第3章 オリ、いかん

第一話

角が――――生えている…………。

鬼のアイデンティティーとも言える角。

ただの人間のはずの僕、福知永史に何故か、生えていた。

今までなかったはずの、角が…………。


「……かく、鬼門に急ぐぞ」

槐様は突如、声色を変えて僕に告げた。

半ば乱暴に手を取り、そのまま勢いよく、倉の床である土を蹴る。

直後、僕は弾け飛んだ。倉の屋根を丸々吹き飛ばして、槐様と共に吹き飛んだと言っても良いだろう。

その勢いを一分とも失わぬまま、【鬼門】へ帰還した。

『槐様、よくぞ生きておられました!!』

『探しましたぞ、さあ王宮へ!』

他の鬼たちもこぞって槐様に駆け寄り、彼女の生存、そして帰還を祝福した。

「……杜!松!来い!!」

「「はっ!」」

「この男を牢屋ろうやへ」

「御意!」

「えっ?」


僕はまた牢屋に入れられてしまった。

変わらずそこには、はるがいた。

「……また来たのか、物好きだなお前も」

「今回は本当に心当たり無いです」

「そんなもんだろ」

冷たくはないか、と思ってもしまうが、確かに実際そんなものなのかも知れない。


「……って、角生えてんじゃん。人間じゃなかったのかお前?」

「……分からないんです」

本当に分からないのだから、仕方ない。

「嘘じゃなさそうだし、まぁいいや。

ところでさ…………【ひいらぎ】って知ってるか」


柊――――。そのフレーズを聞くまで、存在を忘れていた植物。

鬼を刺し、はらうものとして節分の際玄関先に出される、尖った葉を持つ植物である。


「あぁ、知らないのか。【柊】を」

鬼の、と強調した辺り、そういう名前の鬼がいるのだろう。


鬼の天敵の名を冠する、鬼。

忌み子とされた、いないはずの鬼。


それだけで次々と、僕の脳内で繋がっていくものがあった。

「まさか――――――――」

刹那、檻を叩く。

「ここから出せ!」

2人だけの牢屋の中、知ってしまった僕が、僕だけが、大衆の流れに逆らっていた。




その頃、王宮。

槐が楓と櫻、そして【もう一人】を呼んで、会議のようなものを開いていた。


「……まずい事になった、と永史を呼んだはいいが、奴には話せんでの。

オヌシらを集めたのは他でもない、彼奴が……【柊】の奴めが、復活しよった」

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