異世界スキル強奪者エクスタクト
吉河
第1話 転生
1話
「ああ!奪えねぇ」
息を荒げ、膝に手をつき、地に汗を垂らしながら男は対面する女を睨みつけていた。
「分かっていたら、奪わせるわけないでしょう」
対面している金髪、碧眼の女性は汗ひとつかかず、平然と男を見ていた。
堂島圭介 25歳 サラリーマン
顔面偏差値、普通の中の普通
身長175cm
スタイルは太り過ぎてもおらず、痩せ過ぎてもいない標準である。
現在 異世界にて冒険中
何故そんなことになってるか?
それは2017年が始まる日のこと......。
ーーー
「ああ!クソ!社長のやつ、忘年会は早く上がらせてくれるって約束しただろうが!」
ホテルからジーンズにジャケットを羽織った男が飛び出してきた。
男は鞄を大事そうに抱えながら駐車場まで走ると、すぐに車に乗り込み車を出した。
もちろんアルコール類は飲んではいない。
目的達成のためならそれくらい我慢できる。
時間は0時を回り、ハッピーニューイヤーしてしまっている。
先ほど我が妹からスマホに『お兄ちゃん、帰ってこないの?』( 猫が泣いているスタンプ付き)のLINEが送られてきた。
『 帰る!絶対に!優奈のために!』と返信し、即、社長に上がりますと伝え、現在に至る。
車を出したがいいが、ここから家まで3時間はかかる。妹はもう寝ているだろうな......。
実家から上京して働いているため、実家に帰ることもあまりない。実家には13歳年の離れた妹がいる。12歳の妹は兄である俺のことをとても好いてくれている。もちろん俺も妹が好きだ。
年の差もあり、一緒に過ごした時間こそ少ないがその分帰れる時は実家に帰るようにしているというのに、一緒にハッピーニューイヤーできなかった。
すまない。妹よ。忘年会の空気を悪くすることは俺にはできないのだ。
それに安心してくれ、俺の鞄の中には優奈へのお年玉袋は2週間前から常備されている。
クリスマスプレゼント?そんな物サンタさん名義でクリスマスに送り届けたわ!抜かりなしの兄である。
だから心配するな!お年玉を忘れるなんてことはない!あとは俺が実家に帰るだけ
ピロン
車を走らせること1時間弱、突然スマホのLINEのメッセージを知らせる音がなった。
基本的に妹以外は、通知OFF設定であるため妹の可能性が高い。
何の用かな妹よ!
圭介は車を近くのコンビニへ止め、スマホの画面を確認した。
いやまあ。優奈から何かの用事のLINEが来たのかもしれないしな!
名もなき者『ここより北上15km』
は?
何だこれ。偽アカウント?
イタズラか?会社の奴らならやりそうだ。俺をシスコン呼ばわりしやがる奴らばかりだからな。
俺はシスコンじゃない。ただ、妹を家族として愛しているだけだ。
【目的地の進路を変更します。15km直進です】
車のナビからの声。
普通に怖いんだけど。
優奈 『今どの辺?』
ゆうなぁああああああああああ!
我が愛しの妹よ!お兄ちゃんなんかヤバい奴に目をつけられてるっぽいけど、お前のために帰るよ
幽霊なんて信じない!俺が信じるのは優奈だけだ。
『心配するな。すぐに帰るさ』
実家に帰ったら、優奈にお年玉あげるんだ
名もなき者『回りくどいな。なんかうざいし成功させてやるか』
名もなき者の友『え?いいんすか?儀式的なやつなのに』
名もなき者の友2『いいのですか?流石に順序と言うものが。それに彼方の者達はどう捉えるかわかりませんよ』
名もなき者『まあその辺はあいつら馬鹿だからどうにかなるだろ』
名もなき者の友『そーっすね。200日も魔力貯めるなよなー適正者探すのがどれだけめんどいかあの馬鹿どもは知らねーんだろ。まじウゼー』
名もなき者の友2『じゃ、私は新年会に行きますので、承認印だけ打っておきますね。あとはお好きに〜』
名もなき者の友『それじゃ俺も承認印打っときますね、あとは頼みますよ』
名もなき者『お疲れ〜。これで俺の含め神の承認印3つが集まったわけだからあとは本人の承認だけか』
『承認しますか?』
OK or はい
一連の流れの後にスマホにこう表示された。
馬鹿なのか?
言葉の意味を理解しているのか?
はいとはいじゃねーか。
名もなき者『ちょっとー、見てるんでしょ?ねえねえ。早くしてもらえませんかねー。こちとら新年会に早く顔だしたいんですよー。ほら優奈さん。承認してくださいよ』
優奈さん?
妹の名前がどうして......。
妹と間違えて俺に話しかけてるのか?
酔っ払ってやがるのか?
優奈を連れ去ろうってか?
させてやるわけないだろ。
《はい》
圭介はスマホの画面をタッチした。
名もなき者 『はい、転生っと』
何か俺のLINEの画面で知らない奴らが会話を始めた。
転生?何言ってるんだ?
イタズラの意味がわからん。
何が言いたいんだ?
でも。妹の身代わりになれたのなら、いいかな。
『 じゃ俺も新年会行きますか。はぁ。勇者のスキル持ちが女の子ってのは絶対パーティーメンバー間でイザコザがあったりするだろうなー』
【 世界とのリンクをしました。佐倉 優奈様を異世界へ送り届けます。特典としてスキルを1つ、そして言語の共有化、召喚先を確定。これより、佐倉ゆ......。あれ?ちょ!?は!?・・・。仕方ありません。対象データを変更。佐倉圭介をテレポートします。
テレポートまで
5
4
3
2
1
良い日々を】
ナビが急に光り出し、訳のわからないことを言い出した。
圭介は何もできずただ、ナビから発せられるそれを呆然と聞いていることしかできなかった。
『ごめん。多分今年は帰れそうにない』
その文字を最後に圭介からの返信は来なくなった。
ーーー
眩しい。
何が起きたんだ?
少しの浮遊感ののちに俺の体は膝を地につき、尻の下からは車の椅子とは違う床の冷たさが伝わってくる。
周囲から発せられる声。
5人?10人?
いやそれ以上。男と女の騒がしい声。
何言ってるんだ?
「失敗したのか?」「勇者様は?」
「落ちつけ皆の者」「召喚スキルの暴走?」
聞き取れたのはこのような内容。
夢であってくれと願いつつ、ケイスケは閉じたままだった目を開いた。
目を開くとそこには、何人もの人が集まっており、目の前には玉座があり、そこに赤いマントを羽織った年寄りの男が座っていた。
何処かの城?あれは明らかに玉座と呼ばれる物だろう。ならここは言うならば玉座の間といったところか。
そして周りにはローブを着た男や女、武装した騎士達。後ろには、城の執事やメイドであろう者たちが控えている
ざっと30人はいる。
そして全ての人間に共通していることは、皆、俺を囲むように立っており、俺を見て目を期待で輝かせていることだ。
俺に期待するようなことがあるのだろうか。
「王よ、この者は勇者様なのでしょうか!」
西洋の鎧に似たデザインの鎧を纏った男が玉座に座る年寄りの男に質問を投げた。
やはりというか、あの玉座に座っているおっさんは王様だったらしい。
「まあ、待て。今から見てやる」
王がそう告げると皆の者から歓声が湧いた。
【スキルサーチ】
王は叫んだ。
落ちつけケイスケ25歳。
まず確実なのは何故かはわからないが、俺は一種の神隠しのような状態に遭遇していると推定できる。
そしてもう一つ。俺は勇者じゃない。
一般人だ。
どうしてこれだけ落ち着いていられるか?
夢だからだ。夢じゃなきゃこんなのおかしい。
そうだろう?夢で別の世界に行っても驚かないし、それを受け入れている。夢だと気付いたとしても、「あー夢だったか」で終わり、その世界を少しでも受け入れていたことへの疑問は持たない。
そんなものだ。
だから俺は焦らないし、別に動揺もしない。
ただ、何処からが夢だったか。
話し疲れて、寝ちまったのか?
飲んでるおっさん達と話すのは飲んでないと結構辛いものがあったりする。
それなら早く起きて優奈にお年玉あげないとな。
再びケイスケは目を閉じた。
そんなケイスケをほったらかし、王や騎士達は盛り上がりのピークに達し、王が発した次の言葉がその場を静寂へ導いた。
「何じゃと。この者。スキル無しじゃ」
そう王が発した瞬間、さっきまで騒がしかった、玉座の間が嘘のように静寂に包まれた。
こいつら俺にゲームのようにスキルがあると思ってたのか。
火でも出せってか?無理だわ。
あいにく、こちとら社畜一般人Eとかその辺だ。
もしくはシスコ......。いやこれは否定する。
全てのものが驚愕といった顔で静まり俺を凝視している。
王様も俺の方を見て驚愕と怒りを合わせたような険しい顔をしていた。
NEXTターンはもらった。
大勢の前で話すのはあまり得意では無いが、このチャンスは無駄にできないか。
やっと俺に話せるタイミングが来たわけだしな。
先程までは、周りがうるさ過ぎて話す気にもなれなかった。
いやマジ、朝礼で話してる社長とかすごいわ。
ガヤガヤうるさい中、毎日よくやるよ。
ケイスケは立ち上がると目を開け、そしてそこにいる者達すべてに聞こえるように大きな声で
「俺は勇者でもないし、俺にスキルなんて無い、あるとしたら社畜根性と妹愛だけだ!
だから早くこんな夢、覚めてくれませんかね。
ほらスキルなしで無能ならさ夢から返すなり、もしこれが現実なら俺は無能なんだから元の世界に戻してくれません?どーせここ俺のいた世界と違うんでしょ?騎士とかいるし、もうわけわからん」
「戻せるわけがない」
「は?」
王の返答は馬鹿げたものだった。
その一言のみで全ての希望を断たれた。
「魔王を倒すために召喚したのだ、召喚した時の条件が達成できなければ元の世界へは戻れない」
「あ?何いってるんだ?夢じゃないのか?」
「夢じゃない。現実だ。受け入れよ」
「受け入れよ。じゃねぇ!は?魔王を倒す?何処にいるんだよ、その魔王とやらわ。直ぐに倒して優奈にお年玉をあげに行かなきゃならんのだ」
「封印されとる」
「はい?」
「ここ数年で封印が弱まって来ておる。お主達を召喚しているのはその時までに力を蓄えるためじゃ」
「いつ解けるんだ?」
「最低でも3年は解けぬ」
・・・。
「バカか!?スキルのない無能な俺を最低でも3年もこの世界に縛るってのか?頭おかしいだろ」
「もうよい。何処へでも行け。」
「よくねーし!そもそもここは何処だよって話だ!」
「お待ちください!王よ」
王とケイスケの会話を聞いていた者たちの中から金髪で翠の目をした女性が一人前へ出た。
「何だ?」
「今までの召喚では勇者で無くとも、何らかのスキル、例えば、竜騎士や巫女といった個性的なスキルの持ち主でした。それが何も無いなんてことは……。人は生まれながらにして、最低でも1つはスキルを持つもの。そしてあちらの世界の人間は、勇者のスキルを持つ可能性が高く、そうでなくとも強力なスキルを持っている者が多いという中、スキル無しなんて。ありえません!」
女性は王にそう訴えた。しかし
「事実だ。ハァ。200日の集大成がこれとはな。」
王はそう返した。
「ではこの者への対応は無しと?」
「当たり前だ。こんなものに金貨を渡すわけがあるまい!」
「いやしかし、一文無しでは直ぐに死んでしまいます」
「死ぬならかってに死ねばいい。我らは200日もかけて魔力を貯めて召喚しているのだ、何も無しでは困る」
「過去4度成功した者たちには莫大な金貨を授けたではありませんか!」
「それは彼らが有能なスキルを持っていたからこその未来投資だ。この者にその価値はない。何ならお前が面倒を見てやるか?無理なら放っておけ。」
「もういいです」
ハァ!とため息を漏らし、その女が俺の元へ歩いて来た
「行くわよ。私が面倒見てあげる」
は?
俺は首を傾げたまま、ポカンと口を開けていた。
現状の整理ができていない。
「2度も言わせないで。付いて来なさい」
「あ、ああ。」
よくわからないが、俺は元の世界に戻れるのか?
そもそもこれは本当に夢じゃないのか?
そんなことを考えながら俺は騒然とした玉座の間を出た。
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