第4話 邪神+魔術=?

 毎度お馴染み文芸部。

 活動内容はと聞かれたら、ひたすら本を読んでいるとしか答えようがない。

 ジャンルは様々で純文学や現代文学、古典、あと時々ライトノベル。


 俺のオススメはなんと言ってもラヴクラフトの“クトゥルフの呼び声”だ。

 クトゥルフ神話研究の登竜門と言っても過言ではないだろう。


 意外かもしれないが、活動時間中はお互いに何も話さずに黙々と読書をする、真面目な部活なのだ。

 ……なのだった。


「先輩! 丁度いい所に! 今から黒魔術に挑戦するので見ていて下さい!」


 文芸部部室が、床一面に拡げられた魔法陣の描かれた布、暗幕で光を閉ざし、照らされた蝋燭の灯だけが頼りの、カルト的な空間に変わっていた。

 魔法陣の中央では、左手に『基礎から始める黒魔術』と書かれた怪しげな(そしてどこかで見た様なタイトルの)本を持つ、我が部の邪神様が無邪気に笑っていた。


「いやいや、邪神が黒魔術とかシュールにも程があるだろ」


 というか、彼女は一応邪神なので、本当に魔術を行使できるかもしれない。

 それはそれで興味が湧くな……。


「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うが=なぐる……」


 瞳を閉じ、真剣な顔で詠唱し始める。

 どういう原理か分からないが、魔法陣が青白く光り始めて……って、これは不味くないか?


「おい、大丈夫か? なんかお前がやると洒落にならん気がするけど」


 と言いかけた直後、ナズナはカッと目を見開き、「ふたぐん!」と叫んだ。

 刹那教室に軽い爆発音と共に真っ白な煙が発生した。

 部室には小麦粉なんかは置いていないし、ナズナが態々持ってくるとも(彼女の性格からして)到底考えられないので、恐らくこれは魔術的な煙なのだろう。


「うわくそっ! 窓開けろっ!」


「わわわっ! すみません!!」


 ナズナは大急ぎで暗幕を引っぺがし、窓を開けて換気をする。

 幸いにも煙には毒性や呪いの類いは無いようで一安心。


「はぁ……お前はオカルト部にでも入りたいのか?」


 蝋燭の火を消し、馴染み深い蛍光灯の明かりをつける。

 それだけで、さっきの魔術的な雰囲気は一気に消え失せてしまった。

 因みに、この学園にオカルト部は存在しない。

 今まで創部の運動はあったものの、学園長が何故か頑なに許可しなかったのだ。


「いや、だって魔術ですよ。気になるじゃないですか!」


 無い胸を張りながら、彼女は持っていたその例の本を誇らしげに見せつけてくる。

 目の前に邪神がいて魔術がない理由がわからないんだけど……。


「いや、お前が魔術なんて使ったら何が起こるか分からんだろ。……てか、それはなんの呪文なんだ?」


 見せ付けてきた魔術書を拝借し、付箋の貼り付けてあるページ––––恐らくこの呪文の該当箇所なのだろう––––を開く。


「クトゥルフの召喚呪文ですよ」


 目の前にいるじゃねぇか!

 思わず本を叩きつけてしまった。


「いやいや、もしかしたら他のクトゥルフが呼び出せるかなって」


「お前の家以外にもクトゥルフ家族なんているのか?」


 なんだか凄いパワーワードだな、クトゥルフ家族。


「いやぁ〜……。居るなら私が知りたいですねぇ」


 謎は深まるばかりというわけか。


「まあこれ以上はプライベートだろうし余計な詮索はやめておく。それよりも……」


 部室を見渡す。


「きちんと片付けろよな」


 今日は残念だが休部だ。

 帰りに本屋にでも寄るか。

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