第四話

『時に永史よ。オヌシは名前について、どれほど考えた事がある?』


婆ちゃんに言われた、答えの出ない質問。

考えた事は無かった。

考える必要すら無いと思っていた。


『妖怪や幻獣というのは、名で獲物を支配するものじゃからの』


でも、それは大きな間違いだと思い知らされた。名がどれほど重要なものかを、僕は理解していなかった。




僕の体に異変が起きたのは、潰された王宮の前で座り込む楓を見た、そのすぐ後だった。


視界がぼやけ、頭痛、耳鳴り、眩暈めまいが一挙に僕を襲った。

とても耐えきれぬその症状に僕は負け、気を失って倒れてしまった。


気絶している間、【鬼門】の中では一争いあったらしいが、それはまた追々書く事にする。


僕は気絶していた間、夢とも何処か違う何かを見た。

誰かの記憶を追体験しているかの様な、そんな感覚だった。


『――オヌシは忌み子なのじゃ。その運命は、たとえ余であれ変えられぬ』

槐が僕に、僕が追体験している誰かにそう言っている。

忌み子…………。それはとても古い風習だ。



たとえば集落で、周りと少し違う子――例として『有角』の子としておく――が生まれたとしよう。

するとその子は集落のコミュニティから除外され、家畜と同等か、それ以下の扱いを受ける。

集落で起こった不祥事はすべて、忌み子の仕業。その責任もすべて背負わねばならない。


たった1つ、人と違うだけなのに。

それだけなのに、嫌われる。

それだけなのに、自由を奪われる。



そんな古い風習だが、鬼の世界ではまだ現存していたらしい。

『何故だかは、オヌシが良く知っておろう?のう…………、【柊】』



――――――――!!

僕はその時、出来ればそのすべてを泥酔して忘れてしまいたかった。

よっぽど、知らない方が幸せだったろう。


そこにいた【柊】と呼ばれた鬼。

それは……………………。

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