エピローグ:そして、桜の終わりに。
あれから一ヶ月がたった。
曜は三月中ずっと、この世の終わりが来たかのように沈んでいたが、日増しに少しずつ元気になっていった。 四月になり、花見をしようか、と誘うと文句を言いながらもついてきた。
二人で桜並木を見ながらぶらぶらと歩く。休日はどこも花見客でいっぱいだ。
桜吹雪の中を歩く曜を横目で見る。彼は眼を細めて嬉しそうに桜を見ている。温かな陽射しの中で輝く曜。
本当に曜が羨ましい。彼ならこれからどんな失恋をしても、又恋ができるだろう。
錯覚を見続けられる曜。
僕はこの陽だまりの中で何を思っているのだろう。
彼女の記憶はゆっくりと過ぎ去りつつも消える事はない。
見る事はないと思っていた僕も錯覚を見ているのだろうか。
未だ錯覚の中にいるのだろうか。
曜がふと口を開いた。
「意外だと思って」
僕は首を傾げた。
「お前も知らないなんてな。さくらの好きな奴」
ああ、うん、と僕は頷いた。
まあそんなもんかもな、と曜はのびをした。
「・・・よっぽど俺よりいい男なんだろうな」
僕は苦笑した。
前からセミロングの髪の女性が歩いて来た。風になびく柔らかなストレート。
彼女が通り過ぎた時、僕と曜は何となく黙ってしまった。
どうしているだろうか。
きっと知らない場所でも彼女らしく、ふわりふわりと生活していそうな気がする。
確かめたりなんかしていないけれど、不思議と確信していた。
彼女はもうあのマンションにはいない。
きっとどこか、別の地で絵を描いている事だろう。
桜吹雪がざざ、と音を立てて飛び散る。
飛び散る桜の花びらを見ながら、曜が静かに言った。
「もう終わりだな」
「うん」
完
『アルファポリス奨励賞』三人。 浅野新 @a_rata
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