第4話 魔王の中の人
林を抜けると、そこは広々と遠くまで見渡せる平地。
一面に畑が広がり、所々に作業用の小さな掘立小屋がある。ツリーハウスのようなものがたくさん立ち並んでいるところは、村だろうか。
畑には水路が引かれ、少し距離があるが、むこうには大きな川が流れているようだ。
今はそんなのどかな風景の中に、村人らしき人影は見えない。
そして、美香たちが出てきた林のわりと近くに、冒険者ギルドのメンバーか、または国の軍隊か、武装した、大柄なリザードマンやコボルトの集団がいた。
彼らが見る視線の先には巨大な影。
そして、美香には聞き慣れたエンジン音。
泥だらけの巨体。
それは、一台のトラックだった。
遠くからトラックをみているこの世界の人達。
ざわざわとその集団の方から声が流れてくる。
「おおおお、オーガが来たぞ!」
「オーガの美香だ、毒霧が来た!」
「だが大丈夫なのか?あんなに大きな魔王に……」
「美香……頼む」
美香はその集団に、とりあえずこの林の木の陰に隠れるようにと、ダダに伝えに行ってもらった。飛んで行ったダダを見送って、ガットとズーラにもここで、できれば林の木の陰で待っていてもらう。そして一人で……
「私、行ってみるわ。大丈夫。きっとむこうの世界の人だから。大丈夫だから心配しないで」
みんなに手を振ってから、美香はトラックに向かって走り出した。
トラックは今は畑の真ん中に止まっていた。よく見ればこれまでトラックが付けた
美香はトラックに近付いてよく見たが、うん、間違いない。書かれている文字も日本語だ。
もう少し近付くと運転席には作業服を着た人が、ハンドルの上に突っ伏しているのが見えた。
「あのー、こんにちは。大丈夫ですか?」
美香の声掛けは気が抜けたものだったが、車の横に立ってピョンピョン跳ねながらのぞきこんで声を掛けると、運転席の人が、がばっと起き上がった。
「わあっ!人がいる!日本人か?なあ、あんた日本語喋ってたか?」
運転席の男が窓を開けてしゃべりかけてきた。
日焼けした赤い顔の、30歳にはならないくらいのくらいの男だ。
「ええ、日本人よ。ちょっと話を聞きたいんですけど、トラックから降りてこれますか?」
「……!嫌だ。それよりおばさん、早くこのトラックに乗りなよ、ここ、やばいんだよ」
美香が車から降りてくるよう言った途端、男はキョロキョロと辺りを見回したり窓を半分しめたり、挙動不審になった。
「いきなり工事現場がこんな……俺……仕事してただけなのに……。なあ、おばさん、早く乗りなって。ここ、化け物が居るんだ。多分トラックに乗ってたから異世界に召喚されたんだ。わあああああああ」
「ま、まあまあ、落ち着いて。ええっと……どうしようかしら」
知らない人の車に乗り込むのも嫌だし、かといって降りてきてくれそうにないし。
どうやら、いきなりこの世界に来てしまって混乱しているらしい。帰れることが分かれば、少しは落ち着けるだろうから、事情を説明したいのだけれど。
しばらく悩んでから、ふと思いついた。
「あ、もしかして、お昼ご飯食べてないんじゃない?お腹が空くといいアイディアが出ないでしょう?私が持ってるオヤツ食べる?」
高い位置にあるトラックの運転席を見上げながら、背中のリュックを指さす美香。
運転席の男は、しばらく悩んでからコクンと頷いた。
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