1-3 新入生いらっしゃい


 新入生歓迎総踊りではりきった甲斐あって、昨日二人の一年生がめでたく即決で入部を決めてくれた。

 ようこそ、我が「ハッピー民踊部」に!

 その二人が、朝っぱらから校門のところで、俺たちを待っていた。


 一人は、小鹿角子こじかつのこ

 秋田県角館出身のせいか、雪のように白い肌。清楚な和風少女といった感じ。

 体験入部の時も口数少なく、こちらから歩みよって話しかけなくては、と思わせるタイプ。うちわを受け取った時のはにかんだ笑顔が、控え目で可愛らしかったな。


「右紺先輩、おはようございます」と、その小鹿が俺の三歩後ろを付いて来る。

 前髪と肩のラインでまっすぐカットして、若干こけしっぽく見えるさらさら黒髪が揺れる。真新しいセーラー服がとても似合っている。う、まぶしい。


 そうか、今年のスカーフは空色なんだな。

 月野夜高校は、男子は学ランの詰襟のとこにつけるバッヂ、女子はセーラー服のスカーフの色が学年ごとに決まっている。

 三年は臙脂えんじ色、二年は紺、一年は空色、というローテーションだ。空色が朝の光の中でフレッシュに輝いて見える。キラーン。


「小鹿さんは一人暮らしなの?」

 いやいや、変な意味で聞いたつもりじゃなく、秋田出身って言ってたからね。

 さっきから気のせいか、なんだか左腕がつねられて痛いんだが。

「親戚の家にお世話になってます。学校から近いので助かります」

「お、そうか。俺たちもそんなもんだな」

「俺たち?」

「ああ、左房と俺は……」


 みなまで言う前に、ぐいぐいと引っ張られて、紗雪にしぃーって人差し指立てられてしまった。

「それは秘密。夏音ファンにたぬき汁にされたらやだからねー」

「たぬき汁って。相手は可憐な小鹿ちゃんだよ?」

「ふぅ、可憐ねー。私を見る目は結構鋭いんですけど。夏音は鈍感だな」

 ぽいっと戻されて、また小鹿ちゃんと歩く。


「先輩。今日からご指導よろしくお願い致します!」

 小首を傾げて、俺を見上げる黒目がちのきらきらお目目。撃ち抜かれそう。

 こら、紗雪、痛いから蹴ってくるな。



 さてもう一人は、留学生なんだろうな。

 その名もフェネック・サラマンダー。こちらは男子。


 ひと際新入生の中でも目立っている存在。

 なぜかと言うと『アラビアのロレンス』風の白い布被ってるから。

 ちらりと尖った耳。砂漠で焼けているのか浅黒く整った顔立ち。布から覗く青い瞳はまるでサファイア。光の加減でビームが出そう。どこぞの中東国の王子だという噂だが。


 そのフェネックが「サユキ、アッサラームアレイコム」とか言いながら、紗雪の手を取って颯爽と歩いていく。

 は? フェネックは、そんなに紗雪にくっつくな!

「次にお会いできるのは放課後ですね。それまでの時間が長く感じられます」だとー。ちっ。日本語ペラペラだな。


「バンビ、おはようございます」

 フェネックめ、小鹿ちゃんのことを早速バンビと呼んでいるのか。あ、彼女のほっぺがほんのり赤い。

「フェネックさん、おはようございます」

「バンビ、フェネックと、ヨビステでOKです。同じ学年ですから」

「……フェネック」

 ますます小鹿ちゃんから湯気が出る。気障な野郎だぜ。


 大体さ、なんで王子様なのに私立高校行かないんだ? ここは下町の都立高校だよ、制服は学ランなっ! 

 一人で長くてタラーンとした白い衣装着てるけど、これは特別枠なのか。ワンピースみたいだが、中どうなってるんだろう。

 体育の時どうすんだ。ってか、昨日の入部体験の時もこの格好だったな。


 正門前ではお付きの者たちが並んで、王子が校舎に入るまで見守っているようだ。ロールスロイスで送り迎えとは、壮観だね。

「放課後まで待てないので、お昼休みにサユキのクラスに伺ってもよろしいですか?」

 は? おいこら、来るな!

「紗雪、顔が溶けそうだぞ」

「めったにこんなに女の子扱いされないからにゃぁ。なれてない」

 ねこ語になってるぞ。

 だいたいフェネックなんて、きつねじゃないか。

 俺でいいだろ。「きつねは間に合ってます!」だろ?


 小さな頃からずっと一緒にいる紗雪に、いまさら女の子扱いとか、絶対できない。やったとしても笑われるか、熱あるの?って聞かれて終わりのはずだ。うー。


「そういう夏音こそ、デレデレだったくせにぃ」

 ぷぅとほっぺを膨らませている紗雪が、ちょっとかわいくて憎たらしい。

 今日はポニーテールなんかして、これじゃしっぽが二本だな。


 


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