異世界でパート冒険者しています
第1話 異世界からの呼びかけ
ダダ達の生まれ育ったこの世界は、美香の住む世界と似ているようで少し違う。その最たるものが空気中にある魔力だ。魔力は場所や季節によって濃さが変わり、それがいろいろな影響を及ぼしている。
空気中の魔力は不定期に濃さを変え、数年から数十年ごとに魔物の大量発生が起こる。
そして今が、ちょうどその時期だ。
魔物の大発生時期の一番の問題は魔王の出現だが、魔王に関しては過去のいろいろな文献を見ても一貫した外見や被害状況はない。
山のように巨大で、町をいくつも破壊したというものもあれば、オーガやオークのような人型の魔王だったという記載もある。
それが美香の世界から来ているものなら、どうにかして破壊を止めたい。そして美香の世界とは関係ない巨大魔物だったとしても、やはり何とかして止めたいと思う。家を持って、家族のような仲間がいるこの世界のために。
『美香!聞こえますか?……魔王が……』
この日美香の頭の中にかすかにではあるが確かに届いた、ダダの声。
最初の出会いの時に細く繋がった美香とダダの心は、意識して強く念じるとその想いを届けることができる。だが、距離的に問題があるのか、それとも世界が違うからか、美香が自分の世界にいる時には今までダダの声が届いたことはなかった。
こちらの届くほどの強い想い。そして魔王というキーワード。
ちょうどヒマワリマートの仕事が休みで家に居た美香は、すぐに夫に連絡を入れた。
むこうの世界に行くこと。
おそらく魔王と対決すること。
夜に帰ってこれないかもしれないので、子どもをお願いします。
申し訳なさそうに言う美香に、夫は電話の向こうから明るい声で応えた。
「美香ちゃん、危なそうだったら逃げるんだよ。無茶しちゃあダメだ。家の事は心配しないで。夕方早めに帰れるように、頑張るよ。良平にも浩平にももしもの時は留守番って言ってるから、きっと大丈夫。いい?危なくなったら逃げるんだよ?」
心配性で怖がりだけれど、優しい夫だ。
留守は頼みます!
そうつぶやいた。
魔王が現れてから3日以内に魔王を止める。
それが美香がギルドから請け負った依頼である。
今日は木曜日。できるだけ早く帰ってこようとは思うが、ヒマワリマートには金曜日と土曜日、休みをもらうことにした。
また、ヒマワリマートの先々代店長であり冒険者の先輩でもある隆行にも、連絡を入れた。隆行は今の仕事を片付けてから、アシドに来てくれるという。心強い味方だ。
各所に連絡を取りながら、大急ぎでありあわせの材料でカレーを作る。
「お肉ないけど……あ、これでいいか」
冷凍のソーセージと人参いっぱいのカレーをとりあえず大量に作って置いておく。
後の事は夫がやってくれるだろう。
こういう時は、頼りになるのだ。
荷物もチェック。スコップ、殺虫剤、暖かくなってきたが、防御用も兼ねて薄手のスプリングコートは着ていくことに。
タオルや着替えも少し。他にも今までの冒険で役に立ったものをポンポンとリュックの中に手早く詰めて、出発の準備を整えた。
最後に子どもたちに書き置きを残し、魔王退治に出発。
「前にお話ししましたが、ママは今から、ぼうけんの旅に出ます。
まおうをたおして、勇者になって帰って来るので、
良平と浩平は、宿題をしっかりやって、パパの言う事をきいてね」
「……この書き置きは駄目だと思う」
家に帰ってきたパパがこっそりつぶやいたことを、美香は知らない。
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