雰囲気アリス

弓矢

目覚めたアリス

 暗い。洞窟の中だろうか。橙のランタンがぼんやりとあたりを照らす。

 木製のテーブルの上には飲みかけのコーヒーが置かれていた。


「ここはどこですか?」

 寝ぼけた頭で尋ねる。

 白いウサギは鼻をひくつかせながら首をかしげる。

 首元できっちりと絞められた蝶ネクタイが苦しそうだ。

 白いウサギは答える気配もなく奥の方へ消えていった。


 他にやることもないので白いウサギの後を追う。

 足元がよく見えないので壁に手を置き慎重に進む。


 暗い中、白いウサギのシルエットがよく映える。


 私はどうしてこんなところにいるのだろう。

 ここは一体どこなんだろう。あのウサギはどこに向かっているんだろう。



 白いウサギは言った。

「聡明な貴方様なら、もうお気づきなのでしょう?」



 白いウサギは振り返り、黄金の瞳に私を移す。

「淡いブロンズの髪、瞳は深い海の色、唇はぷっくりと赤く小さい。

 ずっと待っていましたよ。おかえりなさい。アリス。」

 


 白いウサギは膝まずき、私の手の甲にキスをした。



 その瞬間、私は全てを思い出す。

「ええ、待たせて悪かったわね。白ウサギさん。」



 白いウサギの懐中時計が、ゆるやかに、時を過去へと誘うのであった。



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雰囲気アリス 弓矢 @Dekoppa

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