第8話 混乱
街は混乱の真っ只中だった。
人々は悲鳴を上げ、恐怖に慄きながら逃げ惑っている。
先ほどまでの穏やかだった街の様子が嘘だったかのようだ。
そして街を混乱させた元凶が目の前で暴れまわっている。
「ゴブリン……!?」
サーナが絶句する。
俺が毎日倒し続けていたあの魔物が街を破壊していた。
10や20の数ではきかない。視界一杯にあの小さな悪鬼が暴れ回っていた。
言葉を交わす前に、俺とサーナは動き出していた。
ゴブリンを切り捨て、爆砕して蹴散らすようにして走り出す。
「どうなってるんだよ。街は安全じゃなかったのか!?」
「知らないわよ! そもそもゴブリンに群れて街を襲撃するだけの統率力なんてない!」
怒鳴るようにして言葉を交わす。
なにが起こっているかわからないが、わからないなら先ずは情報を手に入れるしかない。
ならば俺たちの目指す場所は一つだけだった。
冒険者ギルドだ。
あそこならこの混乱が起きた理由や、解決の方法も知っているかもしれない。
いままで魔物と戦ってきた組織なら知っている方が自然だろう。
「まって、あれは何!?」
サーナの叫びで思考から現実に引き戻される。
彼女の指した方向を見ると、巨大な炎の柱が巻き上がっていた。
「なんだアレ!?」
(回答、高位の炎熱系スキルと推定。発動された一帯は焦土化するでしょう。かなり遠方の距離で使用されたのかと)
「そんなモン、使わなきゃならないほどやばい事態なのかよ!」
おそらくゴブリン達を相手にしている時間すら惜しい状況なのだろう。
疲れたと悲鳴をあげる身体を体術スキルと自己再生で無理やり押さえつけ駆け抜けた。
ギルドに到着すると多くの冒険者たちが集まっていた。非常事態故か不穏な雰囲気がギルド内に満ちていた。
「ケイスケ! サーナ! 無事だったのか!」
声の方向を向くとアレンが手を振っていた。
ギルドに到着した俺と走り過ぎでえづくサーナを見て喜んではいるが、いつもの余裕がどこか無いようにも見える。
「なんとかな、それより何が起こってるんだ。どう考えても普通じゃないぞ」
「それはこれからギルドマスターが説明してくれると思うよ」
アレンが視線を向けた先でギルドマスターがカウンターの前に現れる。
「あー、時間も無いので静かに聞け。もうゴブリンが街を襲撃している事は知っていると思う。
すでに街はゴブリンで溢れ返り、混乱を極めている状態だ。だが、俺たちは今回、街のゴブリンの掃討は行わない」
冒険者達の間にざわめきが広がる。
当然だ。
いくら最弱の魔物とはいえ、このまま放置し続ければ街は滅びるだろう。
「ゴブリンキングが出た」
場が静まり返る。
皆の視線がギルドマスターの方へと再び向いた。
「遥か昔、魔王との戦いで存在していたゴブリンの高位個体。そいつの存在が先ほど冒険者によって確認された」
「なんでそんな奴が出てきたんだよ!」
冒険者の一人が叫ぶ。
「わからん、だがゴブリンキングはこの街を攻め落とそうと今もなおゴブリンをこの街に送り込見続けているのが現状だ。故に早急な対処が必要だ」
魔法使いの冒険者が不安げに手を挙げる。
「あの……倒せるんですか? せめて強さとか教えていただければ……」
「先ほどBランクの冒険者のパーティーが複数ゴブリンの掃討に森へ向かいゴブリンキングと遭遇して壊滅。情報を持ち帰ったのが弓兵一人だったと言えばわかるか?」
強すぎる。
手練れの冒険者が複数で戦って敗北する。
その事実が場の空気を下げる。
「なあアレン、悩まなくてもSランクの冒険者者に頼めばいいんじゃないか? セラとか」
俺を冒険者ギルドまで連れてきてくれた彼女を思い出す。パッとみスキルレベルも高そうだしかなり期待できるんじゃないだろうか。
「……今、動けるSランク冒険者達は辺境の強力な魔物の討伐で出払っているんだ。セラさんの助けもおそらく期待できないだろうね」
「マジかよ」
「国がそういう風にSランク冒険者を動かしているからね、仕方ないさ」
国ってことはあの王様か。
ほんと余計なことしかしないなあいつ。
「勝てねえぞ、やべーよこれ」
「逃げるか? 逃げに関しては自信があるぞ」
「やっちゃうか? やっちゃうよ?」
冒険者達から逃げようとしているものまでで始めた。まあもともと定住地を持ったものでは無いのでそういう選択もあるのだろう。
「おい、ヤバイぞアレン。このままだと貴重な戦力が無くなるぞ」
「ん? 大丈夫だよ。まあ見てて」
割とマジで街が滅ぶかどうかの瀬戸際な状況だというのにアレンはニコニコしてギルドマスターの方を見ている。
何か起こるのかと見ているとギルドマスターがさらに続ける。
「報酬は弾もうじゃないか、暴れてこい」
「依頼書を寄越せ、さっさと片付けるぞ」
「皆で掛かれば勝てるはずだ、締まっていくぞ」
「金金金金金金金金金金金金金金ェ!」
一人の冒険者が叫び、そうだそうだと次々と頷き雄叫びを上げる。
その目は欲に塗れていた。
そうだった、あくまでこの国の最強がSランク冒険者なだけであってAランクのパーティーはSランク冒険者に匹敵するのだ。
Aランクの出なくとも大勢で戦えるならばBCランクでも勝ち目はある。
すっかり一変した場の空気に頷きギルドマスター は満足げに頷いた。
「作戦を立てるぞ」
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