第6話 土産

「ってえことは、イールの大量発生は殲滅したが、後片付けは街の住民に任せたってことだな」


「ええまあ。後片付けっていうか、食材をおすそ分けしたわ」


「……まあいい。ギルドで買い取れる素材はないという事だが、そうなると依頼料だけで大した金額にはならんぞ。この依頼はイールの素材を売ることが前提だからな」


 それでも日当ほどの依頼料が冒険者ギルドから出た。今回は駄目になった魔道具があるので赤字だが、美香もダダ達も今は金銭的に困っていないので気にしないことにした。



 アシドに帰ってきた美香たちは三組に分かれて、今回の依頼の処理をすることになった。

 まずは怪我をしたズーラにダダが付き添って病院に。他のメンバーはイールを持って家に帰った。荷物を置いてから美香だけが冒険者ギルドに報告に向かい、残ったガットと花が、イールを捌いて、遅い昼ご飯を作っている。


 美香が報告を終えて家に帰ると、戸を開ける前から甘辛いタレの良い匂いが漂ってきた。


「ズーラたちはまだだ。急いでシャワーを浴びてくるといい」


 幸い今回は川に入る気満々で、美香もしっかり着替えを用意しておいた。泥だらけになった服をビニール袋に入れてさっさとシャワーを浴びると、今まで着てたのと同じような服を着る。


「拭いてあげる」


 トコトコと寄ってきた花が、タオルで美香の頭をゴシゴシ拭いてくれた。


「ありがとう、花。花ちゃんもお風呂に入ったのね」


「ん。ガットが洗ってくれた。ふきふき、してくれた」


 すっかりガットに懐いた花は、嬉しそうにまたガットの傍に戻っていく。

 今日は料理当番のガットも、泥を流してさっぱりした格好で、鍋を振っている。

 出来上がった料理をテーブルに並べている時に玄関の戸が開いた。


「ただいまー」


 ズーラとダダだ。ズーラの腕には包帯が巻かれ、しばらく動かさないようにと三角巾で吊られている。


「傷はそんなに深くなかったから、数日で治るって」


「それは良かったわ!」


「それにしても、いい匂い!」


 テーブルの上には大きな塊のパンと、朝作っておいたらしいスープ、そして中央には山盛りのイールが置かれていた。

 きれいに洗って内臓が抜かれたイールは、輪のままぶつ切りにされ、一度カラリと揚げてある。それを色とりどりの野菜と一緒にもう一度炒めて、甘辛いソースで味付けし、七味に似た香辛料が振りかける。

 伝統的なアシドのイール料理らしい。


「簡単ですが美味しいんですよ」


 口いっぱいにほおばりながら、ダダが教えてくれた。

 美香ももうずいぶん食べ慣れたアシドの調味料の味付けに、にこにこ笑いながら箸を伸ばしている。箸は美香の家から持ってきて、ちょっと前からこの家に置いている。

 たくさん持って帰ったイールは、この後数匹だけ持って帰り、後はガットとズーラで下ごしらえして、保存しておく予定だ。




 イール、つまり巨大ウナギを数匹持って帰った美香。二匹は家にお土産に。残りは先々代の店長である隆行の所へ持っていくことにした。


「おお、これは見事なイールじゃな。ありがとう、美香さんや」


「店長に渡してもびっくりされそうなので家のほうに持ってきました。川で大発生していたので、仲間と捕まえて少し分けてもらったんです」


「そうかそうか。美香さんも順調に向こうの世界に馴染んでおるの」


 笑いながら、隆行からも美香におすそ分けだと言って、かご一杯のイチゴを分けてくれた。


「これはアシドとは別の国で取れたイチゴなんじゃが、美味いぞ」


 新鮮なウナギとイチゴを持って、弾むような足取りで家に帰る美香だった。





ーーーーーー

鰻の血には有毒な物質が含まれていて、生のまま食べたらお腹を壊すこともあるし、調理中に目に入るとかなり危険だそうです。

ただこの毒は熱に弱く、しっかり火を通して食べれば無毒化するそうです。

刺身で食べるのはやめたほうが良いようですね。

あと、ウナギを捌くのはかなり難しいです。

「みみみ美香ちゃん、どうしよう……」

「スーパーの魚屋さんに捌いてもらったから大丈夫よ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る