第3話 殲滅の毒霧
先頭は両手に殺虫剤を持った美香。その後ろに剣を構えたガットで、最後に魔法の杖を構えたズーラ。林の木々より上の上空からダダがキラービーの巣を探す。
足元は草に覆われ、歩きにくくなっているが、もともと道があったので迷う事は無いだろう。しばらくは何事もなく前に進む事ができた。
ふと道端に目をやると、草むらの中に白い骨が埋もれていた。大きさからして、猪か鹿か……この世界独特の動物かもしれないが。
キラービーが急に大量に発生したことで、この林は今、静まり返っている。動物たちも多くが襲われ命を落とし、残ったものは住処に身を潜めているのだろう。
『美香、キラービーの巣を見つけた』
ダダの声が頭の中に届いた。今朝呼びかけたあの念話を使っているようだ。
巣を作っているキラービーは必ず一体のクインビーと共存している。魔物なので決して女王バチとその子供達ではないのだが、不思議とこの組み合わせで発生する。それは黒い悪魔イブリースとその大型種サキュバスの関係に似ている。
そしてダダの声とほぼ同時に、数匹のキラービーがこちらに飛んでくるのが見えた。
「美香、来たぞ!」
囁き声でガットが呼びかけてきた。美香も頷き、殺虫剤を構える。
シュッ!
シューッ!
2度のスプレーで地面に落ちたキラービーを、ガットが念のため剣で刺す。
危なげない戦いだ。だが本番はここからだった。
「来るぞ!」
「分かってるわ!」
ガットたちに殺虫剤がかからないように、美香が一歩前へ出た。
耳障りな羽音と共に襲い来る、黒い雲のようなキラービーの塊。退きそうになる気持ちを押さえて、前へ、あと一歩前へ。
「さあ、いらっしゃい!」
シューーーーッ
シューーーーッ
左右のスプレー缶から吐き出される白い霧が、黒い雲を包んだ。きりがない程あとからあとから飛んでくるキラービー。稀に集団から離れて一匹二匹、別の方向から飛んでくるのを、ズーラの炎の魔法とガットの剣で落としていく。
予備の殺虫剤もまだ十分にある。美香は容赦なく、辺りに殺虫剤を撒き散らして歩いた。パタパタと音をたてて草むらに落ちていくキラービーたち。
とどめを刺す余裕はないが、おそらくもう飛ぶことは無いだろう。
前へ。キラービーの飛んでくる方向へ。
道を少し外れ、多くのキラービーを落としながら美香が進んだその先には、土で作ったであろう、1メートルを超す巨大な丸い巣があった。
「クインビーが出てきます!キラービーより巨大で攻撃的です。気をつけて」
まだ巣に残っていたキラービーに囲まれて、ダダより大きなクインビーが飛び出してきた。
美香もまた、殺虫剤を噴射する。
次々と落ちるキラービー。だがさすがにクインビーほどのサイズになると、殺虫剤の効きも悪い。ひときわ大きな羽音をたてて、クインビーが美香を目指して、殺虫剤をものともせずに飛んできた。
「美香!」
ズーラが悲鳴と共に、クインビーに向かって炎の魔法を打ちだす。
その炎がクインビーに届いたとき。
ボフッ!
美香の噴射している殺虫剤に点火して、大きな炎がクインビーを包んだ。
辺りに焦げ臭く、殺虫剤が燃える危ない臭いが漂う。
激しい炎に羽を焼かれたクインビーはその場に落ちてもがいていた。
ガットとズーラを下がらせて、美香は背負っていたスコップを両手で持ち、構えた。
「悪いわね、負けられない勝負なの」
美香が叩きつけたスコップで、クインビーは動きを完全に止めた。
もう羽音は聞こえない。
火が残っていないか確認しながら道に戻り、そのままキラービーの林を抜けた。
いよいよ魔王の待つ場所へ……
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