第2話 冒険者ギルド
初対面の美人に引っ張られるがままについて行く。気にくわない王様の住んでいた城を出て、街の中を歩く。
「マジか、本当に異世界に来たのか」
外国のような街並みに、獣の耳が頭に生えた人間、街を走る馬車。否が応でもここが日本ではないことを実感させられる。
キョロキョロと周りを見ながら歩いていると、おれをひっぱっていた女性が巨大な建物の前で立ち止まった。
「ねぇ、あなたって戦える?」
なんか急に物騒なこと言い出したな。
俺を召喚したらしい王様達もそうだが、ただの一般シスコン会社員に一体何を期待してるんですかね。
「何と戦うんだ?」
「えっと、ゴブリンとか? そういう魔物相手よ」
見たことねーよ、ゴブリン。
あれか、ファンタジーのお約束的なモンスターか。小柄な鬼的なやつか。
たぶんゲームのチュートリアルで出てくる雑魚的な位置に分類されるやつのことを言っているのだろうか。
「ゴブリンって……どんな魔物なんだ?」
「ゴブリンは弱いわ。一般人でも倒せるくらいの魔物ね」
強さを聞きたかったわけじゃないんだけどな。俺が知りたかったのは見た目とかそういうのだ。デカイとか小さいとかそういうの。
だが一般人でも倒せるくらいに弱いらしい、その一般の基準がわからないが。
「あの、できれば戦いたくないんですけど」
あんまり自分がゴブリンと戦って勝てる姿が想像できないし、なによりこういうのは専門家に任せた方がいい気がする。
王様がいたんだし騎士団とかもいるだろう、たぶん。
「いいから行くわよ」
「えぇ……」
建物の中に入ると、剣やら弓やらを携えた男がわんさかいた。
いかにも荒くれ者といった風貌の人間が、値踏みするような視線でこちらを見ている。
そんな視線を気にした風もなく、どんどん進む彼女の後ろを追いかけていると、カウンターの様な場所で煙草を吹かしている男の前で立ち止まる。
「ようセラ、久しぶりだな」
「お久しぶりです、ギルドマスター」
煙草を咥えた髭面の男が親しげな挨拶をすると、どうやらセラという名前らしい彼女が微笑んで返事をする。
先程までのセラの張り詰めた空気が緩んだところを見ると、それなりに知れた中であるらしい。
とりあえず俺も一般人常識のある日本人として挨拶はしておくべきだろう。
「こんにちは、堂島圭介です。よろしくお願います! 押忍!」
突然、大声で話し出した俺に驚いたのか、ギョッとした表情でギルドマスターがこちらを向く。
「お、おう。なんだこいつは。セラの連れか?」
「はい、実は彼の事でお願いがあってここまで来たんです」
そういうとセラはギルドマスターに何やら話を始めた。どうやら俺がこの世界に来ることになった経緯を話しているらしい。
話を聞き終えるとギルドマスターは同情気味に肩を叩いた。力強い、痛い。
「なるほどなぁ、呼ばれたのに弱すぎてポイか。そりゃついてないなケイスケ」
「いやほんと、お先真っ暗ですわ」
「よし、この俺に任せろ。お前にこの世界で生きるための仕事を用意しようじゃねぇか」
「はぁ……? アザっす?」
どうやら仕事をくれるらしい。
確かにすぐには帰れなさそうな上に、生活費らしきものは一切もらってないので働かないとダメだろう。
なんの仕事を貰えるのだろう。書類整理とかだろうか。
「まずはこれに血を滴らせ、ギルドカードだ」
カウンターの上に針と一枚の鉄製のカードが差し出される。このカードに血をつけらという意味らしい。
「ふーん……」
「おう」
「…………えっ、マジでやるの?」
冗談じゃないのかよ。
嫌なんだけど、手に針刺すとか。自分で自分を傷付けるとか無理なんですけど。
「しょうがねぇなぁ。セラ、少し抑えとけ」
「はい」
「ちょっ……やめ……! え!? 力強いな!?」
セラに女とは思えないほどの力で押さえ込まれる。
全力で抵抗してるはずなのに拘束から抜け出せる気配がない。逃げようと暴れてもセラは微動だにしない上に、めっちゃ涼しい顔をしている。
「痛ァ!」
「おし、終わりだ。ったく、男ならもっとしっかりしやがれ」
針をぶっ刺されてできた血をカードにこすりつけられる。
すると何も書かれていなかったカードに文字が浮かび始める。残念ながら読めないが。
「やっぱスキルはねぇのか。まあ後天的に発現する場合もあるし気にすんな」
ほらよ、と投げられたカードを受け取る。
ギルドマスターに話を聞けばこれは冒険者ギルドで発行できる身分を保証するためのものらしい。
ランクに応じて色が変化し、さらには本人が持っている能力まで表示するらしい。
「へぇー、なんかスゴイっすね」
これは魔法とかそういうので動いているのだろうか。
いきなり針で刺された時は絶対にゆるさねぇと起こっていたが、魔法っぽいもんが見れたのはちょっと嬉しいかもしれん。
異世界に来てからようやく出会えたファンタジー要素に若干テンションを上げながら、まじまじとカードを眺めていると、ギルドマスターがカウンターに一枚の紙切れを叩きつけた。
「ん? なんだこの紙切れ?」
「これで晴れてお前も冒険者だ。なら次にやることは決まってるだろう?」
小さな鬼の絵と異世界語が書き込まれた紙にバンと判子が押し込まれる。
赤い印が押された紙を突き出されて、ようやくこれが俺の為に用意されたものだと気付いた。
「Fランク依頼『森の小鬼を倒せ』 記念すべき初仕事だ。晩飯にありつきてぇなら本気でやれよ!」
元会社員、装備はジャケットにジーンズ。敵は強さが未知数なゴブリン。
大丈夫かこれ、死にたくないんですけど。
未だ元の世界に変える方法はない。あまりにも遠すぎる道のりに俺は溜息を吐くのだった。
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