第12話

それから三日ほどたってから、曜が放課後に僕を近くの河原へと誘った。途中でハンバーガーを買い、二十分ほど歩いて、夕暮れの河原に辿り着いた。犬の散歩やジョギングしている人を避け、人気のない所に腰を下ろす。


曜は最初はいつもと変わらなかった。とりとめのない事を話し、よく食べ、よく笑った。


夕暮れも深まった頃、彼はぽつりと、聖司も聞いたよな、とつぶやいた。


「・・・さくらから別れてくれって言われた」

 僕は黙って頷いた。

「好きな奴ができたんだって」


 今度は頷かなかった。


 曜は静かに、何かに耐えるかのようにしゃべり続ける。


「申し訳ないから、これ以上は付き合えないって」

「俺はそれでも構わないって言ったんだ。でも・・・」

「今までだってそうだったじゃないか、何が駄目なんだよ、何が違うんだよ。お前はこれでいいのかよ」


 僕は、と少し詰まった。

「僕は・・・、彼女の好きなようにすれば、それで」


 俺は構わないのに、と曜は顔を伏せた。両肩が小さく震えている。


 僕は彼の肩を抱く事も、あいずちを打つ事も、何もできなくてただ隣に座っていた。

 時々、強い風がごう、と鳴る。

春がもう近くまでやって来ている。


 しばらくして曜がつぶやいた。


「好きな奴って知ってるか」


 僕は最初で最後の嘘をついた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る