第10話 ゴブリンの王様


俺たちは作戦会議を終え現在は森に向かいゴブリンを倒しながら歩いている。


「作戦っていうのはつまりアレン達パーティーを援護するのみか。もうちょっと何か考えてもいいんじゃ無いですかね!」


「ケイスケうるさい。仕方ないでしょ。実際それが最善の策らしいから」


俺とサーナは現在、アレン達のパーティーより少し離れた場所を歩いている。


あの後この作戦が決まり、参加する者達はチームを組んでアレン達の周りを援護し、アレン達がゴブリンキングを倒すということになった。


アレンでもそんな奴倒せるのか疑問だがアレン曰く「まあ。問題ないと思うよ」だそうなので、任せることになった。


「それで、ホブゴブリン?ってのもいるんだろう?今のところいつものゴブリンしか見てないぞ」


「そうね。もうすぐで森に入るからそこからが本番なんでしょうね」


「俺らも森に入るのか?」

そもそも俺達のランクではホブゴブリンというゴブリンにすら勝てないらしいのだからむしろ森の外や街の普通のゴブリンを倒している方が最善な気がする。


「本来ならこんな状況なら入らないわね。むしろ関わらないのが正解のイベントだと思うわ。でも関わっちゃったわけだから仕方ないじゃない」


「はぁ。何故こうなったのか。アドレナリン効果だろうな」

サーナと戦ってテンションが上がり、その流れでゴブリンを倒し、なお増したアドレナリン効果なのかなんなのか、謎の高難易度クエストを受注して、そして少し経った今、己の無謀さに感づかされるという始末である。


「はいはい。シャキッとする!うだうだと弱音を吐かない!前見なさい。お望みの奴がいるわよ」


「はい?」


前を見ろと言われたので、前を見ると森の中には、先ほどとは違い俺達とほぼ同格の体躯をしたゴブリンがいた。


「え?あれがホブゴブリン?」


「そうね。ホブゴブリンはゴブリンとは違い身長は成人した大人と同じくらいよ。そして問題はそのスキル、彼らは武器が使えるわ。個体によって様々だろうけど」


目の前のゴブリンは片手に剣を持っており、もう片方の手には銅でできた盾が握られていた。


「盾持ちは厄介ね。破砕が防がれる可能性がある」


「あっちはこちらに気づいていないみたいだが、戦う必要はあるのか?」


「あるわね。あいつアレン達の方へ行こうとしてるから此処で足止めしないと」


倒すのではなく足止め......ね。そんなに強いのか。


リーズ。解析頼む。対象は目の前のゴブリンだ


【 解析を開始します。完了。対象個体名 ホブゴブリン。勝率は10%です。一人では勝てません。ホブゴブリンのスキルを表示します。

盾LV4、剣術LV4、投剣LV7、体術LV4ですね。注意すべきスキルは投剣スキルです。お気をつけてください。オマケです。慢心しないように。スキルを強奪したからといって記憶が消えるわけではありません。ある程度その武器は使えます。では】


どうしたのだろう。言葉に棘がないな。

それ程までに危険な相手なのだろうか。


「ケイスケ。私が牽制して注意をこちらに向けるから、逃げる準備しておいて。距離を取りながらこちらに引きつけるから全力で走ればいいというわけではないからね」


「了解」


上手くできるかはわからないがとりあえずは、やって見てからだ。


話している間にもどんどんアレン達の方へと足を進めているのだから。


「爆砕!」

サーナは俺が頷くとすぐに飛び出した。

真正面からの爆砕にホブゴブリンは反応して盾でその攻撃を防いだ。


「甘いわよ!破砕!」

サーナの手が赤黒く光り、ホブゴブリンの盾を破壊した。


ホブゴブリンは驚き、すぐに右手に持つ剣で牽制するもサーナはそれを交わして「爆砕!爆砕!爆砕!」爆砕の三連撃を直撃。


上手いという感想だった。

粉砕は相手に直接触らないといけないため接近するリスクがあるが爆砕は周囲爆破スキルのため距離を詰めなくても良い。この間合いならサーナはホブゴブリンの拳や足技の間合いから外れている。


しかしホブゴブリンの身体には火傷程度の傷しかつけることができなかった。


「硬いわね。でも盾は壊した」

ホブゴブリンが剣を片手に握りながらジリジリと間合いを詰め、サーナと少しずつ距離を取り間合いが縮まないように立ち回っている。


サーナの攻撃が危険だと感じているのか、ホブゴブリンは少しずつ距離をとってそして次の瞬間サーナの真横から槍を持ったホブゴブリンが飛び出してきた。そしてそのまま隙だらけの脇腹めがけ突進をした。


サーナは少しずつ誘き寄せられていたということだ。


サーナは気づいたが少し遅かった。


サーナは右腕を脇腹の横に突き出し、槍は脇腹には届かなかったものの、サーナの右腕を見事に貫いていた。

「ガァッァアアアア」

サーナの悲鳴が森に響いた。


俺は直ぐにサーナの腕を突き刺しているホブゴブリンを蹴り飛ばした。そしてサーナの元へ駆け寄り、槍を抜くと出血が酷くなるので、その槍をへし折った。


「大丈夫か」

「油断した。くそ。やらかしたわ。ごめん。私が牽制しないとアイツらがアレン達の方へ」

「わかってる。あとは俺が引き受ける」


(リーズ!今奪ったスキルはなんだ?)

先ほどの接触時密かに強奪スキルを発動させ、槍持のホブゴブリンからスキルを奪っていたのだ。


【 解答します。槍持のホブゴブリンより盗んだスキルは突進スキルですね。このスキルは突進をする際にオマケ効果が発動されるというものです。LV1の場合は突進時の速さが上がるのみです】


成る程な。それ故のあの速さの突進か。


ならば、お返ししてやらないとな。


静かに刀を抜き「牙突」出来るかは知らん。漫画で読んだから知ってるくらいの知識だ。

だが俺は刀での突進なんてこれしか知らない。


刀を斜め上段に構えた。


「10倍返しを喰らえ。牙突ッ!」


刀を前へ突き出す動作と共に突進スキルを発動させた。

タイミングは体術スキルによってバッチリバランスよく放てた。


さぁ!初牙突上手く決まってくれよ!


【 警告!無闇な突進は危険です!】


は?


時既に遅し。


先ほどの剣を持っていたホブゴブリンが剣をこちらに向け投げつけてきていた。


失念していた。投剣スキルかッ!


時の流れがとても遅くか感じ、俺は目の前から飛んでくる剣に突っ込む形で突進をしていた。


あ。これ死んだ。



そして俺は森の入り口の何もない空間に牙突を決めていた。



は?



「 ケイスケ無事か?」


グロウだった。


「やはり森に来ていたんですのね。ラニスタは無事でしょうか?」


「無事だろ。カル姉さんの守護霊は一級品だからな」


グロウとナキの隣に俺はいた。


「は?何がどうなって」


「あー。お前は知らないのか。これラニスタのスキル。防御テレポートっていうスキルでピンチのやつと自分の位置を一瞬で入れ替えるスキル。あの剣を投げたホブゴブリンが投げる構えを取った時からラニスタは使う構えをしていだからこそお前を守れたってわけだ」


「あのお二人様?俺流石に死にかけてるので助けてくれると嬉しいんですが」

ホブゴブリンが投げた剣は見事にラニスタを串刺しだが貫通せずラニスタの体に触れた瞬間にその剣は何かに防がれ地に落ちた。


そして先程の槍持がラニスタをフルボッコという状況である。


「おっと悪い。今行くって。そこに倒れてるのはサーナか?」


右腕を抑えながら膝をついていたサーナがグロウの目に入った。


その途端ナキの形相が一変した。


「自害しろ。クズども。死刑だ」

しかしホブゴブリン達はその命令には従わなかった。


「そう。無視するのね。いいわ。私自ら刑を執行する」


そう呟くとナキは一瞬でホブゴブリンの前まで飛んで行った。


【 飛躍スキルですね。LVは3。ああなるほど。風圧スキルと掛け合わせてあの速度を生み出していますね。お見事です】


「動くなクズ共」

ナキがそういうとホブゴブリン達は急に動きを止めた。


【 女王の威圧というスキルが発動していますね。LVは8ですね。この数値は生まれが王族ということになります】


マジでか。

貴族とかなのではないかとは予想していたがまさかの王族ねぇ。


まあそれよりも俺が驚いているのは脳内解析者リーズさんが機能していることについて!


今までこんなに真面目に機能したことがあっただろうか。


まぁ。それくらい危険な状況なのだろうな。


「ぶち殺します」

そう言ってナキが先ほど俺がへし折った槍の持ち手の部分のみを得物として拾い、それを振り上げホブゴブリンを串刺しにしようとしたその時だった。


「ナキィイイイイイイイイッ!!!!」


サーナが怒号を上げた。


その声が森に児玉し、近くにいた冒険者やゴブリン達は皆一瞬動きを止める程だった。


その声を聞いて一番ビクッと反応したのが名指しされたナキだった。


「約束忘れたの?私が男役演じて貴方を連れ出したことを無駄にしないで」


「あ、でも......ごめんなさい」


「でも夫のピンチにブチギレてくれたのは素直に嬉しいですよ。ただそのスキルで助けて欲しくは無いです。ナキ。貴方はもう王族では無いのだから。それとあのゴブリンには私の腕を貫いてくれたお礼をしないとね!」


「ナキ押さ込んで!」


「はい!」


そういうとホブゴブリン達は先ほどとは違い上から風により押さえつけられ動けなくなった。


「破砕」


サーナの左手が赤黒く輝きそして先ほどの槍持ホブゴブリンの身体が弾け飛んだ。


「次、あ......。ありがとうラニスタ。お疲れー」

そう先程からなんだかんだあってラニスタは忘れられていたためホブゴブリンにタコ殴りにされていたのである。


「お疲れー!じゃねぇ!なんか色々忘れすぎだって!」


「爆砕!」


そうしてラニスタをタコ殴りにしていたホブゴブリンの身体も弾け飛んだ。


「ケイスケ!弱すぎ!しっかり戦え!なーにが牙突よ!あれはただの自爆特攻というの!わかる?」


「はい。面目ありませんです。はい。あれは確かに自爆特攻ですね。ラニスタがいなかったら確実に死んでたわ」


サーナに言われて当たり前すぎて言い返すこともできなかった。


「まあいいわ。とりあえず5人になったことだし、ホブゴブリン達をガンガン倒しましょうか!」


「サーナ!腕が」

「ナキ。気にしないの。優先順位があるから」

「ですが」


なんだこれ。こいつら女同士だよな......。

でも夫という単語が聞こえた気がしたんだが......?


「ケイスケこれカル姉さんからだ。預かっておけ」

と言ってラニスタが俺の肩を叩いた。

「何を預かればいいんだ?」

「もう預けた」

「は?」



ブォオオオオオオオオ



森の奥から聞こえてきた咆哮


そしてその主はすぐに森の高い木々から顔を出した。


「龍......」


グロウが隣で呟いたように、あれは青色の鱗では無く、水の様に透けた透明度のある液体状の龍だった。


そして次の瞬間その龍は弾ける様に飛び散り、体を形成していた液体が周囲に飛び散った。


「なっ!?」


避けるという間も無く、液体を浴びた一同の体の傷が一瞬にして治癒された。


「は?」


理解が追いつかないまま、サーナは治った腕を軽く動かして「何が起きたの?」と俺たちに聞いたがもちろん俺たちがわかるはずもない。


だが周囲にいたゴブリン達は液体をを浴びると逆に苦しむ様に地に膝をついて唸っていた。


すると森の奥から赤い髪の1人の女性が走ってきた。


アレンのパーティーのティカという女性だ。以前酒場で出会った時にも召喚系のスキルを使用していたので先ほどの龍もこの人のスキルだろう。


「サーナ無事ですか?」

ティカはどうやらサーナの叫び声を聞いて、何事かと走ってきた様だ。


「え?あ、はい!私達は問題ありません」


「よかったです。叫び声が聞こえたのでてっきり誰か危険な状態なのかと......無事で何よりです」


「先程の回復はティカさんが?」


「そうですよ」


「アレンさん達はどうですか?」


「今はでかいゴブリンと戦っています。ホブゴブリンの変異種ですかね。3メートルはある巨体のゴブリンが5体確認したのでまずはそれの始末を」


「あの、それがキングではないのですか?」


ティカのでかいゴブリンというワードにそれがキングじゃないのかとナキは思い質問した。


「間違えられやすいですね。ゴブリンキングはホブゴブリン達とほぼ同格のサイズですよ。まだ出現してはいませんが」


「え?出てきていない?どういうことですか?」


「ゴブリンキングは賢い。【 復讐 】というスキルを持っているという記録が残されており、その内容が同種の仲間が殺される度に強くなるというスキルです。そしてその記録には他にこんな内容も残されていました」


★★★★★★


開幕


今起きていることを記し残す。


突然街を襲ってきたゴブリン達。


その中にはホブゴブリンやでかいゴブリンもいた。


奴らにはこんな統率力は無かったはずだ。


だが実際連携を組み街を襲ってきている。


だが問題はない。


それでもただのゴブリンだ。


魔王軍の脅威に比べれば大したことはない。



1時間後


事態は突然悪化した。


それは一体のホブゴブリンの登場によってだ。


その動きは目には追えなかった。


圧倒的だった。


先程まで余裕を持って戦えていた冒険者達が目の前で一瞬で斬り捨てられる。


見事な剣捌きという他ない。


その中でこんな声が聞こえた。


アレはホブゴブリンなんかではないのではないか?


冒険者達の口からその類の言葉が漏れ始めた。


そして1人の冒険者がこう言った。



「アレがゴブリンキングなんじゃないのか?」



今まで連携のとれていた冒険者達が急に連携を乱し皆我先にと逃げ始めた。


勝てないとわかってしまったのだ。


そして俺はそう呼ばれたゴブリンキングのスキルを俺のスキルにより盗み見た。


俺は恐怖した。


復讐スキルというスキルがあり、その効果は同種を殺される度に全てのステータスを強化するというスキルだった。


冒険者達が何体のゴブリンを倒したのか。数えられる数ではない。


俺たちはゴブリンキングに嵌められたのか。



どうかこの先この様な事態が起こった時はくれぐれも気をつけてくれ



研究記録第68号 ゴブリンキング


★★★★★★


「は?おいおい待てよ!俺ら聞かされてないぞ!それにいいのかよ!こんなに倒して」

俺はティカを問い詰めた。何故それを知っていながら隠していたのか。


そして何故それを知っていながらゴブリン達を倒しているのか。


「アレン様が倒すと宣言なさいました。それにこの事を知ると皆さんが倒すのを躊躇われるかもしれないと、ギルマスが。これはギルドマスターの決断です」

そう言ってティカは先ほど走ってきた方向へと足を進めた。


「最後に忠告です。ゴブリンキングは必ず居ます。その証拠にゴブリン達の統率が取られています。ですので気をつけてください。いつ何処に現れるかがわからないのです」


「わかりました」


サーナが返事をするとティカは頷いた後走っていった。


「とりあえず倒さないと出てこないなら倒すしかないわね」


「そうですわね」



その後俺たちはどれだけ倒せば出てくるのか。


ゴブリンキングにアレン達は勝てるのか。


など各々考えながら戦っていた。


先程の液体によりゴブリン達の動きは悪くなっていたのでホブゴブリン達も先程より楽に倒せたので隙を見ては強奪をした。


奪えたスキルは3つ


・気配感知LV1

このスキルは潜伏など、スキルにより隠れている敵の場所がわかるスキルだそうだ。(リーズの説明参照)


・毒耐性LV1

このスキルはある程度の毒に対する耐性を得るというもの。リーズ曰くレベル1では蚊に刺されても痒くならない程度と言われたが俺的にこのスキルは持ち帰りたいレベルで嬉しいがこっちの世界には蚊がいないので意味がない。


・雷耐性LV1

雷などへの耐性


この3種類を奪うことに成功した。何故こんなに突然ゴブリン達がスキルを習得しているのかリーズに聞いたところ、ゴブリンキングの出現によりゴブリン達へそれなりに影響を与えているそうだ。



「ケイスケ!後ろから来る!」


サーナの声を聞いて直ぐに左へ身を交わし、ゴブリンのガラ空きの脇腹へ拳を抉りこむ様に殴り、怯んだところを強奪スキルで敵からスキルを奪う。


「爆砕!」


トドメはサーナや、他の仲間が決める。という形を先程から取っている。


【 ハズレですね。習得済みスキルです 】


流石に被り初めて来ているな。

先程から何度もこの台詞を聞いていてわかったが習得できるスキルにもパターンがあるのだろう。仕方ないことだが残念だ。



シュン



え?



一瞬だった。



斬られた?


視界が一瞬揺らぎ、思考が飛んだ。


そう思った時、俺は確かに体を切断されていた。


そう錯覚したように俺の体は何の変化も無かった。


錯覚だったのか?


「ケイスケ!」

サーナが直ぐに俺の目の前に立つホブゴブリンの前に立ち俺を守る形となった。


「無事?」


「ああ?多分?」


「なら早く立ちなさい。あいつヤバイ。見えなかった。今のは何?爪で切り裂こうとしたの?」


「多分爪だろうな。武器を持っているようには見えない。それにしてもあの速さで動かれたら見えねぇぞ」


「ラニスタ耐えられそうか?」


「無理だな。一発でカル姉さんの守護霊を切り裂く奴の攻撃を耐えられるわけが無い」


「守護霊?」


「ああそうだ。さっきケイスケに授けておいてよかった。そうじゃ無かったら死んでたな」


ああなるほど。だから生きていたのか。。。やばい。普通に怖いわ


足が震えている。


そうか。俺は死なんて事をほとんど考えてなかったからだ。


あるじ!逃げてください!アレが種族ゴブリンの王にして、魔王軍の一員!ゴブリンキングです】


は?


「大丈夫ですわよ。私達が連携を組めば倒せます」


「そうだな!やるか」

そういってナキとグロウが戦おうとしていたのを次の瞬間に俺は何故かグロウとナキの手を引っ張っていた。


「なっ!?」


「は!?」


「聞け!アレがゴブリンキングだ!逃げるぞ!俺たちには太刀打ちできる相手じゃない!」

「は!?何いってんだ!?それにもしアレがゴブリンキングだとしたら逃げられるわけないだろ!あの速さで動かれたら直ぐ追いつかれる」


「わかってるよそんなこと!でも戦っても勝てるわけないだろ!」


「ナキ。すぐにアレンのところに行って!早く!」

サーナはナキにそう告げた。


「わかりましたわ」


「信じるのか?」


「信じるも何も明らかに纏ってるオーラが違うから。ゴブリンキングだと言われて納得した」


「そうか。時間稼ぎできるかが問題だな」


「やるわよ。絶対」


「仕方ないか」




「飛躍!」


ナキが飛び上がった瞬間にゴブリンキングは動いた、ほぼノーモーションから飛び上がろうとしたナキの上まで飛んでいた。


「なっ!?」


ゴブリンキング一回転しながら踵落としをナキの顔面に直撃させた。


そしてゴブリンキングはそのまま地へ重力に従って着地


「助かりましたわ。カル姉様!風圧!飛躍!」


ナキの体から白い煙が上がった。


アレがカルマーラ姉さんの守護霊スキルか。


そしてナキは落下を風圧により防ぎ、風を1箇所に集めてから飛躍スキルにより上空へ飛び上がった。


ナイスだナキ!

心でそう叫び、そしてゴブリンキングはナキを諦めそして俺と目があった。


リーズお前は奴の動きが見えたか?


【 見えていますよ。それとアレの狙いは主です。見ていたようですね。主が他者からスキルを盗む瞬間を。そしてそれはマズイと判断して顔を出したというところでしょうか】


マジかよ。


招かれざる客過ぎるだろ。


なあリーズ。



目をよこせ



【 了解しました。只今より個体名リーズの目は主である、ケイスケの目とリンクします 】


勘は当たっていた。

リーズが脳内から話しかけてきているならそういうこともできるのではないかと思ってはいたが確信はなかったが試しに聞いてみたらできたようだ。


そうリーズが言った瞬間、俺の視界が一気に広がった。


おいおい。どこまで見えるんだよ。

50m先で戦っている男の顔までハッキリと見える程になっていた。


【 リンク持続時間は1分が限界です。それを超えると主の脳が悲鳴をあげパンクします。多分?というか1分で無理やりリンクを切断しますのでまあ聞かなかったことにしてください】


怖いねぇ。

単語が怖いんだよ。そこから連想される内容とか怖すぎる。


俺が剣を構えた瞬間、ゴブリンキングは地を蹴り己の爪を此方へ向け振りかざしてきた。


そうハッキリと見えている。


そして俺はそれをいつも敵の攻撃を避けるように避けた。


「は?」

グロウの声だった。


「え?今何が起きた?つーかケイスケ今の見えたのか?」


「なんとかな」


ゴブリンキングは再び突進、フェイントを3つ挟み攻撃をしてきたがそれを上手くかわし、かわしながら左手でゴブリンキングの腕を触った。


その瞬間ゴブリンキングは今までになかったような動きで地を蹴りその場から距離を置いて、此方を睨んだ。


【 強奪成功です。スキル名は、黒く光る鉤爪 LV1ですね。内容は自らの爪が黒く尖り肉程度なら軽く斬り裂けるようになるみたいですね。先ほどの攻撃はこのスキルによるものでしょう。これによりゴブリンキングは攻撃手段を一つ失いました】


攻め時か?


【 いいえ、時間稼ぎです。相手が様子を見ているというのであれば構う必要は無いかと。目のリンクは解除しておきます。必要な時に再び使用してください。「リンク」と言っていたたげれば直ぐに繋ぎます。使用時間は残り27秒です】


わかった。


両者睨み合いの状況が続いた。


「あいつですわ」


森の奥で戦っていたアレンのパーティー、アレン、ティカ、ゲーズ、スロウを連れてナキが戻ってきた瞬間ゴブリンキングは目の前から消えた。


見えなかった!


目が繋がっていないからだ。


何処に行った?!


そしてゴブリンキングが一瞬で移動した先は4人を連れて戻ってきた、警戒をしているが現在最も無防備なナキの目の前だった。


「え?」


ナキは驚き、目の前から蹴りかかってくるゴブリンキングへの対応は全くできていなかった。



「ダメだろ。新人潰しは許さねぇぞ?」



ズゴォンという音がしたかと思えばゴブリンキングが地に叩きつけられていた。


ゲーズがゴブリンキングの攻撃を盾で受け止めて弾いたのだ。


「ゴブリンキングは知能を持っていると聞いたんだがな。今の動きはただの馬鹿としか言えない。精神を乱されるようなことでもあったのかな?」


アレンが剣を抜き地に落ちたゴブリンキングを斬り落とそうと振ったが流石にそこまで上手くはいかず、ゴブリンキングは身を翻し、アレン達から距離を取った。


「ほぉ。あそこから逃げるのか」


「ゲーズさん助かりましたわ」


「気にするな。俺たちを呼びにきてくれただけで完璧な仕事ぶりをしてくれた」


「ありがとうございます」


ナキはそう言って俺たちのいる所へ戻ってきた。


「ナイス!ナキ」

俺はそう言ってナキに声をかけた。


「君達は少し距離を置いておいた方がいい!全力でやるから」


アレンにそう言われて俺たちは少し後方まで下がってそれを見学することにした。




「スロウ、範囲に入っているか?」

アレンは隣で敵を見つめるスロウに声をかけた。


「もちろん。でもちょっと遠いですね。もう少し近づきたいです」


「了解。ゲーズ任せた」


「オォケェ!」

ゲーズはそう言って全力で走り出した。


巨大な盾を持つ男はゴブリンキングめがけて突進した。


だがゴブリンキングは突進を避け、盾の内側のゲーズを狙い拳を振った。


「ぬぁ!」


直撃したゲーズは横へ倒された。


そしてそこへゴブリンキングは追撃をしようと跳躍、ライダーキックのように上から飛び蹴りをゲーズめがけて繰り出した。


ゲーズはそれを体を転がして避け、そのまま倒れたままアレン達の所へ撤退しようと地を這い始めた。


ゴブリンキングの口元が歪み地を這うゲーズをニヤニヤと見つめながらその後ろからゆっくりと獲物を狩るように拳を固めゲーズの背中めがけて振り下ろした。


ゲーズは地に落とされるが尚もアレン達の方へ這う。


一歩進むたびにゴブリンキングは地にゲーズを落とし、だがそれでもゲーズはさらに這う。


そして「固定完了」とゲーズが呟いた。


「ゲーズ、完璧な演技ですね」


スロウはそう言うと、ゴブリンキングの動きが止まった。


【 領土系スキル。陣営LV10。その範囲内のパーティーメンバーのステータスが3倍。それ以外の者のステータスを3分の1にするようですね。ですから離れろと言われたのでしょう】


「アレン後は任せたよ」


「おう。任せろ」


そしてアレンが剣を振った。瞬間、ゴブリンキングの頭が飛んだ。


【 風神化LV7ですか。現在のアレンさんは神と同化しています。例えるな先ほど行った目のリンクを体全体で行なっているような状態ですね】


は?

てことはアレンにもリーズみたいなサポートがついてるのか?


【 いいえ、それはありません。彼の場合は風神様と契約する機会があったのでしょう。普通ならあり得ませんが、巡り合わせがそうしたのでしょうね】


アレンはその後その剣で空を切ると、その先にいるゴブリンキングが木っ端微塵に切断された。


つーかゲーズは無事か?と思いゲーズを見ると、凄いデカイバリアケースのような物の中にいた。


【 バリアLV10。ただの自衛スキルです。範囲の外から狙うアレンさんの風の刃と範囲内のゲーズさんの盾なので守れるのでしょうね】


え?アレンって範囲の外にいるのか?


【 はい。現在陣営スキルはゲーズさんとゴブリンキングの周囲3メートル程しかありません。範囲を狭くすればするほど効果は絶大になるスキルですからね】


あっという間にゴブリンキングは討伐された。


それによって俺は爪のスキルを得たが使えるのかこのスキル......。



そしてそれを見ていた冒険者達は歓喜を上げ、そして周囲の残党狩りへと足を進めた。


「おいおい!デカブツを狩り残してるぞ!アレンさん達が全部倒すって言ってたのに倒し残しかよ」


そう言った冒険者パーティーは見た目はBランク以上だろう。


そしてそれを聞いたアレンがは?と言ってそっちを見た。


俺も見ていたが確かに3メートル超えのゴブリンだった。


近づかれているとは思っていなかったのでそう言われた時はゾッとしたが彼等の口ぶりからすれば倒せる相手なのだろうと言うことであまり気にはしなかったがアレンは違っていた。



「そのデカブツから離れろォオオオオ」



そうアレンが叫んだ時、先ほどのBランクパーティーが全滅した。


デカブツが一瞬で動きパーティー全員の首を手に持つ薙刀で飛ばしていた。


「嘘だろ。どこにそんなスピードがあるんだよ」


グロウの声が聞こえた。


同感だ。全く見えなかった。


つーかあの速さ普通にゴブリンキングと同じかそれ以上......


まさか!?


おいリーズあれが本当のゴブリンキングなんじゃないのか!?


【 いいえ違います。アレの個体名はゴブリンクイーンなるものです】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る