう一人、姿はもうこの世には存在しないけど心の中には生きていた。


彼の名は、北城響音きたしろおと

恵美が愛した人だ。

彼もまた、恵美を心の底から愛していた。

決して、砕け散る事のない強い愛を、彼は恵美に注いでいた。だが、その愛は彼女、恵美を失意のどん底へと導いてしまった。


北城響音は、その愛を注いだままこの世を去ってしまった。

そして恵美は、彼の愛と本当の自分の心の中の愛を、厚くそして硬い氷の中に閉じ込めてしまった。


自分では永久に溶かす事の出来ない氷に。





 

「恵美、そこはもっと柔らかく、優しく吹かないと」

「えぇ、響音にぃ。そんなこと言ったって、どうすればいいのぉ」


「よぅく訊いててごらん」

「ずるいよ、響音にぃ」

「どうして?」

「だって、響音にぃすっごくうまいんだもん。それに、響音にぃに見つめられてると、わたし、わたし……」


…………………。



「やぁ、え、恵美。今日も来てくれたんだ」

「今日の調子はどう。病気少しづつ良くなって来ているんでしょ」

「あ、あぁ。すこしづつな」

「よかったぁ。こうしてお見舞いに来ているのも無駄じゃないよね」


「そぅだな………」


「それより恵美、お前サックスの練習最近してないだろう」

「だって、響音にぃがいないと練習出来ないもん」

「僕がいなければ本当に出来ないのか、恵美」

「そうよ、響音にぃがいるから、私サックス吹けるのぉ。響音にぃがいないと、何にも出来ないの私……」


「恵美、僕がいなければ何にも出来ないなんて言うな。僕も早く病気を治す。そして今まで遅れていた時間を取り戻さなければならないんだよ。プロのサックス奏者になるために。……だから、もう僕に頼るのはやめてくれ。本当に僕には時間が無いんだよ、だからお前みたいな下手で何にも出来ない奴のことなんか、かまってられないんだ」




もう……いい加減……僕に、た、頼るのは、や、やめろ……。

お前は、僕の、足手まといなんだ!




「お、響音にぃ……」




「ご、ごめんね………。恵美」




ごめん。

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