第5話 撤収
イールの大群に雷の魔法を使うのは非常に危険。そんな注意書きが、近くギルドの魔物辞典に書き加えられるだろう。
ズーラの雷の魔法がイールの雷を限界まで引き出したのか、それともその場に満ちていた電気を帯びた魔力の塊が、同系統の魔法で過剰反応したのか。
理由は分からないが、膨大なエネルギーが消費され、一瞬川は底が見えるほどに水とイールを吹き飛ばした。
過剰な電流はさすがのイールでも感電させたらしく、水中にいたため全てのイールが致命傷を受けたようだ。爆発の後、川に残ったものは上流からの水に流されて、海へと消えていった。水面は平常を取り戻し、その代わりに川の両岸には爆風で飛ばされたイールが散乱している。
「みんな、無事?花ちゃん、大丈夫?」
美香が腕の中の花の顔を覗くと、びっくりしてはいるものの、泣きもせずに怪我も無さそうだ。
ダダは爆風にあおられて土手の向こうまで飛ばされたが、幸いそのまま何にも当たらずに飛んで行っただけなので、無事だった。
ガットも汚れたくらいで大きな怪我はなさそうだったが、一番川のそばにいたズーラは腕を押さえてうめいている。
「ズーラ!」
花を抱いたまま駆け寄って見ると、ズーラが腕から血を流していた。爆風で飛ばされた石に当たって皮膚が切れたらしい。
「水!傷口を洗わなくっちゃ!」
慌てて荷物を取りに行ってリュックの中を探す美香。ズーラは痛みに顔をゆがめながらも笑った。
「魔道具あるから」
そういえばガットの荷物の中には、水が出るコップの魔道具があった。
ガットに水をかけて傷を洗ってもらってから、自分で治癒魔法をかける。
治癒魔法は傷をすぐに治すようなものではないが、消毒して血を止め、回復力を高める。こうして魔法をかけて、しばらく安静にしていれば治りも早いのだ。
辺りの惨状を眺めれば、怪我らしい怪我がズーラの腕だけだったというのは、運が良かった方かもしれない。
河川敷を眺めながら、美香がため息をついた。
「……かばやき、もったいない……」
電撃で半分焼け焦げたようなイールは、細切れにこそなっていなかったが、傷も入って食材としてはそんなに日持ちしないだろう。そして、広範囲に広がっているイールを片付けるのは、自分たちの仕事なのだ。
美香達はうんざりしながら辺りを眺めていた。
「おーい、大丈夫かー?」
声が聞こえて振り返ると、土手の上に数人、町の人らしき人影が。
今日ここで美香たちが討伐に向かったことはギルドなどには知られている。ギルドの人だろうか。あるいは近くに住む人が大きな音に驚いて確認しに来たのだろう。
「大丈夫です、ありがとう!……あっ」
美香は土手の上にだんだん増える町の人達の顔を見て、ふと、にっこり笑った。
「みなさん、イールを討伐したんですけれど、全部は持って帰れないので、ここにあるものをみんなで拾って持って帰りませんか?」
町の人達は顔を見合わせて相談し始めた。
「大丈夫!食べられそうですよ。まだ新鮮!私たちもほら、こうして集めて持って帰りますから!」
美香が吹き飛ばされているスーパーのかごを拾い、そばに落ちていた綺麗なイールを拾い集めて入れていった。
それを見ていた町の人も慌てて、今日の晩御飯にとイールの残骸を拾い始める。
そばに寄ってきた冒険者ギルドの職員らしき人にお願いして、町の人にイール拾いを委託した。
「では、後はお願いしますね」
「こちらこそ、討伐した獲物を分けていただいて、ありがとうございます」
ギルドから町に伝令が走り、さらにイール拾いの住民が増えてきた。
こうしてまんまと後始末を海辺の町の住人に押し付けた。しかも美香はちゃっかりと自分たちも、食べきれないほど大量のイールをスーパーのかごに確保している。
こうしてたくさんのお土産を持って、昼頃にはアシドへと帰っていった。
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