第7話 遠征
平地は春の日差しに花がほころぶ季節だが、山の上のほうもようやく雪が消えてきた。先日はギルド主導で4組の冒険者たちを集め、滝壺の巨大竜魚を釣り上げるための討伐隊が組まれた。
竜魚の大きさは1メートルを超えていたが、その分数を減らしていた。
丈夫なロープの先に大きなかぎ針を結び、鶏肉をつけて滝壺に投げ込めば、間髪入れずに数匹の竜魚が襲い掛かってきた。
それを綱引きの要領で数人がかりで引き揚げて、地上に上がってくると同時に魔法使いたちが冷凍の魔法をかける。寒さで動きが鈍った竜魚の急所を狙って止めをさすのは、力自慢のリザードマンの剣士たちだ。
何度か竜魚の鋭い歯で綱を噛み切られたり、肉だけをちぎって逃げられたりもした。陸に上がって暴れる竜魚のヒレが当たり、怪我をした冒険者も。
だが、順に一匹ずつ地上に引き上げてから倒すので、大きな被害はなかった。滝壺に見える範囲の竜魚は全て釣り上げらた。その数9匹
数は少ないが大きさは倍近くに育っていたので、素材になる鱗の価値も数倍に跳ね上がっていた。
竜魚の肉は半分はギルドの買い上げ、残った半分は参加した冒険者で分けたので、美香たちも1匹分の竜魚の切り身を確保できた。その味は前に食べた竜魚とは比べ物にならないくらい濃くておいしい。成長は間違いなく、味に大きく影響しているのだろう。
一時冒険者達で賑やかになった滝壺の裏の洞窟だが、今は再び静けさを取り戻している。ただ雪解け水が滝の上から轟轟と音をたてて滝壺に落ちているだけだ。
そんな滝壺の裏の洞窟に、今日は美香、ダダ、ズーラ、ガット、花の5人が、それぞれ大きな荷物を持って、やってきた。
この滝壺のドーアは、花が発見された場所に一番近い。ここから少し先の村が、この付近で一番山奥の村になる。
雪男が目撃されることも多い村である。
今日は、花の家を探すのが目的なのだ。
ダダのカバンの中には、ギルド長から預かった親書が入っている。新たに発見された種族との交流を目指して。
問題は、花も自分の住んでいるのがどの辺りかがよくわかっていないという事だ。
従って、花の村探しはかなりの困難が予想される。山の中なので、ここから先はドーアもない。
なので美香にとって、今日は初めての異世界お泊り体験(しかも野宿)なのだ。
土曜日のヒマワリマートは休みを取って、家の事は夫に任せてきた。
「ママ、気をつけて、花ちゃんの家を頑張って探してきてね」
子供達の面倒はしっかり見るから!という夫の力強い言葉に見送られ、大きな荷物を背負ってフェンスのドーアから異世界に入った。
この土曜日、日曜日の二日間で、どうにかして花の家まで辿り着きたい。リュックの中には数本の殺虫剤。手には杖代わりにもなるスコップを持って、ダダ達と合流してここ、滝壺のドーアまでやって来たところなのだ。
「さて、ここから森を抜けるのだけど、森には厄介なものがいたわね」
木の上から蔓を伸ばし、巻き付いて血を吸う厄介な植物系魔物だ。それが、この滝から外の道へと向かう途中の森に群生している。
今回は最短距離で山に向かいたい為、吸血葛の森を抜けて行くことにした。
大丈夫。対策は考えてある。
吸血葛の生息する森で悠々と生きる蝶型の魔物リーフモス。
「そのリーフモスの幼虫が、動きが遅いのにどうして吸血葛に捕まらないのか。その答えがこれ!モススプレー!」
ズーラが荷物から取り出したのは、不気味な緑色の液体の入ったスプレーボトルだった。
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