第5話 新部員?

「入部希望?」


 普段通り、部室でナズナと昼食を摂っていると、突然彼女から入部希望者がいると言われた。


「はい。私の友人なんですけど、入部したいって言ってました」


 この時期に入部希望者なんて珍しいな。

 そんな事を考えながら、パンの袋を小さく結んでゴミ箱に捨てる。


「まあ俺は構わないけど、ナズナは良いのか?」


「ええ。何にも問題はありませんよ?」


 実際の所は、ナズナ以外の人間がこの部室を出入りするのは好ましくない事態だが、かと言って拒否する訳にもいかない。

 何とか入部させない方法は無いものか……。


「ところで」


 考えに耽っていると、ナズナは遠慮なく俺に視線を向けてくる。


「先輩っていつもパン一つだけですよね。お腹空かないんですか?」


 対するナズナは、いつも重箱サイズの弁当箱を持ってくる。

 曰く、人間としての身体を維持する為に相当量の食事を摂取しないといけないのだとか。

 確かにあれだけの量を日々食べても、体型が見た目上は虚弱とすら見えてしまうのは、摂取した殆どが肉体の維持に費やされてしまうのだろう。

 女性的な視点から言えば、なんとも羨ましい体質なのかもしれない。


「食欲があまり無いんだ。食べ過ぎると戻すかもしれない」


 コーヒー牛乳で口を直しつつ答える。


「そっかぁ……。たまには私がお弁当をと思ったんだけどなぁ……」


 驚き、彼女の顔を見る。

 邪神の作る弁当と言うのは確かに魅力的だ。

 というか後輩の、女の子の手料理を、一度食べてみたかったのだ。


「まあ、気持ちだけ受け取っておくよ」


 とは言え、女の子の目の前でリバースする醜態だけは晒したくなかったので、丁重にお断りした。


「で……その例の子だけど」


 すっかり空になった紙パックを潰しながら、正面に座る可愛らしい邪神こうはいと目を合わせる。


「俺にその子が入部する事を拒否する権利はないし、反対もしない。けれども、ナズナは良いのか? 入部すれば気軽にクトゥルフの姿にはなれないぞ?」


 きょとん、とした顔をして、彼女は音を立てずに箸を置く。

 彼女の、彼女が一瞬だけ浮かべた、人とかけ離れた、名状しがたい不気味な––––それでいて、人を惹きつける妖艶な––––笑みに背筋に甘い痺れが走った、気がした。


「まあ、問題ないですね。だって彼女は、私と同類ですから」

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