第2話 魔王の前に魔物退治

 フェンスのドーアを抜けてアシドに現れた美香。目の前には、落ち着かない様子のダダとガットとズーラが居た。


「ああ、美香、良かった。声が届いたんですね」


「うん。遅くなってごめんなさい。詳しく教えてくれる?」


「では歩きながら……」


 そう言うとダダはいつものように美香の肩に乗り、指さした。

 魔王はほんの数時間前、今朝早くにいきなり現れた。現れたのはアシドから西の方向に、まっすぐ歩けば2時間ほどの場所だ。今まで行ったことがない方角なので、美香が知っているドーアがない。


「魔王はこの先の木々も少ない平地に突然現れました。巨大な体で辺りの畑を押しつぶしながら進んでいたのですが、今は止まっているようです。付近には住民が100人足らずの小さな村が数個ありますが、現在避難を開始したところです」


 その言葉通り、大きな荷物を持った人たちがアシドを目指して、まばらに歩いている。


 1時間ほど歩いたところに分かれ道があった。この先、まっすぐ進むと魔物の生息地がある。この数か月、多くの魔物が出るというので人通りがなく、踏み固められた道も草が生えて歩きにくそうだ。

 そこを迂回すれば倍以上時間をロスする。美香の破壊力をあてにしてまっすぐその生息地を突っ切るか、もしくは倍の時間をかけて安全な道を行くか。


「どんな魔物が出るの?」


「キラービーです。ええっと、美香の手のひらくらいの大きさの蜂の魔物ですね」


「そ、それはさすがに、危険じゃない?」


「ええ。本当だったら迂回して進むべきなのですが……実はこのキラービーの住む林を抜けたすぐ向こうが魔王の現れた場所なのです」


 キラービーは大きな音などに反応して襲ってくることがある。魔王と戦っている時に背後から襲われたら、かえって危険なのではないか。美香が来る前のギルドでの会議で、そんな話が持ち上がっていた。


「もともと、魔王が出てこなければ、次の討伐依頼がこのキラービーの予定でした」


「数や特徴は?」


「およそ300以上はいるはずです」


 キラービーの特徴は大きな音に反応して襲ってくる事。飛ぶ速度は鳥族よりも遅く、リザードマンでも走って逃げられるくらいだ。ただ、毒針を持ち、刺されると神経系の毒で痺れる。一度刺されたくらいでは平気だが大群で襲われ、痺れて歩けなくなったらそのまま命を失うことになる。


「炎の魔法が有効だから、今回は私も戦えるよ」


 ズーラが魔法の杖を振って声を上げた。火事にならないように威力は調節しないといけないが、ズーラもここ最近の戦いでさらに実力をあげてきたので、コントロールには自信があるようだ。

 ガットは小さくて数が多いキラービーとは相性が悪い。ダダもまた、身体が小さいので一度か二度刺されただけでも危険だ。ダダは上空から、ガットは自分の防衛に徹することに。


「という事は、この林をまっすぐ突っ切るという事でいいのね?」


 スコップは紐をかけて背中に背負い、両手に殺虫剤を構えた美香。ポケットにも、リュックから取り出した予備の殺虫剤を入れた。


 先頭は美香。

 向かうはキラービーの林。

 殲滅の毒霧伝説がまたここに再現される!

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