第4話 森の中で
森の中、俺はクエストの討伐対象であるゴブリンと向かいあっていた。
「ハァ……! ッ……ハァ…!」
「グッ…ッ! ガァァア……!!」
互いに満身創痍、 荒い息を吐きながら一人と一匹はにらみ合っていた。
少し考えれば分かることだった。
ろくに運動もしてこなかった会社員がいきなり刀を持って戦うなんて馬鹿げているに決まっている。
持っていた武器がすっぽ抜けてから三十分近く、俺はゴブリンと素手でで格闘を続けていた。
「クソッ…! なかなか強いじゃないか、おい」
「グッ! グギャ!」
「おめーもなかなかしつこいな」とでも言いたげにシュッシュッと拳を振り抜くゴブリンを睨みつけながら汗を拭く。
このまま戦っていてもジリ貧だ。
正攻法でゴブリンとやりあって互角である以上、何か策を練るべきだろう。
そういえば解析とかいうスキルがあった気がする。あれでゴブリンの強さを図れたりしないだろうか。
『対象の解析を開始、完了、表示します』
「うおっ」
ゴブリン
所持スキル
体術LV1
悪食LV3
視界の端にステータスが表示される。これがゴブリンの能力らしかった。
おそらくゴブリンが無駄に殴り合いが強かったのは体術となというスキルのせいだろう。
つまりあのスキルを強奪で奪ってしまえば俺が勝てる、はずだ。
「うーん、こうか?」
強奪、と思い浮かべると右手が輝き始める。
よし、聞ける気がする。
「シャア! 行くぞオラァ!」
ゴブリンに飛びかかり両手で押さえ込む。右手が触れるとゴブリンから何かが流れ込み力がみなぎるような感じがする。
素早く離れてゴブリンと自分のステータスを解析する。
ゴブリン
所持スキル
悪食LV3
圭介
強奪LV1
体術LV1
よし、奪えているようだ。
心なしか身体が軽い気がする、あとなんとなく効率のいい身体の動かし方が分かる気がする。
「グッグゲ?」
ゴブリンも自分に変化が起こったことを感じ取ったんだろう。どこか戸惑ったように自分の手を見つめている。
あっチャンスだ。
考えるより先に身体が動いた。
地面に転がっていた刀に飛びつき、拾いながら剣を振り抜くと、振るわれた剣はあっさりとゴブリンの首を切断する。
倒され光の塵に還るゴブリン、振り抜いたまま残心する俺。
「……えっなにいまの」
運動不足の会社員にあるまじき動きだったんですけど。
これが体術スキルの恩恵だというのか。
いや、驚くべきはそこじゃない。
凄まじいのは強奪スキルだ。文字通り相手のスキルを強奪する能力。
一方的に相手の能力を奪い取って使用することができる。
考えるとかなり強力だ。
おおよそチートといっても差し支えないレベル。
この力さえあれば俺を捨てた王様を見返せるんじゃないか。
それだけじゃない、強力なスキルを集めることができればこの世界で最強にさえ、なれる。
魔王を倒して、元の世界に変えることさえ不可能じゃないはずだ。
「くくく、うははははァ! いける!俺ならいけるぞ!」
片っ端から奪ってやる。そしてラノベ主人公も真っ青な主人公最強キャラを地でいってやる。
討伐証明であるゴブリンの魔石を拾いながらテンションを爆上げしていると森の奥から手を叩く音が聞こえた。
「ん?」
「やあ、初のゴブリン討伐おめでとう」
声の聞こえた方を向くと一人の青年が立っていた。防具と剣を装備しているところを見るとどうやら冒険者らしい。
「あー、初めまして。ケイスケです」
「敬語はいらないよ、僕はアレン ミーニアス。アレンって呼んでくれ」
「お、おう。よろしくなアレン」
「ああ、よろしくケイスケ。ギルドマスターに言われて様子を見に来たんだけど、どうやら心配はいらなかったみたいだね」
「まあゴブリンだしな」
ギルドマスターにゴブリンくらい倒せなきゃ冒険者になれるわけないって言われたしな。本当に雑魚ポジションの魔物なんだろう。
「そんなことはないさ、弱いといっても魔物。ゴブリンを倒しに独りで森の中に踏み込める勇気のある者はなかなかいないよ」
「よせよせ、照れるだろ」
「もう暗いし帰ろうか、今日はギルドで飲もう。もちろん僕のおごりでね」
「それじゃあご馳走になるわ、よろしく」
そういいながら歩き出そうとするとアレンに肩を掴まれ、引き止められる。
「え、なに?」
「魔物だ、それも結構多い」
アレンがそういうと茂みの中からゴブリンがガサガサと現れる。
10匹くらい。
多いわ。
「やっべ」
10匹は多いわ。さっきまで1匹でも必死だったのにそれはないわ。
……こうなったらゴブリンどものスキルを奪いつつ倒していくしかない。
さっきの素手だったゴブリンとは違い錆びたナイフや槍などの武器を持っているが、勢いで押し切る。
先手必勝
「うぉおおおおお!」
俺が刀を引き抜き飛びかかり、ゴブリン達が武器を構えぶつかり合う瞬間。
「やっぱり君は勇気があるよ、ケイスケ」
鋭い風が通り過ぎた。
気付けば1匹残らずゴブリン達の首が宙を待っていた。倒された魔物達は光の塵になって消えていく。
後ろを振り向くとアレンが剣を振り抜いた姿勢で静止していた。
「ああ、僕はAランク冒険者だから、わからないことがあったら聞いてくれ」
なんとなく、俺は強奪スキルだけでは最強にはなれないことを実感した気がした。
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