第6話 食事
受け取ったこの家の鍵は、美香のキーホルダーにむこうの家の鍵と一緒に付けた。少しだけ小振りのちょっと変わった形の鍵はチャームのようで、それもまた嬉しい。
ガットが買ってきてくれた昼ご飯は、毎回みんなが持ってくるお弁当と同じくらいの量。無口で不愛想に見えるガットが意外とよく見ていて、気を遣う性格なのだと分かった。
主食はピンポン玉くらいの丸いパンに、辛みのあるソースや甘酸っぱいジャムのようなペーストを塗ったもの。色々な味を楽しむのが、今この町で流行っているパンの食べ方らしい。
ちなみに、依頼で遠征するときには硬めの大きなパンにハムや野菜をどーんと挟んだものを持って来ていることが多かった。
おかずは焼いた肉を木串に刺したもの。
サラダらしい手のひらほどの緑色の葉っぱ。
具が少しだけの透明なスープ。
豆っぽい何か。
紫色のジュース。
一般的な食べ物はほとんど大丈夫だろうと、オーガの先輩であるタッキーには聞いている。それでも初めてのこちらの食事は、いざという時の為に下剤とズーラの治癒魔法を準備しながら恐る恐る始まった。
最初だけは。
「わあ、これ!美味しい。このお肉何だろう?本当に匂いや癖がなくて、ソースがピリ辛だからすごく美味しい!」
「あ、このジャムは良いわね!買って持って帰りたいくらいだけれど、第4倉庫経由だとむこうには持ち込めないのよね。隆行さんに相談してみましょう」
「うーん、栄養はありそうだけど、この葉っぱ、苦いわ。え?肉と一緒に?……あら、不思議!」
最初の一口、二口くらいはゆっくり食べていたが、物珍しさと美味しさに次第に自制を忘れ、次々といろいろな物に手を伸ばしていった。
お腹が痛くなることも、気分が悪くなることもなかったのは幸いだ。
テーブルの上に置かれたいろいろな食べ物を、みんなで少しずつ取り分けて味見した。丸いパンはモッチリして、どこかで食べたような味だったが、豆みたいな何かは思いがけず酸っぱい味がしてびっくりした。
串焼きが何の肉かは、今度見つけたら教えてあげると言われて、少し不安になっている。
全体的に味は薄めだが、スープは塩が濃かった。
身体が小さいダダも、同じようにパンや肉を持って齧っている。ガットは美香よりずいぶん小さいが同じくらいたくさん食べるし、ズーラは野菜よりも肉が好きなようだ。
夢中で食べて、テーブルの上がすっかり空っぽになった頃、ようやく美香が気付いたことがある。
「そう言えば、食事代を払わないといけないわ」
「ああ、そうですね。いえ、これは引っ越し祝いという意味もあるので、今日の分はいいけれど、現金を持っていないのも困るかもしれませんね。次に来た時には、ギルドで現金を引き出してみましょう」
「えっと、じゃあいいのかしら?本当に?」
「美香からは装備ももらっていますし」
あの給食セットは、服が汚れそうなときや殺虫剤を使う時に、もう何回か活躍している。
アリジゴクの時は砂ぼこりが主だったので、埃避けに役立った。
元々汚れが付きにくい生地なので洗濯してすっかり綺麗になっている。
「ではありがたく。お祝いしてもらうわ。本当に美味しかった。ごちそうさまでした」
お礼を言ってテーブルを片付けて、これから先の討伐の予定を話し合った。
来週はまた新しいドーアに向かって歩くことになる。
まだ魔王が現れる兆しはない。
今のうちに様々な魔物と戦って、魔王が現れるまでに実力をつけておかないと。そんな風に、考えるようになってきた美香だった。
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