第2話 放課後、行きつけのお店にて

“クトゥルフ神話”はご存知だろうか?


 大昔、この地球上を統べていた神々の時代。

 その時代に存在していた神々、そして今に至るまで生き延びてきた神々、生き物を纏めた神話体系の事を指す。

 単なる創作物と捉えられている一方、神々は確かに存在していると、いくつかの宗教団体は信仰の対象にすらしている。


「お前がそのクトゥルフとはねぇ……」


 しかし、誰がこのハンバーガーを頬張る少女がその神話の筆頭、クトゥルフと思うだろうか?


「今はナズナですよぅ。それに、私はクトゥルフの末裔。ご先祖様の力の数万分の一程度しか持ち合わせていませーん」


「頬っぺたにケチャップ付いてっぞ」


「ふぇっ」


 大慌てで頬を拭く姿は、どこからどう見ても普通の少女にしか見えない。


「というかですね」


 すっかりバーガーを平らげ、紙ナプキンで口の周りを拭きながらナズナは話し出す。


「クトゥルフ神話だなんて最早オワコンなんですよ。当時の旧支配者グレートオールドワンなんて今は世界に二人しか残ってませんし、邪神的な力も皆んな殆ど使えないと思いますよ?」


 オワコンって言葉も今時聞かないよなぁ……って、


「待て待て。オリジナル、残ってるのか? 旧支配者グレートオールドワンが」


「ええ。お正月に遊びに行くとお年玉貰えますよ」


 親戚のおじさんかよ……。

 ていうか、


旧支配者グレートオールドワン同士って対立関係にあるんじゃないのか?」


 そう、どの文献を読んでも、“彼ら”は対立しあったり協定を結んだりと、人類よろしくなかなかに複雑な関係にあると記述されている。

 少なくとも、ナズナの言うような仲の良い親戚関係であるはずないのだ。


「あー、あれは父曰くでっち上げとか。多分人間社会での権力争いに旧支配者グレートオールドワンが使われたんじゃないですかね」


 と、さりげなく俺のコーラを飲み干した……って


「俺のコーラ飲むなよ……」


「いや、先輩がさっきから手を付けてないので、要らないのかと」


 いやいや、邪神関連の話が気になって食事どころじゃ無かったんだよ。


「というか、先輩はどうしてクトゥルフ神話に興味があるんですか?」


「あぁ……いやまあ、クトゥルフ神話って研究の対象にするのに面白いかなと思ってね……」


 半分本当で半分嘘。

 本当の事は口が裂けても言えないので、それっぽい事を言っておく。


 尤もナズナは気にもとめず、そんなもんですかねとスマホをペタペタと弄っていた。

 現代電子機器に染まる邪神というのも中々奇妙な絵面だ。


「じゃあ私はこれで帰りますね!」


 と思いきや、大急ぎで階段を降りてしまった。

 あ……会計俺持ち?

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