第9話 カルマーラ宿の新人冒険者




ゴブリン達が街へ攻め入る約1時間前









「ふぅ。とりあえず目標数のゴブリンの討伐は完了だな」

グロウが叩き潰したゴブリンから魔石を取り出し、同じくパーティーで行動していた、ミールの持っている袋に入れた。


グロウ、ミュカ、ラニスタ、ミールの4人でのパーティーで動く時はグロウが前線で戦い、ミュカが支援と回復、ラニスタがターゲット取り(タゲ取り)、ミールが荷物持ちや素材回収という役割になっている。


カルマーラに泊まる者として、ケイスケも誘いたいが5人ではパーティー登録できないのでその辺りはケイスケもわかってくれた。

というより、ケイスケは一人の方が都合がいいと言っていた。


まあ、パーティーで動けば、素材の山分けや経験値の振り分け、報酬の振り分けなど、ややこしい事が起こり得る分ソロではそれは起きない。


そして俺たちの隣には同じくカルマーラ宿にて宿泊している女達のパーティー、ナキとハルカとそして我が愛しの妹フェリアだ。


本来はあちらも4人パーティーなのだが、一人寝坊という事で、日が昇っているうちに終わらないと夜には強力なモンスターも出るから、サーナは放ってきた。あいつは人に起こされてもほぼ起きない。あいつを起こせるのはカルマーラ姉さんくらいだろう。


そのため毎度グロウと共に暴れまわる前線のサーナがいないので、本日は我が妹フェリアが前線をはらされている。


心配で心配で度々向こうを見てしまっていた。


そして後方支援がナキ。タゲ取りがハルカである。


いつもはハルカが荷物持ちだが今回は仕方なく、あちらのパーティーの素材とかもミールが預かっている。


アイテムボックスなる伝説の収納ケースがないため、ミールは背中に大きな袋を担いで付いてきている。


ミールが敵に狙われないのは、彼のスキル、隠蔽と保護色という、ダブル潜伏スキルにより、彼は敵からは見えない。


人からは見えるらしい。


ミールはいつもレベルが上がっていって見えなくなったらどうしようと考えている。


「お願いしますわね。ミール」

ナキが素材をミールに渡し、ミールはそれを受け取り、袋へ入れた。


「これはあれだな。流石に筋力スキルとか発言しそうだね」

はははとミールが笑った。


ミールは気弱な性格で、あまりこういった冗談は言わないやつだ。


相当疲れているのだろう。


「そ、そうか。じゃ早く帰ろうか!」

グロウが直ぐにそう答え、森から抜けようと歩き出した。


「え?冗談......なんだけど」

ミールが勇気を振り絞って冗談を言ったという事がわかったが、いつも冗談を言わない奴が急に言ったらこうなるわな。


やはり女達も同じみたいで皆同じように森から抜けようと歩き出した。





そう。いつも通りただ、笑いながら普通に狩をして、帰る。ただそれだけのことだった。



それだけの事が今日はとても長く感じることになる。




「お兄ちゃん!!逃げてぇええええ!」



いつもおとなしいフェリアが突然、叫び、俺に向かい氷撃弾と呼ばれるスキルを使った。

氷撃弾とは氷柱での攻撃である。


は?なんの冗談だ?



一瞬はそう思ったが、妹はこんな冗談にならない冗談は言わない。


それに妹は俺のことを嫌いなはずはない。


そこだけは俺が唯一、自信が持てる部分だ。


そう確信した時には俺の身体は自然と右前方へ飛んでいた。


なんの躊躇いも無く、俺の意思が思考を超え、体を動かしていた。


そして俺は起き上がり驚愕することになる。


「フェリア、急にどうし......」

どうした?と言おうと先ほど俺がいたところを見るとそこには氷を片手で受け止める、ゴブリンの姿があった。


それもただのゴブリンではない。


俺たちと同等のサイズの身体をした、ゴブリン。


「ホブゴブリン......」


俺の口からそう漏れていた。


「なんでこんな奴がここにいるんだよ!」


グロウは直ぐに俺のいるところまで駆け寄ってきた。


フェリアの叫びとその魔法のターゲットになっていた、ラニスタを見てその後方より接近するホブゴブリンを確認し、皆、逃げるのではなく、足を止めて、ラニスタとフェリアのいるところまで引き返した。


ホブゴブリンの討伐ランクはC。


俺一人では歯が立たない。だが、二つのパーティーならと皆、瞬時に思考し足を引き返したのだ。


「ミール、走れ!荷物は捨てろ!ギルドへ報告!急げ!」

グロウは直ぐにミールへ命令を出し、ミールは一人だけ逃げることを少し躊躇ったが、グロウが「これがお前の役割だろ!」と叫ぶとミールは荷物を捨て、走っていった。


グロウは普段は馬鹿だがこういった時には頼りになる。


「火炎」


グロウの拳に炎が纏われた。


「炎舞」


グロウの周囲に炎が出現した。


「炎獅子」


グロウの隣に小サイズの子供サイズだが炎の獅子が出現した。


「流石に遊んでられないな」


グロウの目はいつにも増して真剣だった。


当たり前だろう。


冒険者になって、初めて本当の意味での生死の戦いをやろうというのだから。


「ミュカ、ラニスタ、フェリア、ナキ、ハルカ。サポート頼む」


グロウは自分がやるべきことを一瞬で理解して行動を起こした。


自分よりも格上の相手に対し、前線向きじゃ無い奴が前線を張ることの無謀さ。そういった危険があるため、己が前線を張ると、行動で示した。


格上を相手にする時の勝ち方なんて知らないだろう。


なんせ今まで出来ることをするということでやってきた冒険者稼業だ。


だが、グロウはそれを行うという。


なら俺達がすることは一つだけ。


100点満点で無くてもそれに近い全力のサポートだ。


ホブゴブリンは棍棒を振り回して、グロウを牽制するがグロウはいとも容易くそれを避け、そしてホブゴブリンの懐へ潜り、両手の炎をぶつけた。


ホブゴブリンは少し後方へ後退りをしたが、あまりダメージにはなっていない。


グロウは再び火炎スキルを発動させ、また同じように棍棒を避けて懐へ

そして先と同じように両手の炎をホブゴブリンの腹に合わせ「舞え」と呟いた。


その瞬間、浮いていた炎が、グロウの拳に吸い込まれた。


ホブゴブリンは何も起こらなかったため、棍棒を握っていない方の手でグロウを殴り飛ばそうとした。


「稲妻」


ミュカの雷スキルだ。


ダメージはほとんど無いがそれでもその手を止めることはできた。


そして、先ほどの炎舞が発動した。


ホブゴブリンの体内で炎が暴れ、内側を燃やし尽くす。



「ラニスタさん!こちらにもう一体!」


ハルカの叫びを聞き後方を見ると、ハルカとフェリアの二人でホブゴブリン一体をこちらに来ないように間合いを取りながら牽制していた。


俺は馬鹿か。

グロウの戦いに集中しすぎて、また守るはずのフェリアに助けられちまった。

「お兄ちゃん。任せた」

フェリアは自分に気づいた俺を確認すると、ホブゴブリンの目の前でスキルを発動させた。


発動まで少し時間のかかるスキルだ。


任せろ。お兄ちゃんの仕事はタゲ取りだ。


防御スキルを発動させ、「防御テレポート」

重ねて二つ目のスキルを発動させた。


一つ目の防御スキルは肉体へのダメージを減らす基本スキル。


そして二つ目のスキルはピンチな人と己の位置を入れ替える置換スキル。


その瞬間、目の前でスキルを発動させようとしているフェリアを殴ろうとしていた、ホブゴブリンの目の前にラニスタが瞬間移動した。


「おはよう」


ホブゴブリンは驚愕し、少しの間、間があったが、俺は結果として殴られた。


少し宙を舞い、地に落ちる。


だが、ダメージとしては、ベッドから落ちる程度に収まった。


「ありがとう。お兄ちゃん」

フェリアは先ほど俺がいた場所からスキルを発動させた。


「炎の渦」

そういってフェリアがこちらに向けて右手を突き出すと、その手から真正面にいる俺ごとその渦に飲まれた。


まあ知ってたから防御スキルは発動させたけどね。


防御スキルはあと1回しか使えない。


一日3回制限のあるスキルだが、今出し惜しみはできないだろう。


「うん。あれだな。サウナに入って、他の人と謎に先に出た方が負けだと自分の中で勝手に競っている時くらいの辛さだな」


「お兄ちゃんの例えは訳が分からない。でもグッジョブお兄ちゃん」


目の前のホブゴブリンは皮膚を焼かれ、観るも絶えない姿となっていた。


おいおい。これを俺にやるとかまじかよこの妹は。


知ってたけど。


「流石ですね。お二人兄妹の連携はお美しい」

「ハルカ。とりあえず呼んでくれてありがとな。フェリアが危険な目に合わなくてよかった」

「お兄ちゃん。もう平気。だからグロウ達の助太刀行って」

「了解」

まあ平気って言ってても意識だけはしておくんだけどね。



体内を焼かれつつも足を止めないホブゴブリンは魔法を撃たれようがこちらに向けて足を動かし続けた。


「しつこいですわね」


ナキがそう呟いた後、それ以上足が進むことはなかった。


風圧スキル。


ナキのスキルだ。


そして動くことができない、ホブゴブリンの体内を炎が暴れる。


ホブゴブリンの到頭、膝を地に着き、悲鳴をあげた。


「グカァア」



「仲間を呼ばれたら面倒だな。喰らえ炎獅子」


炎の獅子は体内を焼かれたホブゴブリンを丸呑みにした。


するとその身体が一段階大きくなった。


獅子はそのまま消えていった。


「とりあえずは無事倒せたかな」

グロウが息を吐き、気が抜けたように顔に笑顔があった。


「いや油断はできない。そもそもホブゴブリンがこいつ一体かどうかなんてわからないからな」

俺の返答にグロウの顔から再び笑顔が消えた。


「それもそうだな」


グロウが周りに注意を払いながら足を進めた瞬間だった。


グロウの少し前方に立っていたフェリアの後方にホブゴブリンよりやや高身長のスラリとしたゴブリンがフェリアの頭上へ向けその手に握る大剣を振り下ろしていた。


接近を許していたか。


いやアイツのスキルだろう。全く気づかなかったし、足音や気配、落ち葉を踏みつける音もしなかった。


(防御スキル)


本日3度目の防御スキルを発動させた。


「防御テレポート」


その事態に気がついてから1秒経つか経たないかという速さで俺はスキルを発動させた。


次の瞬間俺が見たものは地面だった。


防御スキルにより大剣により切断のみを防いだ形になった。


生きるために必要な形で効果を発揮するのがこの防御スキルである。


だがまだレベルが低く使用回数の制限や最低限の命など、本当に辛い。


俺は地に叩きつけられていた。


テレポートした瞬間、俺は防御体制を取っていたが、それを超える威力を持った一撃だった。


大剣を防いだ両腕は痺れて感覚が無く、地に叩きつけられたことにより、背面が強烈に痺れている。


痛みが全身を襲い、逃げようとするも動けない。


大剣持ちのホブゴブリンにより追撃されたら終わりだ。


「火炎!」

「氷撃弾」

二つのスキルが大剣持ちの動きを止めた。


グロウとフェリアがスキルによりトドメの一撃はどうにか喰らわないですんだ。


そしてハルカが肉体強化スキルにより、すぐに俺を担いで戦線を離脱。

それに次いでグロウとフェリアも離脱。


ミュカとナキの二人が稲妻スキルと風圧スキルにより大剣持ちの足止めをしている。


ナキには戦線を離脱するためのスキルがあるため二人は残る形になった。


稲妻スキルを発動させ、攻撃するも蚊どうぜんだった。なんの反応もなく足を進める大剣持ち。


先に逃げた仲間達はそろそろ森を出る頃だろうか。


森の奥まで行ってなくてよかった。とミュカが思った時、ナキから思いもしなかった提案をされた。

「逃げてくださいな。ミュカ」

風圧スキルにより、若干の足止めをできているナキからそんなことを言われた。


そしてミュカは直ぐにその場を去った。


( 僕は間違えたんだ。)


涙が出そうになった。

こんな時に何故、僕はなぜ役割を間違えた。


グロウは最初のホブゴブリンを倒した。


フェリアは2体目のホブゴブリンを倒した。


ラニスタは皆を守りながら上手く連携を取り、ホブゴブリンを倒せるように立ち回った。


ハルカはその力によって負傷したラニスタを運びながら走っている。


ミールは今頃ギルドへ報告へ行ってくれているだろう。


ナキは先程からあの風圧スキルにより、幾度もホブゴブリンの動きを抑えている。


僕は何もできていない。


そして僕はあの場に女の子を置いて逃げているんだ。


ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。


ミュカはその場から全力で走った。


ここでやれたら僕は本当に何の価値もなくなる。


僕にできることは回復だろう。


なんで僕が戦おうとしたんだ。


強敵の出現により思考がおかしくなっていた。


ラニスタの回復が優先だった。


アァアア!クソ!


先に撤退した、ラニスタ達を追いかけ、全力で走った。





「全く。何ですの。その殺意に満ちた目は。私達をそんなに殺したいのですか」


ナキが風圧スキルで抑えつけたが大剣持ちはすぐにその風を斬り裂き、こちらへ足を進める。


「もう少し時間を稼がなくてはなりませんのよ。ミュカが撤退する時間を稼がないと。ミュカは役割を見失いかけていましたからね。その思考する時間も稼がないといけませんのよ!」


大剣持ちは、先より風圧が増したことにより、先程は余裕に斬り裂いた風圧に抑えられていた。


あと少しです

堪えなさい私!

お父様達が今の私の状況を聞いたら失神なされるでしょうね。


貴族の娘が仲間を逃がすために一人森の中に残り、ゴブリンと戦っているなんて。


でも私は今は貴族ではありません。


冒険者ですわ。


私を仲間と言ってくださったあの方々の為ならば、私は死んでも構いません。


「グギャァ!?」


そしてさらに風圧が増した。


大剣持ちは先程までとは違い地面に大剣を刺し、己が身体が地に落ちないよう必死に耐えていた。


もう少しだけそのままでいてくださいな



ガサ




近くで落ち葉が踏まれる音がして、その音のした方を見た時、ナキの体は一瞬、いや、どれだけの間だろう。思考が停止した。


踏まれたのではない。


人が落ちた。


全く知らない冒険者が何者かにより、吹き飛ばされてきたのだ。


そして確実に死んでると言えるのはその身体には首から先が無かった。


そしてその後方より、3mはあるであろう巨体が迫ってきた。


ダメですわ。


あれの相手をしたら殺され......しまッ


ホブゴブリンに脇腹を蹴り飛ばされ近くにあった木にぶつかった。


風圧スキルへの意識が外れたため先程まで押さえつけていた大剣持ちが動いたのだ。


しかし不幸中の幸いというのだろうか、大剣は先程の風圧により、地面から抜くのは困難だったのか、大剣を捨てそのままの身体で蹴り飛ばされたため、一撃死は免れた。


迫り来る巨体。


目の前のホブゴブリン。


死ぬ条件には嫌という程十分過ぎる。


逃げないと。


腹を抑えながら立ち上がり、ヨロヨロと皆が逃げた方へ足を進めた。


逃げないと。


だが、後方より迫る巨体の接近は肌が感じている。


ダメですわ。このままでは。


もうおしまいなのかしら。

まあでも人生の最後は楽しめましたし、満足なのでしょうか。


あら、何でしょう。


泣いているのですか?


私が?


あぁ。嫌なのですわね。


死ぬのは構わないと思っていた。

しかし、実際その死が現実味を増してくると嫌という程それが恐ろしくなった。


「死にたくない。助けてください。サーナ」


自然と口から出た言葉


直ぐに自分の手で口を塞ぎ、腕で涙を拭い、足を進める。


サーナ。貴方ならこの状況どうなさいますか?


「 全て爆砕する 」


と言われそうですわね。


サーなのその大胆さ今だけは真似して見ますわ。


あまりやりたくはありませんわね。


( ナキはもう貴族じゃないんだから、もっとリラックスしなよ )

申し訳ありません。サーナ。これを使わなくてはならないようです。


・・・・・・。


「 跪け!私の前でその薄汚い顔を見せるな下郎!」


スキル 【 王女の威圧 】LV8


そのスキルにより、ゴブリンやホブゴブリン達は膝を地について、平伏した。


やはり貴方は動けますわよね。


巨体のゴブリンのみはそのまま足を進めていた。


そしてそれを見た、ホブゴブリンやゴブリン達は再び足を動かし始めた。


そうですわよね。たとえ王女が命令したとしても、彼らにとって王の命令は絶対。


優先度が違いますわよね。


ですが、時間稼ぎには充分ですわね。


溜まりましたわ。


ナキは足に力を込めてスキルをはつどうさせた。


【 飛躍 】


次の瞬間ナキの体は宙に投げ出された。ナキの目は森を上空から見ていた。


これがナキの脱出手段である。

時間稼ぎと緊急脱出の二つを同時に行うことができるのがナキの現在のスキル構成だ。


そしてナキは驚愕した。


その森にはゴブリンの群れがおり、先程の巨体は、噂話でしか聞いたことのない。


そう。間違いなくゴブリンキングですわ。


この数のゴブリンが統率を取れているなんてありえません。


先程の王女の威圧を上回る命令スキル。王の威圧スキルでしょうか。間違いなくゴブリンキングですわね。


【 風圧 】


自らの身体に横向の風が当たるように風圧スキルを発動させた。


「グハッ!?」


い、いつの間にこれほどの威力になっていたのでしょうか。


身体にきますわね。


前までなら全力で風圧スキルを使用すれば身体が飛ぶ程度でしたのに。


これは少し飛び過ぎでしょうね。


空を人が飛ぶ風なんて全くデタラメでしかありません。


飛躍スキルと風圧スキルの合わせ技を考えたサーナに感謝ですわね。


「ハルカッ!」


「はい!わかっております!」


空から落ちてくるナキをハルカが確認したのを見て、再び風圧スキルを発動。


己の体を徐々に下から風圧を与え徐々に落としていく。


そしてハルカが「いけます」と言った瞬間にスキルを解除し、ハルカの右手に収まった。


ハルカはナキを担いでそのまま足を進めた。


「お疲れ様です、ナキ様」


「気にしないでくださいな」


ナキが返ってきたことを確認したミュカは「ありがとう」とナキに言った。


ナキは周りを見ると少し前をラニスタが走っているのを見て、「いいえ。どういたしまして」と答えた。


ミュカは全力で追いつき、施しスキルによりラニスタを回復させた後、他の皆のスタミナも回復させていた。


施しスキルは回復スキルの中では稀な傷とスタミナの回復ができるスキルなのである。


回復スキル>施しスキル

スタミナ回復スキル>施しスキル


ではあるが、両方できるという利点は大きい。


「ホブゴブリンだけではなく、ゴブリンキングらしき姿も確認しました。早くギルドに報告しませんと」



「「「なっ!?」」」



ナキのその発言に一同は、声を詰まらせ、そして皆の足がより早く街を目指した。


「確かなんだろうな?」

グロウに聞かれたが確かなのか?と聞かれても本物を見たことがないからわからない。


「一匹だけすごくデカイのがいましたわ」


「まあ何にしても、この森でホブゴブリンが暴れまわってるんだから、討伐隊は組まれると思うぞ。その時にいちよう、ゴブリンキングもいるかもしれないと言うように言ってもらえればいいだろう」


ラニスタは平然を装っているが、やはり思考が停止しているように思える。

[ゴブリンキングもいるかもしれない]こんなことはあってはならないのだ。

ゴブリンキングは魔王軍に関係する魔物で、そんな奴がいるかもしれないなんていう不確定要素であっていいはずがない。


「ゴブリン達も少しずつだが、森から出てき始めている。ホブゴブリン達が出てくる前に街まで行くぞ」

ラニスタはそう言ってフェリアの後ろを走った。


ゴブリンキングという名前を聞いて彼は自然とフェリアの後方を守った。


このシスコンめ。


グロウはそう思ったが、まずは先に報告に行ったミールと合流を目指した。




★★★★★★




「 君が言っていることはわかった。嘘には見えないし、本当なのだろう。だがその後の要件は飲めない。お前の味方を今助けに行くことは不可能だ。冒険者が冒険中に死ぬことはよくあることだ。それに討伐隊も組まずに単騎突入などありえない話だ」


ミールは現在、ギルドにて、ギルドマスターのおじさんと話していた。


報告と救助をお願いしたが、報告のみしか聞いてもらえなかったので、20分以上お願いし続けている。


一度カルマーラへ戻ってカルマーラさんにお願いした方が良いのか?サーナとケイスケにお願いするべきなのか?


わかっている。


勝てない。


カルマーラさんは冒険者を引退して日が立ち過ぎているし、ケイスケは新人の中でも日が浅い新人だ。


サーナは強いけど、それは新人の中ではってだけだ。


だからSランクやAランクを動かしてくれとお願いしている。


「それにな。Sランクは今は出払っていて、この街にはおらん」


絶望した。


Sランクがいない?


ならばAとかBを。。。と言おうとしたが、その必要はなかった。


ギルドが騒つき、俺と目の前に座るギルマスも次は何だ?と思い其方を見た。


ボロボロの装備をした冒険者や血だらけの装備をつけた冒険者。女に担がれている冒険者など、敗戦しましたと言わんばかりの冒険者パーティーだった。


「ただいま、ミール」

ラニスタだった。


「お兄ちゃんもう平気だから」

ラニスタを手で押して目の前から退けようとするフェリア


「ただいまですわ」

ハルカに担がれたナキ。


「ただいまです」

ハルカに


「無事報告できたみたいだな」

グロウ。


「よかった。無事で」

そしてミュカ。


「おい、ギルマス!どうなってんだ!ホブゴブリンとかゴブリンキングとかふざけてんのか!」

グロウの目にミールの対面に座るギルマスが目に入り真っ先に飛びかかった。


そのグロウの形相を見た冒険者達は笑った。

「何言ってんだ?あいつ」

「新人がゴブリンに負けたんだって」

「まじ!?それでキレてんの?」

と酒を飲みながら笑い飛ばす冒険者達


「 その報告は聞いている。仕方あるまい。Bランクパーティーを動かす。まずは調査だ」


ギルマスの答えを聞いたギルドの連中は

「おいおい、Bランクってマスター信じてるんですかー?」

「ネタだよネタとりあえずテキトーに流して納得させるんだろ?」


「は?お前ら馬鹿か!街に被害が出たらどうすんだよ!」


「何を言っている?街へ被害なんてのはな。ゴブリンキングの指揮のもと始めて成立するものなのだよ。一匹や二匹攻めてきたところで問題はない」


「ダァカァラ!そいつが出たって言ってんだろ!ナキが見たって言ってんだよ!デカイゴブリンを!」


「ナキとは君の仲間かね?」


「私がナキですわ」

ナキは後方で手を挙げた


「見たのかね?」


「見ましたわ」


「ははははははは!それじゃそいつはただのデブなんだろうよ!なんせ、ゴブリンキングと遭遇して、生きて帰ってこれる新人なんているわけないだろ」


「アァン?テメェゴラァ!俺の仲間が生きてるから信じないってのか?ぶっ殺すぞ?」


「やってみるか?結果は見えているが」


「やめろ。帰るぞ。サーナとケイスケが心配だ」


「ラニスタ!でもコイツら!」


「知るか。俺はカルマーラ宿に帰ってあの宿だけ死守する。どうせ俺らは信じてもらえない無能なんだよ」


「ラニスタ、テメェ!俺たちのことを無能とか言ったか!」


「おーい、テメェの仲間は冷静だなー」

「ゴブリンに負けるやつが無能じゃないわけないだろ!はははは」

「おーいマスター!俺たちが行きましょうか?一様俺ら有能Bランクパーティーですので」


「冷静さなんてのはな、アレを見て、経験していたら当たり前なんだよ。無理なものは無理だ。ホブゴブリンでも厳しかったんだ。そこのお前、行くと言ったな。行ってこいよ。それで帰ってきて、俺らに討伐成功と言ってみろ」

ラニスタは無表情で怒りを露わにした。


グロウは理解した。


そうだ。俺たちは経験したから言えるし、経験していない者はその恐ろしさがわからない。


それに俺たちは無能だ。ただ逃げてきただけなのだから。


「そうだな。ラニスタの言うように討伐成功してくれよ。頼むわ」


「だってよ、マスター。俺たちが行ってきますよ」

「ははは、討伐成功した時にお前達には土下座してもらうからな」


「ああ。構わない」

ラニスタは直ぐに答えた。


そうもし土下座の一つで討伐成功できるのなら、もちろんお願いする。


ラニスタの直答にギルマスは少し笑い


「では頼む」

と答えた。


「はいよー」

と言って4人はギルドを出て行った。


「よしこれでいい。調査隊は送り込んだ」

ギルマスはそう呟いた。


「まずはカルマーラ宿に戻るか」


そう言って一同はギルドを出た。



ケイスケは仕事が早いからもう帰っていてもおかしくない。


サーナは一人ではあまりクエストに行かない。


頼む宿にいてくれ



★★★


「少し待ってくれ」

カルマーラ宿へ向かう一行を呼び止める者がいた。


「ギルマス......何しに来やがった」

グロウはその声を聞くや否や、ギルマスの胸ぐら掴んで怒鳴った。


「悪い悪い。そう怒るな。お前らカルマーラ宿の新人が無事だったと言うだけで、俺は安心している。お前らが死んだとなると、お前らを預かっている俺の責任にもなりかねん。それがギルドの調査不足となれば尚更だ」


「は?何言って」


「お前らカルマーラ宿の冒険者は新人の中でも特に期待されてるんだよ。まあそれはいい。先程はすまなかった。お前達の事を馬鹿にするような言い方をして」


「は?何が言いたいんだ?」

グロウは胸ぐらから手を外し、訳の分からない事言い出したギルマスの言葉を理解しようと必死だったが、やがて限界が来たらしく俺の方を見た。

「ラニスタ通訳頼む」


「いやいや通訳とかじゃ無く、そのままの意味を捉えればいいんじゃないか?」


「うーん?それが理解できないんだけど」


「と、まあ。ギルマスの言いたい事が伝わってないんですけど、一体どういった風の吹き回しですか?」


「風の吹き回し?違うね。ほら簡単だ。新人がゴブリンキングを見たといっても信じる奴はいないだろう?なら、Bランクのパーティーが壊滅した。もしくはそのパーティーで命からがら逃げてきた奴がゴブリンキングが出たと報告が入ればどうだ?あの糞国王も動かせるだろう」


「は?てことは、あのBランクパーティーは囮ってことか?」


「そうだな。あのような腐った連中はいらん。まあ精々働いてくれや。俺はああいった、格下を馬鹿にしたりするやつらが嫌いだ。だから奴らが餌に食いつくのを待っていたんだよ。だから悪かったと言った。お前達の事は信じてるし、本当なのだろう。ナキのお嬢も申し訳ねぇ。必死に戦ったのはわかっている」


ギルマスはナキにも頭を下げ、そして。


「でもな。新人の報告では国は動かせないんだ。Sランクの連中を即刻此方へ寄越せと言いたいが無理だ。だがら俺の出来ることは今ある戦力を集めて、冒険者達で連携を取ることだ」


「そんな事してたら時間が!街が攻められるぞ」


「わかっている。でもな。仕方ないんだ。新人である事はこういう時には新人が馬鹿言ってるとしか捉えられない。俺は冒険者を集めて、起こり得る事を伝える。お前らはそうだな。宿へ一旦戻って、カルマーラにどうするか聞け。お前らの親はあの人だ。この件で俺はお前らを無理やり動かす訳にはいかない。


お前らが死んだらカルマーラに面目が立たねぇ。」



そう言ってギルマスは元来た道を戻っていった。


「つーか、あの人がカルマーラとどんな関係だよ」

グロウの問いにナキが答えた。


「義理の父親ですのよ。カルマーラ姉さんは拾われてギルドで育てられたそうですわよ」


「は?」


グロウのやつ知らなかったのか。


カルマーラ宿では常識なんだけどな。





この数十分後

Bランクパーティーの全滅。


そしてその中の一人によりゴブリンキングの存在が確定。


そしてその数分後に街へゴブリン達が攻め込んできた。


宿に戻り、事情をカルマーラに説明した彼等は危険だから出るなとカルマーラに言われ、宿にて待機することになった。


カルマーラはケイスケとサーナを探してくると言って出て行った。


この時、ケイスケとサーナは闘技場にいた。




そして現在に至る。


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