第2章 財布は働く、肴を求め

第壱話

――――金が足りないっ!!

僕はふくとも永史えいじ。鬼の財布である。

酒屋(ただし小さい)の孫だった僕だが、突如現れた飲ん兵衛の鬼・かえでに連れられ鬼の住み処【鬼門】に訪れる。

その首領・えんじゅに『酒の肴を作れ』と依頼され、監視付きという条件で『外出先でつまみを買う』事になった。




「……宿というのも、案外悪くないな?」

始めこそ脅迫してきた監視役のいつきだったが、温泉に入れてやり日本酒を買い与えるとすっかり、警戒心が無くなった。

女騎士がチョロいのは、世の常なのか?


「それにしても何だ……この『こく 無双むそう』とやら。美味いなこの酒は!」


お眼鏡にかなったのは良かった。

鬼ともなると酒で唸らせるのは至難であるはずなのだが、流石さすがめい酒。格が違う。

僕の貯金も中々のダメージを食らった。


とうの樹は美味しい物なら何であれ肴にしてしまうらしく、酒を片手に温泉卵をかきこんでときめいていた。チョロ可愛い。


「……槐様への肴、どうするのだ?」

「明日、知り合いの所に行く予定なんだ。そこは老舗の乾物店でね。そこで買うつもり」と、僕は鼻高々に誇った。

商いとは横繋がりだ……とは僕の祖父の口癖である。

祖父が酒屋を22歳で継いでからかれこれ半世紀、そんな家の数少ない創業当時からの付き合いだという乾物店・『いさりがわ干物ひもの』。

僕は明日一番、開店前から並んで行くつもりだった。


【漁河干物屋】の売りは商品どれを取っても『安さ・美味しさ・噛み応え』を大事にしている所である。

さすがの鬼でも『アレ』には面食らうだろう……と、僕は考えていたのだった。


「さ、今日はもう寝よう。明日は早いから」

「――――だが、何故だ……」

「うん?」

「何故私と貴様が相部屋なのだァッ!?」


役得役得。

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